関係各所への通達をまだ全部は済ませていないけど、報道が行われる可能性が高くなったので書く。

 「業界に詳しくない」とか、私のブログを全部読んでなお「何が問題なのか分からない」とか感じる方は、次の2つの記事をしっかり読んでください。

ゲームのパクリは許されるのか?――グリー&DeNAが開けた禁断の扉
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1203/08/news056.html
すべてにソーシャル要素が入る時代に突入!ゲーム産業は再編に備えよ
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20120307/1039943/?P=1&rt=nocnt

 まあ、和田社長が仰るように、すべてのメソッドがソーシャルゲーム的な機能を具有して統合されていく過程にあるインタラクティブメディアとしてのゲームコンテンツが、その表現技法の類似、剽窃を巡って対立し、GREE対DeNAの殴り合いになったというのはある意味で必然であります。当初は、パチンコ業界同様、カネを生むコンテンツを作るためのIP争奪戦となり、次いで、多くのお客様の動員を図るための誘導枠を巡る争い、そしてそれはプラットフォーム業者からの出資を受けて、他の会社よりもより良い広告枠、誘導枠を提供してもらうための忠誠度争いへとシフトしていきました。
 その道中、そこそこ著名な版権を擁してスタートしたはずのソーシャルゲームが、その品質の高さにもかかわらず集客に苦戦して没落、かわってオリジナルだけどどこかで見たような”安全な”エンジンに搭載された流行のカードバトルのほうが利益率が高くなる傾向が強かったことが、問題に拍車をかけた部分があります。

 要するに、開発費用を低減させ、運用能力と広告枠・誘導枠で射幸心を煽り収益性を高めるというアプローチがこの業界の最後のゴールデンルールとなったため、ゲームとしては5を押したりタップしたりするだけで丁半博打ができるシステムであればよく、あるいは効率よくいま流行しているゲームをパクればそのままガワだけ別のIPモノにし(不良モノやファンタジーなどカードゲームにしやすいバラエティあるキャラクターもの)、あとは大量の広告宣伝を押し込めば、プラットフォーム業者の集客力頼みでコンテンツが売れていくという方法論ですね。

 ここまでは何の問題もないのですが、障害になるのはスマホ時代になって「ガラケー時代よりもできることが多くなったこと」と「流行のゲームシステムに対するお客様の飽きる速さが上がってきたこと」。したがって、他社のコンテンツ、それもどれも似たようなゲームシステムである以上、競争の源泉は「プラットフォーム業者の協力を取り付けて多くのお客様を流して込んでもらうこと」と、その「お客様が逃げないだけの美麗なグラフィックや追加要素をどんどこ追加できるようにすること」で、結果としてプロジェクトあたりの制作費用の持続不可能なほどの上昇という問題が起きるわけですね。

 当然、プラットフォーム業者は賢い人が多いのでこの問題に気づいておりまして、途中で雇用したゲーム業界の人間や、その人間にぶら下がる形で下請け業者に入ったところに対して「このゲームをパクってください」と明確な指示が下りてくるわけですよ。それはもう、平然とこれを真似て企画を出してくださいと。

 例えば、ガンホーが少し当てたパズルアンドドラゴンズというゲームがあるんですが、今後これと似たゲームが梅雨と前後して大量にリリースされる予定です。メイン戦闘は従来と変わらず、戦闘効果のところは5押すだけのところがパズルのゲーム性になっている奴ですね。

iOSアプリ「パズル&ドラゴンズ」,配信4日で国内トップセールス1位を獲得
http://www.4gamer.net/games/049/G004989/20120224058/

 仕事を請ける側からしますと、真横が知財関連の砲撃戦が続いているところであるにも関わらず、その戦場を縦断するようにパクリゲーを作れという相談が来るというのは、実に誠に非常に真に踏み絵であるというか、忠誠があるなら地雷を踏みに逝けと言われるも同然の話なのであります。

 で、今回問題となるのは踏み絵を踏んじゃった会社であります。だいたい、ゲーム業界の長い下請けだったり、オンゲ業界で喰えなくなったところが、一番下の死に兵要員となり、元発注はプラットフォーム業者から資本の入った上場会社か上場を目指す会社で、具体的な方向性指示はプラットフォーム業者から下されるという、とても悲しい構造があります。

