昨日、コンテンツ業界と産業政策に関するエントリーを書いたところ、思わぬ方面からクレームが来まして、どうやら文意を正確に書かなかったのがいけなかったかと思い、補遺のエントリーを掲載します。

 誰かやどこかの会社を揶揄する目的で書いたエントリーではありませんが、気分を害された方には深くお詫び申し上げます。

いやほんと、コンテンツ業界はいったいどうするんだろうね(雑感)
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2010/03/post-001f.html

 少々専門的な話を含みますので、分からんという人は上記エントリーでご容赦ください。とても長いので読み飛ばし奨励です。
● 「コンテンツ」て結局何よ

 一応、私なりの定義で。

 コンテンツ=対価を得るために生成された情報
 コンテンツ産業=情報産業

 では無償で提供されるものはコンテンツではないのか? という問いについては、評価される、評判になるという精神的報酬もまたシステムのひとつだという認識。なので、同人もコピーされ流布される海賊も扱われているものはコンテンツだと考えます。

● 業者否定=海賊行為肯定ではないのか

 海賊行為(pirate)や脱獄(Jailbreak)を支持したことは一度もありません。

 自社や関係先の被害状況を確認するため以外で、違法コピーや脱獄を行ったこともありません。

 欧米で海賊党が議席を確保するなど、アンチコピーライトの動きがあるのは事実ですが、個人としても私の関わる組織・法人としても、これらを支持し奨励したことは一度もありません。

 むしろ、将来はいざ知らず、現行法では違法そのものなのだから、憲法で認められる自由をある程度制限しても、コンテンツホルダーを含むステークホルダーの権利を守るための座組みを作るべきだ、と思ってます。

● 局地戦とはどういう意味か

 常識的に考えていただきたい部分ですが、コンテンツ業界全体の退勢を太平洋戦争になぞらえ、私や私の関係先が陥っている個別事情を局地戦と表現していました。だから、特定の会社を「大勢に影響のない捨て駒」と言うつもりもありませんし、そのような書き方もしていません。

 なので、日米戦争戦線を広義のコンテンツ業界とするなら、局地戦はコンテンツ業界の一角を為すゲーム業界の、さらに部分的な戦闘であるPCオンラインゲーム、ブラウザゲーム、スマートフォン向けアプリケーションとその周辺にあるIP争奪戦ぐらいまでを指しています。

● 日本資本のゲーム会社だけを考えた議論ではないのか

 私どものお取引は、金額ベースで75%が日本以外の市場で得た売上です。

● パチンコ・パチスロ業界は無視するのか

 本件コンテンツ業界に対する産業政策のあり方や、諸制度の是非を考える上では、すでに自活的な経済システムを完成しているパチンコ・パチスロ業界は範疇ではないと考え、意図的に外してあります。

 ただし、コンテンツ産業の育成で無視できないアニメ業界や邦画・映画業界については、これらのパチンコ・パチスロ業界の貢献を抜きには語れないというのはもっともであり、片手落ちの議論だったと思います。

 一方、両論併記するのであれば、より広い意味でエンターテイメント産業(コンテンツ産業⊆エンターテイメント産業)を考えるならば我が国のパチンコ・パチスロ業界も国内の高収益構造を他国でのビジネス展開に活かしきれず、国内も成長が鈍化し、将来にわたって成長性が確保されているとは言いがたい状況であると認識します。

 私どもの守備範囲に、やはりパチンコ・パチスロ業界各社が参入した経緯もありますが、こちらの業界に適応しきれているかと言われますと議論の余地がございます。

● SNS三強は無視するのか(GREE、DeNA、Mixi)

 各社の競争戦略が功を奏し、大変高収益な成長企業に脱皮したことについてはもちろん認めます。

 ただし、産業全体の問題で考えるならば、公式サイトから勝手サイトへ商流が変化する中で、対応の遅れた同業他社の売上を巻き取る形で事業を成長させた形であり、産業全体の売上を牽引するには至っていません。

 パチンコ・パチスロ業界と同じく、これらの影響力は国内市場に留まっており、コンテンツ産業の国際競争力を考える上では、彼らのビジネスが国家的な支援に値するという議論にはなかなか踏み込めない部分があります。

● コンテンツ産業の競争力強化の方法を思いつかないから文句を垂れているだけでは

 その側面があることは認めます。

 一方で、日本の産業史の中でも製造業の世界的躍進に有効であった手段はコンテンツ業界に充分活かせることは、局地戦の資金や技術や企画を預かる身として提唱できるものもあります。

 ・ 知的財産の外国市場での保護に関して

 マジコンに限らず、日本のコンテンツは諸外国で大量にコピーされ、流通しています。これら海賊への対策は、もっぱらプラットフォーム事業者(任天堂やソニーなど)による自助努力によって支えられてきました。

 具体的には、違法コピーで売上を立てている業者を各国で発見し、各国の法律に照らし合わせて訴訟を起こし、判例を積み重ね罰金を勝ち取ることで、業者が巨大化しないようサーチしながら権益を守るというものです。

 海賊対策は国内もそうですが、より違法コピーの流通の絶えない海外市場においても重要で、違法が当然になっている海外のサーバーに置いたイメージを国内でダウンロードするといった方法も一般的であることから、国内の著作権管理関連法案の整備と両輪で推進していくべき重要なテーマです。

