外出するまでの20分でどこまで書けるかテスト。



家電業界が誇る経営軽視の歴史

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20121103



 ちきりん女史の見方について、賛同しつつも、見落とされている部分が多いので、そのあたりを指摘しようと思っております。また、処方箋についても。



■見落とされている”経営軽視”の点



・重いのは販売コスト



 ちきりん女史のテキストには価格支配力が量販店等リテールに奪われたという点が問題視されていましたが、実際のところ欧米の製造業においても価格統制の役割は大手チェーンストア側が握っており、消費者により近いところで価格が決まるモデルというのはこんにちの商品流通においては当たり前であって、家電に限らず化粧品、自動車、旅行チケット、ゲームソフトなど中古市場があるないに関わらず結構常識的になってきている分野です。



 強いてちきりん女史の言説を補強するのであれば、販売を行うにあたって量販店からの”逆襲”を恐れて一番利幅の高いコンシューマーに対する直接販売の道を積極的には拓いてこなかった営業戦略上の問題ということもできなくもありません。


 実際に、AVメーカーやエレキの人たちと話しておりますと、日本では伝統的な販売手法として販社を設けそこに社員を貼り付けて膨大なコストをかけて販売ルーチンを回しているのに対し、海外事業については内-外であれ外-外であれ意外に量販店等の販売ルートよりもダイレクトに消費者に販売するシェアが上がっています。



 ここの部分の販売チャネルの改革に失敗した家電メーカーは経営の責任で利益をすり減らしたといえなくもないかなあと思うところです。



・コモディティ化への対応



 実際のところ、売上高の減少に伴って供給過剰に陥り、また国内生産や部品調達の高コスト化が進んだ結果、国内人件費が賄えずに構造改革費を大規模に捻出、大幅赤字に転落しているのが某家電メーカーであります。参考にされるべきはむしろルノーであり日産でのゴーン改革に近いV字回復狙いの装いと言えるでしょう。



 ただし、実際にコモディティ化への対応は各社のグループ決算を見ますと容易に理解できる通り、日本を解さない外-外でのトレードで対応している会社がほとんどで、日本国内が改革に取り残されているのは日本市場特有の消費者対応問題があるからとも言えます。つまり、国内市場はコモディティ化して低価格路線を邁進するだけではなかなかシェアを確保できない割高な市場であるとも考えられます。



 某エレキの場合で申しますと、マーケティングの建て直しで売り上げを回復させようという路線を取り続けて早四年、うーん、といったところであります。



・輸出入について



 貿易立国の象徴としての家電のヘゲモニーはすでに終わっており、完成品市場に対する海外シェアは日本発の輸出という点では横ばいから低下に転じてもう12年ほど、いまさら家電業界は国際競争力が云々とか評論している間もなく海外に生産拠点を移し、輸出競争力とは違った意味で拠点の多国籍化を推し進め、現在では外-外が各社相当な割合を占めております。



http://www.jema-net.or.jp/Japanese/data/kade.html

http://www.jema-net.or.jp/Japanese/data/kairi.html



 家電部門における貿易収支の悪化については完成品市場においてはもはや修復は不可能ですが、部品など資本財の輸出や知的財産権分野での収支はプラスに転じて埋める格好になっており、いわゆるキーデバイスや高品質素材の製造、輸出に日本の産業がシフトしているため、家電業界を考えるにあたって最終製品の優劣やシェア、利益構造で語るのは間違いなんじゃないのという気も致します。



・所得収支について



 各社グループ決算を見ていただければと思うんですけど、かの潰れそうな某社も巨額赤字を計上した某社も黒字になっているのは海外製造子会社です。海外で作って海外市場で戦う外-外と、海外で作って日本市場で捌く外-内が利益の源泉であり、その部品構成における日本のシェアは4割台から多くて7割台と高めに推移していて、「だからこそ家電業界はクズなんだ」という議論は早計じゃないかと思うわけです。



 むしろ海外でおおいに稼いで日本に還流してくるという仕組みの中で競争力をどう確保すんのかという話になっており、それらは貿易収支ではなく所得収支が日本を支えていることになるので、我が国はこういう商人国家というか商館立国のような感じになっているとも言えます。



 ちきりん女史のグローバリズムを甘く見たという指摘はある程度においてもっともで、ほんとこれからどうするんだろうねと思うところであります。一方で、資本集積を進めようにも国内だけでの統廃合はなかなかできませんし、キーパーツ特化と知的財産に寄与するR&Dの強化でどこまで経営強化していけるのか、という点で悩みは尽きません。



■ここで20分ほど経過したけど続けますがシャープの話



 シャープの経営難をバーカwwwと詰るのは簡単です。ただ、いろいろな経緯はともあれ、液晶こそが次世代の表示系パーツの切り札として経営資源を液晶に集中し、リスクを取りにいった経営を否定するのは良くないことかとも思います。というか、最終製品のメーカーとしてのシャープの生き残りを悲観し、キーパーツ、キーデバイスを押さえて世界市場で戦える生産拠点を作ろうと判断したシャープは相応にギャンブラーであり、現在の苦境はその賭けに負けちゃっただけ、と見ることも出来るからです。ギャンブル外れてバーカというのは簡単ですが、リスクを取れない日本企業、と揶揄しながらも、きちんとリスクをとりにいってはいたシャープのそこのところをコケにするのは矛盾が大きいと思います。



■子供が泣いてるけど今後の話



 ちきりん女史が指摘するように、海外市場で日本企業がどう戦うの? というのはとても重要なポイントだと思うのです、今後景気が大きく後退する懸念のある世界経済において、成長力の乏しい日本が外需をエンジンとして一定の成長力を担保しない限り社会保障費の増大などの負担をこなすことは無理ですから。



 そんな中で、日本が成長を維持し、国際競争力を保っていくには、結局のところ成長市場に日本企業が投資し出て行って、そこで現地の人と一体となって稼ぎ、そこで得たお金を日本に持ってくるという、どこぞで見たポルトガルのような方針しか考えられないのも現実だと思います。日本人がいまから爆発的に増えますとかでない限り。



 それは、加工貿易立国といわれた日本の成長ストーリー、それを支えた最終製品製造業者としての家電業界からの発展的な脱却も意味します。恐らく次に来るべき日本の姿は商人国家、商館立国、債権大国といった、よりマーチャンティズムに寄った海外への投資と回収、そこで得た金で日本国内の経済や社会保障を回す仕組みだといえるでしょう。



 なお、一部経済論述で「家電なんていらねーよww」みたいな言動はありますが、自動車ほどではないにせよ、家電を持っていることによってシェアとは別のところで製造業の裾野や、その裾野があるゆえに得られる製造業的知見というものもまたあるわけで、内需があるから外需は捨てていいよねという議論が成立しないのと同様、あんま家電業界をいじめてもしょうがないだろとも感じます。



■もう出かけるよ出かけるんだよ



 そういう日本の世界観でいいますと、GATT以降の世界貿易体制の受益者でもあるので、この体制を一日でも長く安定せしめ、日本に有利な貿易体制を維持しておかないと日本に富が還流させづらくなるよなあというのが悩みです。TPPが良いのかどうかもイマイチ不明です。



 mixiの倒産を心からお祈りしております。