まだ燃えているらしい、フジテレビの韓流押し。見るからにダルい話になっているようで、韓流には何の関心もない私も、あまりにも話題になっていて興味を持たずにいられなくなってきました。といっても、韓流そのものではなく、韓流にまつわるビジネスや環境について、なのですが。

 基本的にこのエントリーは耳学問であって、自分用整理を兼ねて書くもので、検証したわけではないので「ふーん」以上の反応無用。

(※ 本エントリーは8月11日に一度UPしたものを、関係者からのご指摘に基づいて加筆、修正して8月15日に再UPしました。ご協力、ありがとうございました。)

● 芸能へ人材流入を促す韓国経済と社会環境について

 基本的に韓国経済はヤバイ。サムソンが好調、とか、世界戦略で通商条約を結びまくって日本を先行、とか、そういう話があり、日本も好調韓国経済に学べ、という論調も良く出るけど、もともと地域ごとに閉鎖的で貧富の格差が大きかった(らしい)韓国において、貧しい地域から身を立てるには頑張って勉強してソウルいっていい大学入ってサムソン入るというのが夢。

 で、社会的に「認めてもらえる法人」に入るための教育や受験戦争が行われているが、当然のようにそういう成功者はごく一部であり、大多数はスタートラインにすら立てない。したがって、この手のストリームに乗れない人たちに対する成功へのパスのひとつとして、芸能関連やコンテンツ関連という窓口がある。

 韓国社会には各地域に結構な人数「芸能崩れ」という経歴の人々がおり、喰うために演技やダンス、楽器演奏などの文化的な技能を安い値段で伝授する仕組みが充実している。安い値段で芸を教える代わりに、うまくいったらマネージメントに入らせてもらうなどの口約束をしている出世払い話も多いという。成功した芸能人が、なぜこんな約束も守れないヤクザまがいの事務所の言いなりになっているのか、を紐解くとそういう話がいっぱい出てくるんだそう。日本もそんな変わらないだろ、と思っていたが、日本のそれとは全然様相が違って、ガチ真剣なんだと。芸能に対する気合いの入り方が違うと。日本と比較すんなと。あっそう。

 こんなのも参照。

韓国経済の対外依存度、金融危機時の水準に迫る
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2011/08/14/0200000000AJP20110814000700882.HTML
● 市場規模の割にはでっかいパトロンシステムについて

 世間ではAKB商法だの、顧客から多くのお金を搾り取るシステムに賛否出ておりますが、それ以前に、芸能やコンテンツ制作においてはパトロンといいますかタニマチという制度が昔からありまして、これらの要素は陽に影に問題に影響しています。

 テレビ局のコンテンツは、上場企業であるというコンプライアンスの問題や、芸能事務所などに対する官憲の浄化作戦などを経て、相当程度これらの「副次的な収入」を除去する方向で来ましたが、結果として、コンテンツ単体でそれが当たったか当たらないかというのがシビアに判断される世界になってきました。

 昔であれば、事務所のごり押しや制作発注元としての「配慮」があれば、ある程度はお金が還流してきて、たとえコンテンツそのものがヒットしなくても二発目、三発目といったシリーズ化を通して認知度を上げ定着させるというような寅さん商法的なのもあったのですが、現在では製作委員会でマイナス喰らうと二度と組成できない場合も多く、非常に刺激的な状態になっています。

 むしろ、フジテレビという局は某格闘技の問題なども経て、比較的率先してこれらのグレーなところを排除してきた局だったように思うんですよね。ご存知の方も多いかとは思うんですが。

 で、韓流に関して言うならば、上記韓国経済の結構な問題とセットで韓国国内のパトロンシステムと結構密接に動いている部分もあります。「芸能崩れ」と書きましたが、日本ではもう忘れ去られたかのような芸能志望者を食い物にするシステムみたいなものもあるようで、とにかく海外(とりわけ日本)で売れなければ死んじゃうという決死隊の様相もあるんだと聴きます。

● コンテンツ制作におけるダンピングについて

 日本だけでなく、中国を含むアジア全域や、最近では中近東全体に対する韓国系コンテンツの増殖には目を見張るものがありますが、基本的には商流とのセット販売、よりぶっちゃけて言うならば、韓国が国策として、サムソンなどの国際企業(というより半官に近い、大航海時代でいうところの商館のような重商主義的組織)のモノやサービスを各国へ送り込むためのパーツとしてコンテンツが戦略的に利用されているというのは言うまでもありません。

