(追記12:57):民主主義って素晴らしいですね。

 ちと年末に向けてクソ忙しいのもあって、本件の雑誌への寄稿の類はお断りをしていたのだが、あまりにも誤解が広まったなあとも感じる部分もあるので、その辺は後ほど書く。

 また、海保の現場がいかに立派で体を張って職務を全うしているとしても、今回のような形で映像が「流出」することはどういう形であれあるべきではないし、中国政府が軍部を統制できないで国際政治で失笑を買っていることを批判できなくなってしまう。

 今回の映像流出で、我が国は中国との外交において持っていたアドバンテージを失ってしまった可能性もあるし、何よりいまの民主党が政治主導の名の下に外交を司る能力を持っていなかったことを露呈してしまったのが一番の問題だろうと思う。私の見解、立場は以下の内容で変わらないけど、一応再掲。

最近、ぽこぽこ「国家機密」が流出するっスね(汗)
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2010/11/post-a6ce.html
 もはや、前原外相が外交の現場では信用されなくなったというのもあるけれども(アメリカもEUも外交上の責任あるカウンターパートは前原さんではないと思っている)、鳩山前首相時代の普天間問題しかり、長い自民党時代で培ってきた二国間の信頼関係、それが対米なのか、対中なのか、いろいろあるけれども、これらがものの見事にいまの民主党に引き継がれていないことの問題が露呈してしまった。

 簡単に言えば、諸外国から「日本は外交当局が納得づくでビデオを流出させたんじゃないの」という話になるし、酷い人になると「APEC前に捜査情報が流出したことに対する報復として、ビデオを出したのではないか」と訝しがる連中もいる。これは日本人や中国人ではなくてね…。

 当然、官邸サイドとしてはビデオを流出させるつもりはまったくなかったものだから、泡を喰ったような対応になるのだけれども… しかし、かつては中日新聞や東京新聞、毎日といったところにリークを流してスクープを取らせ、情報をコントロールしてあるべき場所に事態を収斂させていこうという技法があったわけだが、これだって政治主導によって失われた日本政治の伝統芸能だとも言える。

 ノウハウなんだよね、これ。記者クラブがどうたらという阿呆も多いが、そんなものは関係なくて、情報をどう統制するのかという話で、今度は中国サイドから「軍事施設に立ち入ったフジタの社員を釈放する条件が、尖閣諸島でのビデオを公にしないことだった」という話が出かねない。言っちゃ悪いが、尖閣諸島での漁船拿捕・拘束は有事ではあるけど所詮は民間のことと割り切れるけれども、軍事施設にうっかりとはいえ日本人が立ち入ってしまった件とどっちが問題なんだよといわれると、世界標準で言うならばフジタの社員のほうがよほど悪い。ミサイル関連施設じゃなくて良かったね、という話で。

 日中の信頼関係を回復させましょうという方向になかなか機運が盛り上がらないのも、いままでの日中間での外交的な文脈というものが、いまの民主党の官邸主導での外交に全くと言っていいほど引き継がれておらず、場当たり的な対応にならざるを得ないうえに、すべての権限が仙谷さんに集中しているので機能不全を起こしているとしか言いようがなく。真面目だし優秀な人だとは思うんだけれども、さすがにすべてを抱えるのは無理というものですよ。

 だから、中国に説明する、といったら弱腰外交に見えるけれども、軍事施設に立ち入ってしまった日本人を開放するのと交換条件に尖閣諸島でのビデオはなるだけ公開しないように日中間で協議して決まったということを、中国政府にリークされる前に説明しなければならない。中国だって、少なくともこの時期に尖閣諸島問題を騒ぎ立てようというつもりは毛頭ないのだから、手打ちの図式はあったと思うんですけどね。

 これでもう、中国も民主党を信用しなくなりました。でも、もうひとつふたつ大きな事件でもない限り、菅政権は長持ちしてしまいます。そうであって欲しいとかではなく、続いてしまうんで。仙谷さんが失脚したら、馬淵さんでも玄葉さんでも立てて集団指導体制の官邸で頑張ろうとするでしょう、菅さんは何でもありの人だから。

 国内問題はまあ別にダッチロールしても仕方がないんでしょうが、外交だけはもう少し一貫性のあるプロセスをうまく築き上げられないのだろうかと毎回思うんですよね。恥ずかしいから。