民間事故調の資料とかつらつら読んでいて、最初は斜め読みだったのが、実はこれは凄い資料だと思うようになってきたわけです。回覧されてきた資料は抄訳ですが、USの事故調査資料との食い違いも少なく、オペレーション・トモダチに至った背景も日米で同じ認識なので、資料としては一級品のものになるのだろうと思います。

 一般の公開はどうなってるのか良く分かりませんが、本が出るらしいです。

福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書 3.11 緊急出版が決まりました
http://rebuildjpn.org/fukushima/report
福島原発事故独立検証委員会 報告書発表会見 2012.2.28
http://www.youtube.com/watch?v=B6zZt-psVGQ
 で、敗軍の将、兵を語る的な抗弁が日経ビジネスに掲載されておるわけですが、首相を辞しても政治的なポジションがいまなおあるとはいえ、外野から見ていて「貴方が語るべき事象のポイントはそこではないでしょう」というお話が満載になっていて興味深いのです。

前首相、3・11の真相を語る
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120316/229865/

 「情報を隠すつもりはなかった」というのは正直どうでもよくて、このトップは「情報が上がってこなかったので、自分が動いて情報を取りにいきました」という不規則な動きが結果として現場の事故対応の遅れを呼び、現場が混乱しただけではなくアメリカ政府も日本政府の当事者能力を疑って大規模な救済作戦をオバマ大統領が決断してしまい、「事後的に」日本と救済作戦の内容を調整する(まあ、これは自衛隊にとっては仕方がないことだけど)という流れに繋がっていくわけですね。

 いわゆる太平洋戦争における失敗の教訓に類する本は山ほど出ていたけれども、あの日本が灰燼に帰した敗戦を呼び起こした無謀な戦争も日本というシステムの問題だとするならば、今回も首相に情報が上がっていかないいまの日本のシステムの問題と言える。そのうえで頭を抱えるべきは、戦後60年経ったけど

「太平洋戦争を起こした当時の日本政府よりも、福島原発問題に対処したいまの日本政府のほうが劣化している」

という現実だろうと思います。

 枝野さんや細野さんが、要所要所でまともな仕切りをしていたのが最終防衛ラインとなって、恐らく序盤の枝野さんか、オペレーションが転がり始めるところでの細野さんのいずれかが欠けていたら、文字通り今以上の惨事となっていた可能性は否定できないでしょう。途中で保安院が駄目だとなって、首相官邸の人員や経産省、資源エネルギー庁のまともな官僚が統括し始めると、情報が回り始めて解決の段取りへ進んでいくあたりも「遅い」とか「有事って」などと読みながら突っ込みを入れてしまうのであります。

 福一に関して言えば、戦後日本の有事対応に関する実践的なストレステストだったんじゃないかと思うぐらい、クリティカルな一件でありました。このまんまじゃほんといけません。

 もっとも、US側の資料でもありましたが、日本は透明性が高かったことは評価されておりました。菅さんがいちいち抗弁しなくても政府が情報を隠すだけの一体感がなかったことは理解できると思います。また、最終的に混迷した日米の架け橋となったのは、結局細野さんと見かねた現役高級官僚たち、そして日本企業がアメリカで雇っていたロビーの皆さんだったようで。やれやれ、と思います。

 たぶん、同様の事態が日本政府だけでなく日本の組織で相似形として存在していると思うので、綺麗事ではなく旧弊の打破には鋭意継続して進めていかなくてはならないと改めて思ったのでありました。