「きっとfinalvent爺が取り上げるだろうから、別にいいだろう」と思っていたら、爺が貫禄のスルーをしおったので、備忘録的にここで書く。何を書くって、ASEANでHillary Clinton国務長官が無双をやらかした話である。かなりはっきりとアメリカの対中戦略の転換の可能性を内外に示したものであったし、何よりも中国のここ十年ぐらいの「穏やかな膨張」と「人民解放軍の良く分からない増長」とのバランスで成り立ってきたアジア外交を文字通り面罵した形になったからだった。

 この手のコミュニティでは、あまりにも明確すぎるメッセージをクリントン女史が投げかけたことに対する是非であるとか、いままで意外に不鮮明だったアメリカの対アジア外交がここにきてにわかに分かったことへの戸惑いといった声がたくさん上がってて興味深いわけである。たぶん、次のForeign Affairsやpolicy watch系のところは米中の対立軸を探る動きや、決定的な事案を避けるための当局の狙いと落としどころを考える記事が乱舞するんだと思う。
 文脈としてはもう宮家邦彦せんせの論述が余すところ無く語り尽くしていると思うのでそれを読んでもらうとして、やはり問題意識としては日本のメディアでこの手の話を正確に認識し解説している記事がとても少ない点である。

Hillary Clinton Changes America's China Policy
http://www.forbes.com/2010/07/28/china-beijing-asia-hillary-clinton-opinions-columnists-gordon-g-chang.html
大失態演じた中国外交、米中対立どこまで
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4147

 どちらかというと、「北朝鮮批判の合唱だった」という記事ばかりで、どうもなあ。クリントン国務長官が国務長官就任後、今回初めてASEANの会議に参加したことは、海外で非常に注目を浴びたけれども、ASEANの場でクリントン長官が語りたかったことは「北朝鮮の非核化による国交正常化の示唆」というようなローカルな話ではなく、明らかに南シナ海の領有権問題を題材に中国のアジアでの影響力拡大に一定の歯止めをかける意志があることの表明と考えるべきだと思うんだ。

 一方、我が国の鳩山前首相やそのブレーンは、ある意味で理想主義的なアジア迎合を企図していたこともあり、あまり現実を考えずに「日米中は正三角形」とかほざくなど赤面したくなるようなことを言う傾向が強かったし、何より国内の関心が北朝鮮問題に寄っているので報道がどうしても南シナ海に向かないのは仕方がないのかもしれない。

 だが、菅政権になって、菅首相、というより仙谷官房長官の一定のリーダーシップの下で広島の式典にて菅首相の発言がかなり「修正路線」になったことは、一連のパワーバランスの変化や、アメリカの率直な意志を受け取る能力が今回の政権には備わっているのだろうとは思う。ルース駐日大使もいたわけで、彼らがどのような気持ちやリスクを持って広島にきたのか、広島入りを認めたオバマ大統領とその周辺の日本やアジア外交に対する考え方ぐらいまでは、読み取ってやらなければならないのだろう。

菅直人首相「核抑止力必要」
http://obiekt.seesaa.net/article/158675199.html

 いわゆる今秋の世界経済の二番底警戒を考えるに、どうしたってこの手の文脈は報じるべきだし、国内の政治的状況よりもより上位概念である以上、ある程度国民には事態を知らしめる努力を払うべきなのだが、というか今回ほど明確すぎるメッセージをきちんと日本人だけが受け取らないというのは不思議なことなのだが、もう少しどうにかならないのだろうか。