「日本ではエヴァが流行ってたじゃない? あれってやっぱり当時の日本人の鬱屈した社会観や、停滞している人間関係を投影したものなんでしょ?」
「ごめん、エヴァ観てないんだ」
「どうして? コンテンツ投資が君の本業でしょ? 何で観ていないの。観るべきだ。日本人なら皆エヴァに関心があって、影響を受けているものだと思ってた」
「それならイギリス人は皆ビートルズを聴いて育ったとでも言うのか?」
「でも日本のポップカルチャーの中心はビッグヒットのアニメであるべきだよ。日本人の政府関係者がクールビジネス(おそらくクールジャパンのこと)を成長の根幹に据えると言ってる」
「コンテンツ会計でいうと、ここんとこ日本のアニメ輸出はずっと伸び悩んでて、停滞しっぱなしなんだけど」
「どうして。それは日本人がコンテンツを生み出して外に売っていく意欲を失ったからなのか?」
「単純に電通出身のジェネオン社員がこぞってワーナーに移籍したからかもしれんが、海外でこれだけ売りますから投資集めましょうとか言うアニメ業界人は凄く少ないぜ」
「海外に売れるコンテンツを作るための投資はしないの? どうして日本人クリエイターは内に篭って外国へ売りに逝こうとしないの?」
「国内の”萌え”市場がマンネリ化してるけど、皆が作りたい作品はそういう方面のアニメが多くて、たまに海外でも売れそうな企画は出るけどお金はつかないな」
「攻殻機動隊とか凄かったじゃない」
「あの勢いが続いてたら押井せんせはもっといろいろやってるんじゃないかな。観てないから知らんが」
「ガンダムAGEは? 日本でトップクリエイターが手がけるって話なんだろ?」
「それは日本がどうというより、バンダイのビジネスだから私たちにとってはあんまり関係がないな。ガンダムの名前がついてりゃどんなのだってそこそこ売れるだろう」
「アニメはクールビジネスじゃないのかい?」
「役所はそういってるけど、役所に後押ししてもらう程度の会社やコンテンツはそもそも売れないし、売れるコンテンツを作ってるところは自力で売るよ。成長セクターに関わりたいだけだ、役所は」
「でも国内では利益が出ているんだろ?」
「利益を出せる作品に先行投資をしているのはパチンコ業界や広告代理店やテレビ局だよ。DVD、BDも全体のパイは伸びないから、出口戦略はゲーミングマシン(パチンコ・パチスロ)へって仕掛けが多くなった」
「日本のアニメファンはそういうことで満足しているの?」
「アニメファンに聞いてくれよ。私は別にアニメ好きじゃないよ」
「日本人は皆アニメに興味を持つべきだ! ましてや、君のビジネスの領域だろ。君は何を見て育ったんだ。アニメじゃないのか」
「中学時代はD&Dやって高校時代はマイトアンドマジックやって大学時代はボードゲームのディプロマシーやって社会に出てからウルティマオンラインやってた。アニメ関連は数字しか見てない」
「まど☆マギとか観ないの?」
「観てないな」
「マジで?」
「うん」

 クールジャパンって、むしろ日本人を誤解させる要因になっているようにしか思わないんだが。