一昔前ですと「日の丸半導体」とか、最近だと「クールジャパン」とか、現場から遠い人たちに限って妙な膨張主義を掲げるケースがあって、いま必要なことは知財の防衛だったり制作ノウハウの流出防止だったり国内業務環境が劣悪すぎることへの対策だったりするはずが、なぜかお役人がファンド作ってハリウッドに出て逝こうとか、お前の画餅と国策をごっちゃにするなと言いたい話がたくさんあるのです。

世界に出て行けと人は言う
http://blogs.bizmakoto.jp/fukuyuki/entry/4126.html

 コンテンツ業界が世界に出て逝かなければならない理由はただひとつ、国内需要が頭打ちで成長しようと思えば海外市場を狙わなければ株主に怒られるので、国内の優れた作品やサービスを海外でも使えるようにしていこうというのは別に悪いことじゃないです。
 ただ、リソースが分断されて国内ユーザーからすると不便を感じることも多いだろうし、やっぱり日本人のセンスは日本市場で通用するのが大前提である以上、海外で売れるコンテンツの制作を日本発でやろうという話は非常にハードルが高いわけです。

 だからこそ、制作メソッドをよりコモディティ化して、海外と同等かそれ以上の制作効率を実現しようというプロジェクトが各社で立ち上がるんですけど、それは同時にラーメン屋における秘伝のたれ流出というか、かつて日本の製鉄業界や造船業界が変な性善説で経営した結果として韓国に技術がまるっと出て逝ってしまい、みすみす敵に塩を送ってしまったことと同じ結論になりやしないかというわけです。

 それゆえ、よくご提案をいただく「国産ゲームエンジン」だとか、「日本のネットユーザーにウケる同人やエロゲの技法を活かす」とかいう、もちろんそれは大事なんだけどそこに競争力の源泉はないじゃないかというお話に繋がっていくことになります。いや、悪いというわけではないですよ。ただ、制作環境は制作効率に物凄く影響するし、技術開発は連続して行っていくべきものである以上、その時点で将来を見据えた最良のものを選ぶほうが、アウトプットの競争力の確保になるでしょう、だから中途半端に国産だ萌えだとやっても、フロスのような市場で十人から二十人ぐらいが旨い飯を喰えますという話で、産業全体が良くなるということにはあんまりなりません。

 また、CGMが流行ったので、それをベースにフレームを作って海外にという話もとても多くなりました。でも、そういうサービスって海外でも同じようなビジネスをしている人がいるので、どうしてもアライアンスを組んでいく的なモデルになってしまい、そういう海外との折衝ができる人材が日本に不足している(そもそもベンチャー界隈はとてもアメリカ志向な割にビジネスで英語を使いこなせる人が何故か少ない)ため、どうしようもない英語屋がヘッドハントされて、なんか屈辱的なディールをハリウッドでやらかして帰ってきて「俺がまとめた」と自画自賛していたりするんです。一般論ですが。

 一方で、お前のスキルがコモディティ化し続けているので、どうやって日本で食ってくための給料を稼ぐんだよ、というようなネタもまた人気になりやすいんですよね。

日本企業の人に知ってほしい、外資系に見るグローバリゼーションの現実
http://togetter.com/li/245090

 このネタ自体はバックオフィスですが、制作でもまったく同じ構造はあります。日本人のコストが馬鹿高いので、作業的なものは台湾やベトナムですませよう的な流れとして、制作のコアと日本市場のマーケティングだけ日本人で対応すればいいじゃんというような話です。で、やりすぎると韓流みたいな構図になるわけですが、輸出産業としてコンテンツ業界を位置づけると、ある一定の完成形が韓流になっちまうので、それでいいんかということでもあります。

 文化事業というのは、やはり広く薄く集金できる状況にしつつ、市場にいる人々の心情に寄り添って、入り込めるモノづくりをしていかないと成立しないってのが大変なんですね。だからこそ、ディズニーは大作アニメもそうでない作品も頑張ってローカライズに力を入れるんでしょうが。

 移動するのでこの辺で。