 アジア某国では、本当に広告出稿とセットで韓国系コンテンツがセッティングされる事例が増えていると聴きますが、要するに「コンテンツを買って放送して、そこに広告をつけてテレビ局が商売をする」のではなく「金を貰って韓国系コンテンツを放送する。テレビ局は座ってるだけでカネが入る」という状態になってます。

 で、それがいかんのか、駄目なのかというとそうではなく、それだけ韓国は文化(的なもの)と商売を結びつけて、マーケティングを韓国系コンテンツとハードウェアやサービスに乗せる形で市場を開拓して、大量の物量を販売していくという戦略になってるわけですね。

 したがって、必ずしも韓国系のコンテンツを海外に販売していくのに「損益分岐点」や「正価」というものは厳密にはないのではないかとされています。政府の補助金ではなく、コンテンツの制作補助が韓国系企業から別で出ていて、そこで採算がそこそこあっている以上、コンテンツ業界が韓国系各社の競争力に驚くというのは重箱が二重になっているのを知らないか、単なる調査不足なんだろうと思うわけです。

 フジテレビがなぜ韓国系コンテンツを使ってきたかについては、ニセモノの良心でそこそこ解説されていますが、これはテレビ局目線であって、厳密にはユニクロに逝くのとは若干様相は違います。

CXは別に売国奴じゃない。みんながユニクロに行くようなもの
http://soulwarden.exblog.jp/14236392/

 韓国が戦略的に賢いのは、韓国経済が弱者であり、韓国のソウル以外の経済状態が壊滅しているので、それを逆にリソースとして海外へ売っていくための仕掛けとしてコンテンツというサブ業界をピックアップできたこと、そして国が直接支援するだけではなくて半官の世界的企業のマーケティングコストを上乗せさせて乗数的に輸出における販売効果を獲得していることが背景にあるのだろうと思います。

● コンテンツ業界の競争力云々について

 では、今回のフジテレビ韓流批判問題で露出したように、韓国のドラマが日本のそれより3分の1の価格で提供されているならば、我が国も3分の1以下の価格でドラマが同じクオリティで作れるように頑張ればいい、という話になるのでしょうか。

 結論でいうならば、他に価格競争力があるエンタメソフトが投入されたとしても、韓国はさらに提供価格を下げるだけではないかと思います。理由は、すでに他の韓国企業のマーケティング連動でペイしてしまっているから。

 ダンピング云々でいうならば、tiedのコンテンツ(ここでは、広告も韓国企業がついて、韓国ソフトが他国で放送されること)が彼らの通常兵器であって、じゃあパナソニックやら他の日系企業が「お前らフジテレビのコンテンツを海外に売れよ」という話が可能かというと、それはそれで敷居が高い話だろうと思います。逆に言えば、韓国みたいにある程度知的財産権や芸能人の人権観念が適当すぎる国でもない限り、こんな方法は取りようがないです。

 最近になって、知財本部や経済産業省がソフトパワーの競争力強化を目指してクールジャパンとかいう話を延々とやっておりますが、投資効率もさることながら、著作権の最適化や海外へコンテンツを売っていくための方法論なしに議論したって効果は出ないんじゃないのと思います。なんか60億ぐらいかけて会社作って日本のコンテンツを海外に売っていくんだという話をしていたようですが、そんなものは民間でやればいいです。

「「文化産業 文化産業」」立国立国にに向向けてけてー文化産業を21世紀のリーディング産業にー
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/bunkasangyou.pdf

 必ずこういう話をすると「じゃあ韓国やシンガポールやウクライナのように助成金を出せば良いのか」という話になりやすいわけですけど、何を目的にしているのかはっきりしないうちにリソースを投入するのはおかしいし、でももう実際に投入しちゃってるのだから困ったもんだなと感じるところで。

 そりゃあ、日本のソフトパワーというか日本系コンテンツ企業というものが海外向け競争力を高めていくということであれば、なおのことフジテレビが目先の視聴率狙いで韓国系コンテンツに頼るという状況は「競争力戦略がうまくいっていないことの証左」となるんじゃないでしょうか。

● コンテンツ輸出産業は非関税障壁ばっかり

 前にも同じようなことを書きましたが、クールジャパンのような日本製コンテンツのブランド力を強化することを役所が積極的にやるよりは、日本のドラマやゲームや漫画などがきちんと正しく輸入され、ビジネスとして成立させられる仕組みを早く作ってくださいよ、というのが本来コンテンツ業界が主張するべき産業政策のはずです。

 平たく書くならば、オンラインゲーム業界はまず中国韓国の各メーカーにアイデアをパクられます。ああ、議論としていうと、日本のドラゴンクエストだってウルティマシリーズのパクリだろ、段階的産業論とはそんなもんだ、という反論が出るのは良しとします。ただ、UIからシステムからすべてパクられるのはどうしようもない。

