虚構新聞をまつわる議論がとても面白いわけです。



 以前、虚構新聞の本『号外! 虚構新聞』ってのが出てて、なんぞこれと思い即買いをした私にとって、虚構新聞はクソ楽しいサイトです。以前、開発を委託した業者に微妙なスマホアプリを出された虚構新聞社主がTwitterで右往左往していたのも私にとっては楽しい思い出です。



 いわゆるネタサイト、ジョークサイトとしての虚構新聞は大きくなりすぎました。風刺をしたと思っても、馬鹿から見れば自分が刺されたと思ったり、騙された自分に腹が立って逆切れして風刺した奴をDISるという行動は自然です。いろんな理屈が虚構新聞周りでありました。Finalvent爺までもが参戦しているのを見て、分かった。これは盆踊りなのだ。真ん中に櫓が立っていて、その上には虚構新聞がおり、我々はその周りを踊っていて良いのだ。それは、ひたすらに誰かを馬鹿にする虚構新聞がおり、馬鹿にされた奴も騙された奴もみんな変な踊りをして許される環境こそが、残念なウェブと梅田望夫に揶揄された我が国のウェブそのものなのだと思い至るわけであります。


 その上で、虚構新聞に対してかなり本気でマジ切れしている人たちを散見いたします。何に切れたかと言うと、こちら。



橋下市長、市内の小中学生にツイッターを義務化

http://kyoko-np.net/2012051401.html



 わはははは。そんなわけねーじゃん、と後になってから言えるわけで、騙された人も「おっ」と思ったあいつも、結局は「橋下ならやりかねない」ということで、「事実くせえぞこれは」ってんでタイトルだけ読んで拡散した人がいっぱいいたということでしょう。確かに、タイトルだけ見て「こういうことらしいよ」と言われると信じる人が出てもおかしくはありません。まさにリテラシー。情報に接して、真偽を確かめようとする基本動作のあるなしの問題であり、またそれはそういう手間をかけて真実かどうか知ろうとするかどうかの部分でもあります。



 虚構新聞は、そういうネットそのものというよりはネットを利用して情報を摂取している人たちに、凄い踏み絵というか地雷を踏ませ続けているわけですね。当然、この記事に限らず騙される奴がいっぱい出てくる。私も何度も騙されましたし。リテラシーに絶対水準などない、あくまで確率発動のスキルなのだ、ということを思い知らされる気分です。



 で、当然ですが漣がネット内に立つわけです。関連記事を40個ぐらい読みましたが、みんないろいろ考えてるんですね。そのうち10個ぐらいをピックアップしてみましょう。



1)メディアを面白くなくさせる奴等

http://www.nurs.or.jp/~ogochan/essay/archives/3789



 トップバッターはおごちゃんです。ええ、あのおごちゃんです。「ちょっと調べれば虚構新聞だと分かるんだから、つまらんケチつけてねえで騙された奴は素直に反省しとけボケ」というお立場であります。一理ありますね。



 切り口がメディアとしての面白さ、面白い奴が楽しむプロセスになっていて、軸足がはっきりしているので原始ネット社会の面白さを維持したいという古典派ネットユーザーの立場ではないかと思います。



2)虚構新聞騒動に見る「弱者の論理という狂気」

http://togetter.com/li/304472



 Togetterからは、加藤AZUKIさんをピックアップ。騙された馬鹿を弱者と見立てて華麗に立論している点がかなり秀逸で、上記おごちゃんとはまた別の立脚点となっていて興味深いわけです。ジョークを事実だと思い込んだ弱者の権利主張によって、ジョークを言う側が格別の配慮をしなくてはならなくなった、という、いわゆる「有名になるということは馬鹿に見つかるということ」という立論に近い、味わい深い議論です。



 落語も含めてジョークに対する許容性、風刺のポジションの変遷といった別のツイートも面白い。最高です。



3)虚構新聞に関してポジショントークする人々の16種類の本音

http://ulog.cc/a/fromdusktildawn/17450



 事象をメタで斬ろうとする安定の芸風でリアクションを分類しているのはこちら。@fromdusktildawn氏のアプローチは明確で、信頼できますね。唯一、本気で信じて騙されて、クソサイト死ねと思っている人が一定割合いたらしいという点が漏れているのが気になるところではありますが、そういう本当の意味での情報弱者ってサーチしてもなかなか引っかからないんですよね。生まれたころからオーディエンスというか。



