書評を久しく書いていなかったので。結婚はともかく出産してから読書量(日本語)が激減したのは内緒だ。

 そのうち第二弾を書く。つもり。はず。
●『ひとりでも部下のいる人のための世界一シンプルなマネジメント術 3分間コーチ』(伊藤 守・著)



 部下とコミュニケーションが取れなくて悩んでるマネージャーって多いですよね。私もそうですが。いや、人を率いるというのは、やはり向き不向きがあるようで、何を取っ掛かりにしたらいいのか、誰に相談したらいいのかすら分からんということもまあ多いもんです。

 シンプルなマネジメント術と謳いつつ、「問いを共有する」とか「なぜ決めたことが実行されないのか」といった結構深いところまで手を突っ込んで準備しておかないと3分間部下と有意義な話をすることも実はむつかしいということがこの本を読むと良く分かります。

 仕事とはなんぞや、マネジメントとはなんぞや、という方向から、人が人を動かすための根本的なところに光を当ててるところに深い感銘を覚えた本です。今日からやれ、といわれても、内容を咀嚼して「こういう方法でいこう」と考えがまとまらないと実行になかなか移せないのが難点ですが。

● 『日本経済「常識」の非常識』(上野 泰也・著)



 いわゆる閉塞感本のなかでも、経済を切り口に分かりやすく論ずるのがこの本。「サイボーグ経済崩壊の始まり」と題して清朝末期の経済情勢に模するなど、随所にニヤリとさせられる論述があってとても面白いです。経済情勢に関する見識では、前著「デフレは終わらない 騙されないための裏読み経済学」で論じられていた未来予測はある程度命中していることを考えても、確かに常識のフレームを抜いて純然と経済のことを考えればそうなるしかないのだろう、という部分は感じられます。

 この手の本の反論に「では、何をしたらいいのか、という根源の問いに答えがない」というのが多いんですが、それは経済学の範疇ではなく哲学なんだろうなあと思うわけで、むしろ「自分がどう生きたいか」のグランドデザインを作る際の参考として読むべき本だと思います。

 最近、経済論壇みたいなものが、どうしてもリフレ派・反リフレ派や、BI論争などでショー化、プロレス化している状況なんで、一線を画して粛々と論ずる上野氏を高く評価したいところです。

● 『ウェブを炎上させるイタい人たち-面妖なネット原理主義者の「いなし方」』(中川 淳一郎・著)



 どちらかというとイタい人たち側に見られがちな私もなるほど納得の論述が多い好著。処女作の「ウェブはバカと暇人のもの」に比べるとはるかに論考がしっかりして、書き慣れた感じを醸し出すんですけど、ネット上ではいまひとつ話題になりきらず残念な感じがします。いまこそ論ずるべき内容だと思うんですけどね、twitterが流行りそうだし。

 「ネットは成熟した」という文脈から、ネット社会の一般化とそれに伴うガキ・キチガイ排除の論説はとても冴えていて、私もネットは現実社会に遭遇して取り込まれていくだろうと思っているのでまったく同意する部分であります。

 むしろ、炎上のようにネットコミュニティの剥き出しの部分より、今後は出会い系サイト化したケータイゲームサイトやソーシャルアプリで起きる「本格的に悪い大人をどうするか問題」に足を踏み入れるタイミングが来たような気もするけど、これはまた後日に。うん。

● 『ネット帝国主義と日本の敗北―搾取されるカネと文化』(岸 博幸・著)



 プラットフォーマーの寡占がコンテンツプロバイダーの収益基盤を侵し、結果として文化の再生産サイクルが磨耗して大変なことになりますよというのが本書の基本的な趣旨。まったく賛同。それに対してどうするか、という部分については、現在各業者業界は生みの苦しみで、とはいえ経済原理に反した介入をするには時宜を逸したのも間違いなく、各所で苦しい戦いが続いています。

 日本の敗北、という観点では、まあ文字通り敗北なので、どういう負け方をすれば次に繋がる戦いができるのかという観点で論じて欲しかったところですけど、ようやく知的財産権に関する国の対策も徐々にまとまりつつあるので「どこまでが敗退許容ラインか」みたいな論争はこれから起きるんでしょうかねえ。

 興味深い業界の事例なんかも盛り込まれていて、ああ他の業界の戦線はこうなっておるのだなあということを実感できる良い本です。