本来のミッションから少し離れて、本業の参考にと思って知己を得ていた先方の会社さんを訪問したり情報交換したりして過ごしていたんですが、いろいろ凄いです。「事情を日本のブログで紹介するよ」と言ったら、どこか明かさないという条件で許してくれました。

● ソフトウェアの開発効率はあまり考えない

 シャチョーも担当者も現場の人も、効率は大事だけど開発に取り組む要員の創意工夫ややりがいを重視しているとのこと。現場レベルでは18ヶ月のプロジェクトが50ヶ月遅延した笑い話をしてくれたり、某ドイツの基幹系をロシア企業に提供する際にドイツ人の定義定義のやり方に嫌気が差し、そんなことだから戦争に負けるんだと掴み合いになった話を披露してくれました。

● でっかいものを作りたがる

 どっちかっていうと日本では小さくて正確なコーディングを求めて、バージョンがアップするごとにコンパクトかつバグが少なくという方向で作業指示が出るのに対し、ロシアでは「どうせだから大きいもの作ろうぜ」と当初コンセプトや予算をすっ飛ばしてどんどん拡張していき、最後にどうにもならんとなったところで偉い人が出てきてバッサバサ要件や仕様を削って着地するスタイルだそうです。富士通みたいで好感が持てます。

 ロシア人技術者は前に出たがり、作りたいものはこれであるという意欲が強いという伝統があるのだそうな。
 日本人のマネージャーと相性が良さそうな気がしました。

● 壮大なウォーターフォール

 まるで滝が流れ落ちるかのような、絶望的にでっかいウォーターフォールの工程表が壁一面に貼ってあって壁画のようでした。

 近寄って見ることは許されませんでしたが。

 ちなみに、日本やアメリカでは遅れの出ている工程を赤で管理しますが、ロシアでは黄色とか薄い青とか使ってるみたいです。なんでも、赤はソ連時代をイメージして、みんな何となく安心してしまうからだとか。ほんとかよ。

● どんどん増援がやってくる

 締め切りが厳しいプロジェクトは、当初少人数で骨組みを作り、だんだん工期が煮詰まってくるとどこかからか人が現れて制作、開発に従事するだけでなく、部門横断でリソースを管理する専門のマネージャーがやってきてテーマごとに着手可能な開発には短期集中で惜しみなく投入するというロシア陸軍伝統の縦深攻撃ドクトリンが根付いているのだなあと感心しました。

 要件定義しないでどうやって工数管理してんの? って聞いたら良く分からない単語で答えられたので、帰って調べてみたら最適な日本語訳は「目分量」でした。えっ。

● 部門の数はエースの人数で決まる

 日本でもありがちですが、ロシアでもA級の技術者は貴重です。ただ、優秀な人ほどやりたいことや作業方法への拘りがあるので、そういう技術者ごとにチームが出来て部門の数が決まります。

 ただし、上記のように何かあると惜しみなく増援に突っ込まれるという点では、かなり柔軟なほうかもしれません。ご一緒した別のロシア企業たちの皆さんがたも同意していたので、普遍的なのでしょう。

 凄い人は本当に凄いんだそうです。仕事ぶりをじかで見たわけではないので、どのくらい凄いのかはさっぱり分かりませんでしたが。

● 女性が強い

 マネージャーをやっている女性は何というか、強かったです。もりもり仕切ってました。

● 伝統的に、大規模な構造を把握する能力に長けている

 大きいものを大きく作ったり、量産するためのものを量産するのは凄い旨いみたいです。これを作るためには構造の芯がこういう感じで必要だ、というような樹形図・魚の骨格のようなものをまず作って、サービス機能を枝葉に盛り込んでいくというのは、構想を全体で描いてそこに細部を詰め込んでいく日本やドイツの作り方とはかなり違いがあります。

 何度も説明のときに「基幹」「主系統」という単語が出てきました。あんま厳密な要件定義をしないでもどうにかなっちゃうのは、この辺のアプローチの徹底が背景にあるのかもしれません。

● 派閥で仕事が決まる

 なんか派閥が凄いって言ってました。受発注もさることながら、チームメンバーの選出などでも、どこ出身かとか、留学先はどこだったかとかそういうことがいろんな事情に優先されることがあって、いいことも悪いこともあるんだそうな。

● 幅広い下請け個人ネットワークがある

 大都市圏限定だそうですが、技量を持つ個人のフリーランスたちによるネットワークがあり、組織的に拡張・収縮が自在だとのことでした。「なんかハリウッドみたいですね」って感想を述べたら、その場にいたほぼ全員のロシア人が嫌そうな顔をしていました。

 全体的に、でっかいものを作れるロシア企業と、ちいさいものをこまごま担当する個人レベルの開発者の両極端で、日本で言うソフトハウス的な中小規模の開発チームの層が薄いような気がしました。

● UIとかどうでもいい

 動けばいいというロシア流の合理主義の犠牲になっているのはUIとかです。つーか、プロトタイプだろうが製品版だろうがどこを押せばどういう挙動をするのか良く分からん仕組みのアウトプットが多すぎです。

● ロシア人同士の議論が熱い

 どういうシステムが理想か、という議論が始まって、凄い構想をみなで喋り始めると終わりません。聴き取れないぐらい速い。何というか、誰が一番大きい構想を喋るかを競争しているような感じで。

 一番笑ったのは「ソフト開発は金じゃないんだよ。売上なんだよ」って発言で。結局金じゃないですか。

● 過小資本で回す企業が偉い

 概略しか聴けませんでしたが、ロシアの会社は過小資本自慢みたいなのをします。うちはこんな予算でこれだけのでっかいプロジェクトを回している的な。もっとも、ロシア自体は資源輸出で潤っているけど民間企業は結構カツカツなところも多いので、無理からぬところですが。

 でも案件を複数受注して、貰った前金で先に請けてた仕事の発注に回しているとか得々と語られると… それって壮大なチャリンコ操業じゃないですか。アニメ制作会社ばりの。んで、回らないと支払わないんだそうです。

● ロシア流のコストダウン

 ロシアが直接英語圏にソフトウェアを売ろうにも、なかなか勘所が掴めずマーケティングがうまくいかないので、フィンランドやポーランド、ドイツなどのパブリッシャーに製品を卸すのがデフォルトのところが多いねって言ってました。

 でもロシアの大都市圏の開発者のコストは高いんじゃないの? と聴いたら、ルーマニアやスロヴァキア、ポーランドに外注出してるんだそうで。