 死にそうな会社とはいえ、長年やっているところはゲーム会社に納品してきた実績があります。何度もデスマーチを潜り抜けてきたベテランのディレクターがいて、意味不明で不条理な指示を平気で出してくるゲーム会社のプロデューサーの無理難題をこなす力がある人がたくさんいて、安い給料で働いています。

 ただ、知財とか資本とか、そういう作戦級から上の概念の兵站の話になると、とたんに思考が停止して、プラットフォーム業者の下請けから「開発案件出すから、あそこに過去納品したソースコードを利用して、こういうソーシャルゲーム作って」と言われると「はい」って出しちゃうことになります。見ている側からすると、ああ、やっちゃったなあという風に思うわけですけれども、ただ、釣りゲーの問題とか見てますと、この流れで逝くならばもうはっきりアウトなのであります。

 現在、「ソーシャルゲームのゲームエンジン売ります」と言って、スクラッチ開発して権利問題を解消してある業者はとても少ないです。最近では、カードゲームを簡単・手軽に作れるゲームエンジンの売り込みをしてきてくれる業者が増えてきましたが、うっかりそれに乗った孫請けが下請けごと内容証明を送られる機会も増えてまいりました。釣りゲーでも裁判でもすっかり忘れられていますが、訴えられたのはDeNAだけでなく下請けの何とかってところも一緒にやられて、その下請けは… ってことなんですね。

株式会社ヘッドロック
http://www.headlock.jp/
キングダムコンクエスト
http://kingdom-conquest.jp/jp/index.html
ドラゴンアーク
http://gree.jp/?mode=static&act=page&page=ext_special_dragonark

 日本のオンゲ開発周りでは、恐らく一番まともな会社の部類のひとつであるヘッドロックも、こういうことが起きました。何でこういうこと、しちゃったんでしょうね。

 今回の判決で決定的だったのが「相違は認められるものの、本質的特徴についての同一性は維持されている」という部分です。これ、ゲーム業界的には法務が頭を抱えるレベルのコペルニクス的なパラダイムシフトを起こす可能性のある事案で、今回のヘッドロックの事例は「業界の慣行上、まあセーフと言う人もいるかな」というレベルから「セガが訴えたら会社が潰れるほどアウト」というレベルへ格段に上がっているとも言えます。

 しかも、iOSの癖もあって二作品において視認されるバグまで同じと言うことは… という話でありまして、ちょっと戦争に過熱感がありすぎる状態と言っても過言じゃありません。ただ、問題はヘッドロックだけじゃないってことなんですよね。普通は、匿名の孫請けに徹して割り増しの開発費を貰ってソースコードを流用して名義となる一次請け業者複数を挟むんですが、直接カネを取りにいって、しかも会社のホームページに制作実績を堂々と掲載したら、そりゃあアレですとも。

GREEが対DeNA釣りゲー訴訟で先取点
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2012/02/greedena-1dab.html
スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第九回 「模倣は悪か?」
http://app.famitsu.com/20120220_33665/

 ここで、また一ヶ月ほど前の「模倣は悪か?」の問題に戻ります。今回の釣りゲー裁判の結果を見る限り、もう確実に「模倣はリスク」といえる状態になったと思います、残念ながら。GREEのことばかり言うつもりはなく、あくまで業界全体として射幸心を煽りお客様に課金ボタンを押してもらう仕掛け自体がプラットフォーム業者の先導で行われている実態というのは、そろそろ改めて然るべきタイミングなのではないかと強く思います。

GREEのパクリが酷過ぎwww 任天堂訴えろよマジで
http://alfalfalfa.com/archives/5254177.html
グリーがDeNAを訴えて勝訴!しかし自分は任天堂のゲームをパクリまくり そんなパクリゲーム一覧
http://blog.esuteru.com/archives/5937611.html

 なぜ任天堂が標的になっているのかというと、有力IPを持ち、それでいてどんなに金を積んでもプラットフォーム業者にはコンテンツの使用許可を出さないだろうから、という理由のようで。版権獲得費用すらショートカットというのは、競争にならんのではないかと思います。

 来週、東京に戻ったら手元にある資料で暴力団の資本が入ったソーシャルゲームやスマホ向けアプリ開発業者が幾つも立ち上がって、なんか上場準備とか言ってるのが面白いってことで、当局へ続報の通報を済ませて記事を書きたいっすよ。