 漫画も絵柄も基本的にはパクられて、現地で売られて消費されている状況というのは、知的財産権の確保という見地からいうと頑張って勝ち取らなければならない外交的要衝というのは言うまでもありません。こんなこと、書くとMIAUからまた嫌われそうだけど。任天堂やコナミが偉大なのは、そういう政府が全然対応してくれないことまで自力でしっかりやって、頑張っているところなんですが、本来それは政府の仕事でしょう。

 次に、日本のゲーム会社が海賊版対策も含めてオンラインゲームを展開しようとすると、今度は中国では認可制だったりするわけで。韓国でも、いろいろと嫌がらせをされます。サービスそのものができないわけでね。自分の知る限り、この問題について真正面から取り組んでいる政府機関や関係者はとても少ないと思います。

 映像業界でいうならば、今回の韓流騒ぎはフジテレビに本来の罪はなく、単純に産業政策の失敗が原因なんじゃないのと考えます。日本のコンテンツ制作能力が充分な顧客を惹きつけることができているなら、こんな話にはなり得ないだろうという結論です。

● 韓流はなぜ叩かれるのかとかそういう話

 これも前にも似たようなことを書きましたが、フジテレビが言っている「韓流が稼ぐ視聴率」って、せいぜいF2の6%程度の代物です。確かに昼の時間帯で二時間にわたってテレビを観る人というのは… という感じですけれども、そういうターゲットにいままでソープオペラで流していたのはサスペンスとか情報番組とかコンテンツとしても微妙なものばっかりで、そういうものを観ている人は、そういう暮らしの人なんだろうと。

 とはいえ、じゃあそれは深夜番組のアニメと比べてどれだけの経済効果なんだといわれると、韓流の規模自体はコンテンツ全体でいえばアニメの4倍とか5倍とかの規模で、編成上無視できないけどみんな少数派であったりもします。

 では、これらのコンテンツが存在することに価値を感じない、いやむしろ否定的な人たちってのはどれだけなんだというと、韓流もアニメもコアなユーザー以外は結構な割合で「地上からなくなっても問題ない」と思っている人たちばっかりなんですよね。「観ない」というより「なくなって欲しい」と積極的に思っていたりすると。

 なので、「こういうものでも好きな人はいるんですよ」という説得がなかなか通じない。嫌われているわけですから。特に、コアだったりフェチだったりするコンテンツというものは、基本的に一般人から嫌悪感をもって遇されることもまた多く、ゲーム業界でも殺戮ゲーやいじめの描写があるゲームは、やはり各所から「おいやめろ」といわれてゾーニングの対象になってしまうのです。

 ウェブの世界になって、これらのゾーニングの垣根が曖昧になり、各々が持つ負の世界が赤裸々に見えるようになったいま、各メディアのコアやフェチ同士の緊張感というのは真の意味で一触即発の状態になっているんだと思います。ウェブ民の間では、mixiやアメーバはスイーツと言われますが、先方はウェブ民をヲタと言って嫌っているという図式です。

 細分化され、各々のエリアの好事家が集うメディアがたやすくアクセスできるようになった以上、どうしても、お互いのどうしようもない側面が見えやすくなってしまっているということですね。

● それでもフジテレビは叩かれる

 もし私が陪審員で今回の一件を裁け、といわれるならば、私はフジテレビに罪はないと判断すると思います。なんでデモまでやっているの。ただ、俗に言うウェブにおけるマスゴミ批判の文脈で言うならば、かつての毎日新聞が変態新聞と揶揄され続けたように、一定のルサンチマンがウェブには常にたゆたっており、ある種のガス抜きの対象としてフジテレビは格好の大きさだったという点で不運と言わざるを得ません。

 やはり、一番違和感を感じるのは、もうこれだけウェブが普及している状況で、いまだにテレビVSウェブの対立構造で見ている人が多かったり、妙な陰謀論に結び付けて自縄自縛に陥っている人がいることなんですよね。

 確かにドラマや映画などの制作については韓国に戦略負けを続けている現状はあるけれども、経済全体で言うならば相手は真の意味で敗者であって、ファイナンスができなくなったら本当にまた最低の状態になってこっち見んなって話で、じゃあお前らのコンテンツが良いって言うなら買い叩いて昼間にテレビ観ているような奴らにでもみせておくか、的な話じゃないのかと。

 そのうえで、クールジャパンとか言って政策論ぶってるのもどうかと思いますけれども。というわけで雑感でした。