最初にお断りしておきますが、調査結果に対して反論するものではありません。

「人の好みにクチコミは効かない」──ハーヴァード大学チームの研究結果より
http://wired.jp/2011/12/26/%E3%80%8C%E4%BA%BA%E3%81%AE%E5%A5%BD%E3%81%BF%E3%81%AB%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%81%AF%E5%8A%B9%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%8D%E2%94%80%E2%94%80%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A1/
Social selection and peer influence in an online social network
http://www.pnas.org/content/early/2011/12/13/1109739109

 むしろ、クチコミというのは「特定の趣味に根ざした友人間での情報交換」よりも、「必要に迫られて買う場合の選択肢の増大」の方向へ作用するものじゃないかと思うわけですね。
● 共通の趣味を持つ友人間での選択肢として

 クチコミという意味では、発売に関する情報がいち早く提供されること、それによって、その人の購買リストに入ることが重要なポイントになるのではないかと。

 例えば、私が新しいPCのウォーゲームを買う場合に、必ず情報の先導役になる友人が、情報サイトから発売情報を掘ってきてはtwitterやFACEBOOKに流します。mixiにも流します。そういう情報が早い人から伝達されるハブの役割も、立派なクチコミであって、また人柱がそこに立つ可能性も高まる。

 立った人柱の結果として、買う買わないを判断するのもさることながら、それとSNSや掲示板等のコメントを読み比べて買うかどうかを吟味するのは極普通のことで、ただそれらは「これが売られている」という情報があり、選択肢に入るから取られる行動だということなんですよね。

● 一番多いのは「詳しくないけど、必要に迫られて」

 宴会や食事の手配なんかは適例だと思うのですが、地域グルメとか全然詳しくない私が幹事をやる場合に、真っ先に検討するのは情報サイトと、そこにあるコメントです。まあ、私ぐらいの年齢になってくると、「この人数ならここの店でいいか」というショートカットをするわけですが、とはいえやっぱり急にモスクワでドイツ人と飯、とかいう話になると、ホテル以外でどこか気の利いたところをという話になって、やっぱりクチコミサイトを使います。

 あるいは、結婚や転職、物故などはクチコミの威力が本来高いところでして。オタ仲間がメインの人が、オタ仲間の一人の結婚に際して右往左往することはあると思います。でも、自分のFACEBOOKのフレンドを見渡してみて100%オタしかいないという人もまた少ない。誰かしら、結婚している職場の人なり大学の同級生なりに「ご祝儀どうしたらいいかな」とか聴くわけですよ。コミュ障だとまた別かもしれないけど。

 そういう人だって、別に結婚のプロではない。各分野で、そういう自分の興味関心領域以外の繋がりから引き出される情報というものがあり、それこそクチコミというものが介在する余地が残るのでしょう。

● ブランドは長い価値

 人の評価は移り変わりますが、ブランドというのは非常に長い価値を生むもので、刹那的に「いま、求められる情報」「いま買わなければならない商品、サービス」というよりは「そういえば、あいつがあのブランドの製品が良いって言っていたような」という情報のトリガーを持つことは多くあります。

 私だって、サーブと聞けばずっと戦闘機メーカーのことだと思っていました。まさか自動車を作っていたなんて。そして、破産しそうだったなんて。

 むしろ、クチコミというのは長い時間をかけてあまり自分で触らないような、例えば幼児用おむつに対する評価だったり、航空会社、証券会社、弁護士事務所など、素人にはぱっと見違いが分からない分野においてより手にとってもらえる可能性が高まるためのフックを作ることが、実はとても大事なことなのでしょう。

 やっぱり、まともな消費者は分からなければ自分でネットで検索して調べます。クチコミもさることながら、世の中にその製品やサービスがどう思われているかを知るために、ネットの中でどういう情報が流通しているのかにフォーカスするのはとても大事なことなんですよね。

 いま検索からFACEBOOKのようなソーシャルグラフ内での情報流通に関心がシフトしてきたということで、クチコミにまつわる議論も凄く過渡的だ、ということなんじゃないでしょうか。

 まあ、だからといってFACEBOOKページがそんな価値あるかといわれても微妙ですけど。