 ご自身も、是非自分のポジを確認してみてください。なお、私のポジションは(1)と(3)です。



4)虚構新聞は風刺サイトじゃないよね

http://d.hatena.ne.jp/NOV1975/20120516/p1



 おなじみ、NOV1975氏の記事。ネットで語られる際の事実関係と文脈に焦点を当てて、下衆サイトであるところの虚構新聞についてのあり方をきっちりと論じております。一理ある。確かに実在の人物が言いそうなことを捏造して面白記事に仕上げているわけですから、少し調べれば分かるだろ的な議論に対する有力な反論として成立しており、相変わらず立論がしっかりしているなと思うわけです。



 むしろ、個人的にはネットの敵として虚構新聞社主には一層の奮励をとか思ってしまうのは野次馬根性が強すぎるからでしょうか。



5)[WEB][雑記]『虚構新聞』とネットリテラシーの限界

http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20120516#p1



 琥珀色の遺言からはこちら。率直に橋下の話題はデリケーツだなあという感想から入って、ウェブリテラシーを人が往く道と喩え、いずれ人はリテラシーを極めてゆく、みながそのプロセスにあるのだ、という、なんだか天竺に巡礼に旅立つ人々のような世界観が前面に出ており好感が持てます。こういう立論は大好きです。



 つまり、騙される人も騙されないようになっていく過程であり笑うべきではない、騙されない人は騙された結果の反省として前に立っているので怒るべきではない、という、そういうグレーゾーンの外角低めにストレートを投げ込んだ虚構新聞は「耐性をつけるための雑菌であり、必要悪」的なアプローチで締めています。必読です。



6)虚構新聞社主の悲しい勘違いによる主張をはい論破

http://anond.hatelabo.jp/20120517123355



 匿名ダイアリーからはこんな議論が。昔からあるテキストサイト文化を引きずって、ネットだからネタで許される時代ではないのだ、文明開化せよ、というごもっともな主張であります。もう洒落にならないのですよ、というのはその通りで、各論のところも短い文章で断定的な言説でありながら程よい説得力になっております。



 確かに、虚構新聞が今回のグレーゾーンな記事によって、最終的には言ってもいない橋下徹さんの発言を捏造したのだ、ジョークだとしても許されないという批判は成立するので、線引きについては個々人がどこまで問題視するべきなのか考えるのも一興でしょうね。



7)「虚構新聞」の事を語る前に、まず「東北大学助教授レポート」の件を考えようよ

http://damedesu-orz.org/kimlla/archives/site/201205162222.html



 kimlla氏からはこちら。もともと、ジョークのつもりで書いた話がネットの中で一人歩きして、さも事実であるかのように定着してしまうことの恐ろしさを、一時期話題になった「東北大学助教授レポート」ネタを例に立論しています。確かに、ネットは出所不明の情報の宝庫であり、虚構新聞がジョークだ風刺だと思って書き連ねたネタが、最終的に物事の分別を弁えられない馬鹿によって流布されて、最終的には事実とネットで周知され、本人が言ってもいないことで迷惑を被る可能性は否定できません。



 筆者自らが「世知辛いことよ」と書いている通り、ウェブが一般化したことによって、とても窮屈になり、この程度のジョークですらも自粛しなければいけないほど批判されうるのか、という締めも素晴らしいです。



8)虚構新聞の件をデマ扱いするのは納得できないというお話

http://d.hatena.ne.jp/itotto/20120516/1337187664



 問題を整理していって自分の意見として咀嚼していく過程がそのまま記事になっているのがitotto氏の記事。問題を虚構新聞そのものと、騙された馬鹿に分けて立論していき、最終的にはガセネタを流されて迷惑する形となった橋下さんがどう考えるのか次第だ、という落ち着きどころに綺麗に着地しています。



 こういう率直な考えの人が恐らくマジョリティなんじゃないでしょうか。記事としてはリアルすぎてアレだけど、面白かったし、まあジョークサイトなんだからからかわれた橋下さんがどう思うかでしょ、みたいな。



9)[その他]虚構新聞だからデマでも許されますって思ってる奴今すぐ死ね

http://d.hatena.ne.jp/kyoumoe/20120515/1337015051



 こちらも率直に「虚構新聞がデマを流して許されるわけねーだろ」という立論でありまして、これの派生はさまざまあれども基本はこちらの考え方がベースになろうかと思います。言葉尻も強く、非常に安定した議論の運びで美しいですね。ジョークサイトであることは別として、仕掛けとして騙す気が満々であるという批判がトーン高く展開されており、当然騙された人たちはガセネタを掴まされるべくしてそうなっている、したがってサイトそのものがあり得ないだろ、という論理になっています。



 素晴らしいのは、徹頭徹尾虚構新聞がジョークサイトであることを弁えた上で、発生する悪作用について論じていること。非常に効果的な指摘であり、またジョークは容認されるべきという論旨にまったく触れないあたりもディベート的でいいですね。



