まあ簡単に。

 極東ブログでも多少解説があったが、少し動きがあったので補足など。一応、本来日本が目指すべき解決方法は、現代型アジア版ウィーン体制らしきもの(長い)を構築することです。リーダーシップがないとかいろいろ言われるけれど、利害はよそ様と一致していることもあり、まずは今後10年ぐらいの安寧を図っていこうとするならば、この方法ぐらいしかないでしょう。

 で、この方策、言い方を間違えると麻生元首相が在任中に提唱していた「自由と繁栄の弧」に酷似しています。知らない奴はぐぐれ。普遍的価値を軸とした緩やかな協調関係を作るドクトリンなのであるが、いまの日本政府にそんなリーダーシップは取れるの? と言われる向きもあるものの、実際には中国政府との腹芸がある程度できれば、紛争の槍玉に挙がるのはまず日本、という図式を作ることで結構なもんは回避できたりするんですよね。
 この辺のブレーンは谷内正太郎さんですが、三顧の礼とかしても戻ってこんでしょう、いまの政権のコミット力では…。とはいえ、結構決定的な事案が起き始めていて、もういろんな人が指摘している通り「どうやら中国軍閥は、中南海の意向を聴かなくなっているようだ」という話でありまして、これは少々ヤバイ。

尖閣、ガス田周辺に中国調査船続々 10隻以上が示威活動か
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100928/plc1009280101000-n1.htm

 ソースが産経で、追随情報が関係機関からあまり出ないことを考えると、ガセなのかフライングなのかといったところです。ただ、中国国内の報道ではエスカレートした民衆向けに強化した船団を送る決定を下したというような話がちらほら出ているのを見るに、あれだけ掛け金を上げておいて、しかもクリントン国務長官が日米安保の対象の範囲内と明言したことの意味も踏まえず勇躍船団を出すよと語るのは、発言上は外交圧力を減じてきている中国政府のコントロールが効きづらくなっているか、和戦両様で領土問題については攻勢に出ているかの二択でありましょう。

 その場合、「軍閥を引っ込める方向で努力するから、信頼関係維持のためにも日本政府も譲歩を」という飼い犬理論で外交をして来るのかなあと思うわけですが、日中政府が本件事案収拾のために話し合っている内容が漏れたりするとお互いの国内威信が傷つきます。

 たぶん、中国の中でも比較的まともな知識人層は頭を抱えているように見えるので、状況が有利な方向に転んだとしても掛け金が返って来ないことを知ったうえで落としどころを申し入れてくるのでしょう。それのカウンターパートになる前原外相がどういう受け取り方をするかは分かりません。ただ、中国の膨張志向がたいした問題でもないレアアース禁輸問題も含めて風評拡大、喧伝されたというのは非常に大きく、日本はいつもの調子なので、敵失で勝手に日本の安心感が世界的に向上したという感じなのでしょう。

 願わくば、100点の外交を志向しなくても良いので、今後も中国が冒険的で挑発的な外交を進めてくるのは当然と考え、我が国がかかる事態に再び遭遇したとき「どこまで譲歩するのか」「何を主張するのか」の下限線と上限を用意しておくことだろうと思います。

 今回、日本政府の失態だ、と主張するのもまあ一理あるし、感情では「弱腰とか以前に政府交渉になってねーじゃねえか」とも思うんですけど、何よりも大きいのは、繰り返しますがクリントン国務長官の尖閣諸島は日米安保の範囲内と明言され、日本国内の安全保障の枠組みにおいて普天間移転問題などで揺らぎがちだった日米安保の存在価値を否定する向きがいなくなり、満を持してアジア外交で「中国の危険」を公言できるようになったというところじゃないかと。

 あとは、ちゃんと仕事をする政府をどう組成するかなんですけどねえ。本件ではもう遅いので論じても仕方がないんですけれども。