あれやこれやと流動的な状況になってはおりますが、ひとつの流れとしてはほぼ衆人の知るところとなった(日本人以外は…)「南沙諸島での中国の軍事活動制限関連」の問題ですが、安全保障という言葉ひとつとっても純軍事的な側面と外交的な側面とでは随分見え方も違うのでメモでも起こしてみます。一応、報道ベースと、それに基づいた記事を中心に。

南シナ海領有権問題に関わる中国と米国
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/08/post-40bb.html
宮家邦彦さんの分析はやっぱり当てにならないかもしれない
http://obiekt.seesaa.net/article/159065958.html
http://twitter.com/finalvent/status/20685939680
 なかでも、相変わらずのクリス・ネルソン氏が鋭い舌鋒を揮っているのだが、和訳にもあるとおり「中核的利益」というのは「あらゆるオプション」というレトリック同様に武力行使も辞さないほどの重要な権益として認識しているVPであって、これを抜きに舞台装置を語ることはできないという問題点があります。

米中関係、にわかに緊張
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/987?page=1

 7月28日に出たこのメッセージは非常に強烈で、シンガポール会議からASEANに向かう日程の中で緊張が先鋭化していき、最後にはチャイナロビー最大の殊勲とまで言われたヒラリー・クリントン国務長官の南沙諸島における中国覇権批判に直結したことがポイントだろうと。結果として、即答的な反論もできずASEANでの中国外交は大失点に至った、というのは既存の報道と同じ。極東ブログで幾つか英字記事の内容を追っているのも同様、恐らくその文脈で南沙諸島における米中対立の構造の紐解き方や、ベトナム、フィリピンといった関係国に対するいままでの中国外交が行ってきた太陽外交の積み重ねの喪失の意味といったものが一列に浮かび上がってくるわけです。

 その直前まで、オバマ大統領とヒラリー・クリントン国務長官の間で対アジア・対中国外交の方針を巡って、必ずしも一枚岩でなかった経緯があるなかで、その間隙を突く形で中国の南シナ海での軍事的挑発が繰り返され、中国のもっぱら軍部と近隣国の緊張がいたずらに高まって南沙諸島を巡る権益の掛け金が上がっていったのが問題となるかと思います。その間に、米中のアジアでのせめぎ合いをしていたのがシンガポール会議からASEANに至る日程の間だったかと思われるわけで、この枠内では見えてないけど米ロだったりベトナムとの協議は続いていたのだろうと考えられます。

 もっとも、外交的な方針が緊張感の醸成だったとしても、軍事と違って事実関係は一本調子で発展するわけではないのと、別に落としどころを探る動きが必ず出てくるだろうことから、しばらくは振り子が振れている状態のまま推移するのだろうと思うのですが、文字通りアジアでアメリカに巻き返された中国が意外に周辺諸国の信頼を得ていなかった実情ぐらいまでは日本人は知るべきであろうし、周辺報道も含めて外交的アプローチの解説は整合性の見出せる範囲内で把握しておいて損はないだろうと。

 いまの中国外交の転換点を「好調だった中国外交の攻勢限界点」と見るのか「近隣政策の実質的な踏み絵」と考えるのかは読み手それぞれなんですけれども、恐らくいまの枠内にはまだプレイヤーとしてのインドやロシアは大きく影響を及ぼしておらず、日本も国内事情で積極的な外交ポジションを築いていないので、米中が緊張緩和の策を考えたとしても米中の対立に利得がある周辺国が多い以上そう簡単にはまとまらんのでしょう。

 あとは、どのアクションを重要と考え、どのアクションが事前通達済み・了承済みだったのか、なんですけれども… このあたりは外部からは分からんのでねえ。ただ、欧米の論調に関しては、遅かりしといえど8月4日付FTのこの社説が一般的、標準的な内容であり、アメリカ側発信の情報は自ずからこのロジック(大義名分)に収斂していくと考えて良いと思います。

[FT]南沙諸島を覆う中国の影(社説)
http://www.nikkei.com/biz/world/article/g=96958A9C9381959FE2E6E2E08B8DE2E6E2EAE0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;p=9694E3E7E2E0E0E2E3E2E6E1E0E2

 その意味で、月末の日本の安全保障関連のコミュニティではかなり活発な議論が起きると思いますし、問題の本質がきちんと報道されるまで二週間以上かかってしまう我が国のマスコミの文脈の微妙さも議題になってくるかもしれません。何しろ、海外では「ホワイトハウスが南沙諸島問題で対中対立のカードを切るかもしれない」と騒ぎだったのに、我が国では「タワラちゃん初登院」とかほのぼのニュースばっかりだったので。