10)いい加減、虚構新聞はタイトルに虚構新聞だと明記しろ

http://n-styles.com/main/archives/2012/05/15-050000.php



 鋭い論考の多いn-stylesから。後段の虚構新聞社主のツイートに対する反応の応酬が、論点を浮き上がらせるのに絶妙なのが印象的です。「『電子レンジを猫の乾燥に使わないでください』という注意書きと同じレベル」に対し「私の要望は『電子レンジの箱には、電子レンジと書いて欲しい』」というのは、実にエッジの立った議論だな、と思います。



 こちらでも、昔のネットの流儀のままでの注意書きや、記事タイトルの吐き出しで虚構新聞と分かるように書け、というのはベースの議論として安定しています。やはり、ジョークはいいけどジョークが一人歩きしないような方法は考えろ、という論調が落としどころとなるでしょうか。



11)虚構新聞は誰でもなくインターネットに殺された。

http://anond.hatelabo.jp/20120516180543



 さらに、この匿名ダイアリーではガセネタの一人歩きから、いわゆる2ちゃんねるまとめ系サイトのソースロンダリングにまで踏み込んで、馬鹿を釣る仕掛けとしての強いタイトルがネットの情報流通に悪しき影響を及ぼしている、という認識を綺麗に展開しています。ごもっともですね。



 多くの読者を集めネタの発信源となった虚構新聞が、その品質の高さゆえに、リテラシーの低い読者をも呼び集め、またPVが稼げればそれでいいや的ないまのウェブの流儀の中で「虚構新聞対その読者」という構図を超えて物事を考えるべき状況になったのだ、という立論が光る、非常に良い記事です。



12)なんか、また釣られた人が吠えているようだけど

http://d.hatena.ne.jp/tonan/20120515#p1



 tonan氏の議論もまた、オーソドックスな「ソースは確認するべき」という原理原則に立ち返っての立論でもあり、一方で信頼性の低そうなタイトルを引用してTwitterなどで拡散する人そのものの問題も置き去りにしないほうが良いのではないか、というテーマを、あまりにも象徴的な東スポを使って論じています。



 東スポが可哀想な気もしますが、ソースとしての信頼性を確保せずに拡散する馬鹿な「普通の人」によって、普通のジョークサイトすらも微妙な扱いにされることを嘆いているように見えます。



※ 一連の議論の中で



 古き良きテキストサイト文化の名残を感じさせる虚構新聞のジョーク、これは品質が高いし面白いという人も多いからこそ、愛されて拡大してきたのでしょう。



 一方で、タイトルだけで先導的に煽ってPVを稼ぐクソブログ(ここ含む)が増えたり、文字数に制限があるコミュニケーション(Twitterなど)が主流の一角になったことで、虚構新聞のジョークがジョークと認識されずに拡散されていく、という問題が出てきたわけですねえ。しかも、その理由は虚構新聞のジョークが「いかにも橋下がやりそうだから、事実と受け止める人が続出してTwitterなどで拡散された」というクソのような展開であります。



 何度もリテラシー、という言葉が出てくるわけなんですが、タイトルだけ引用されるとわざわざそのタイトルをコピペして検索エンジンにかけるという手間をかけるのもどうかと思うわけです。興味を持たない限り、一文そのタイトルだけ読んで「へえ。橋下もそこまで凝ってるのか。アスペルガー乙」としか思わない人も多数出かねないので、今後は何らかの配慮が必要になっていくのでしょうねえ。



 しかし、虚構新聞には最後まで突っ走っていって欲しいと思います。こんなぐらいでは収まらないぐらいのね、もうネット史どころか次世代の教科書に載ってしまうような、画期的な大事件の引き金を引いて引いて引きまくって欲しいと思うわけですよ。そして、ここにいる私たちネット住民がその凄惨な事件の生き証人として、子々孫々語り継いで、いまお前が使っているパソコンやスマホなんかが家宝として床の間のところに飾られる日が来るのです。



 時は過ぎて虚構新聞は成長し10万人を養う巨大メディアコングロマリットとなってトヨタに次ぐ大輸出企業としてジョークやガセネタを世界各地に輸出、世界中の紛争の影には虚構新聞ありと囁かれ陰謀論の拠点となってベンジャミンに叩かれ、やがて有り余るその財力でmixiを買収して笠原健治を征夷大将軍として祭り上げ練馬幕府を開いて見事はてなと合併、さらにガイアックスやサイバードやケイブやインデックスなど子会社四天王を率いて中国共産党に宣戦布告し、なぜか戦場が朝鮮半島になって一進一退の大乱戦になって焦土と化したのちの新年祝賀会で社主がのどに餅を詰まらせて惜しまれつつ逝去して国葬が出て遺体は宇宙エレベーターに乗って池田信夫と共に宇宙へ放出されて星となった、ありがとう虚構新聞。