 しかし、コンテンツ関連は日本の大事な戦略資源であると語られるものの、これらの権益を守る具体的な活動が主に企業の活動によって支えられている現状は何より先に改善するべきです。これは、米英などコピーライト、プロパテントを国策で推し進めている自由貿易諸国と利害が一致するもので、今後主流になるDLC(DownLoadContent)市場のデファクトにおいても日本企業の立場をより高めうる活動を政府はコミットする必要があります。

 ・ 意匠の保護について

 もっぱら中国や韓国のデッドコピー対策になりますが、日本のコンテンツ、とりわけゲームに関してはシステムからレイアウト、場合によってはモーションにいたるまで丸パクリのコンテンツが何の制限もかけずに合法商品として流通しています。

 文化商材ですから模倣もやむなしの部分はあるものの、キャラクターの造詣やUI、システム構成にいたるまで流用されているものについては、仮に当地市場で自社権益がなくとも制限をかけていくべき性質のものと言えます。ディズニーランドのパクリと同様に、無形資産のパクリについては個別企業が現地法務を使って訴えていく手段に出ては、先方の司法に判断を委ね逆に合法の墨付きを与える可能性が高いという点で有効ではありません。

 パクられた日本企業もあまり政府を頼らず情報が集積されない問題もありますが、著名な事例ではガンダムの商標登録が韓国で通らない件も踏まえて、権益や商流の元となる国家資源については強く留意する必要があります。

 ・ エンバーゴー対策

 これももっぱら中国の問題ですが、現在我が国からオンラインゲームほかコンテンツをネットで流通させるためのあらゆるビジネスが許可制となり、現地で有力なパートナーに多額のロイヤリティを支払うなどの譲歩をしてもビジネス自体が実施できないという不均衡な状態にあります。

 逆に、中国のコンテンツは自由に日本に上陸しており、明確な貿易不均衡が存在しているものの、具体的な対策を求める窓口すら明確にはありません。上記意匠の問題も含めて、日本の製品はすべて違法コピーで流通する代わりに、それを模倣してオンライン化させた作品は日本に逆流して市場を蚕食している状況はよく注視しなければなりません。

 同様に、ソーシャルアプリやブラウザゲームなどの成長分野においても、日本メーカーの権益は守られず放置されているに等しい状況であり、企業が個別に対中対策をしている形になります。下手をすると、当局はガチで誰も本件問題が発生していることも知らない、なんてことがあるかもしれません…。

 ・ エンジン、ギアリング投資

 製造業では極一般的ですが、日本ではコンテンツ開発にあたり、一品モノの制作を行うため、エンジン開発によるギアリングボーナス(量産効果)が得られないという構造的な問題を持っています。

 具体的には、ゲームを成立させるための各種コンポーネントを作り上げてこれを定期的にベースアップし、開発期間の短縮や効率化を図るための基礎的なR&D投資を奨励する方法です。代表的なところではUnreal Engineや通信まわりのエンジンパッケージ、スマートフォン向けCGMのエンジンなどですが、日本では残念ながら、できあがった完成物を品評し表彰する仕組みはあっても、ゲームエンジンの共有化やミドルウェアなどギアリングエフェクトを確立し製造工程を短縮するプロセスが評価されません。

 日本はゼロ戦、アメリカは量産品というたとえを良くされますが、日本ではゲーム業界に従事している人数が多い割に、リリースされる大型タイトル数が少ないのは、開発期間を短縮するための業界横断的な投資環境がなく、携帯電話向けコンテンツも日本独自の仕様であるため独特な進化を遂げてしまった弊害はあるように感じます。

 製造業では中小企業向けにセル工法やKJ法など作業効率化、製造問題解決のための研修が旧通商産業省時代に奨励されましたが、現在のソフトウェア産業でこのような業界全体が知見として貯めるための政策が不足しています。これは教育とはまったく別の次元の話です。

 ゲーム業界以外でも、漫画業界で表現の無断トレースが問題になったりしましたが、工法や表現の標準化を行うためにスポーツ・伝統芸能から日常スタイルにいたるまで国が著作物を買い上げ表現を自由に行う施策も検討に値するはずです。

● 資金調達について

 コンテンツを制作するためには制作費が事前に必要になりますが、我が国の産業においては民間各社の内部留保が重要な資源となり、これに株式市場などからの調達を加えてプロダクトの総数を規定してきました。近年の需要の分散化やデジタルシフトに伴い民間各社の財務体質が急速に悪化し、企業が操業するために必要な運転資金を考えて制作するコストをそのまま減らしたり、リリースするタイトル数を絞ったりする方向での調整が続き、コンテンツの質的低下を伴うスパイラルな業界の低迷が続いているのが現実です。

 一方で、ゲーム業界では多額の広告宣伝費を突っ込みミリオンどころか300万、400万をワールドワイドで売るというビジネススケールが一般化し、これが一時期、海外大手ゲーム会社の必勝法となったため、制作費50億、広告宣伝費100億、パテント/IP獲得費用20億というタイトルが乱立しました。

 国内メーカーも、このような風潮に対抗するために同業種での合併を軸とした産業再編が進みましたが、再編後の開発予算は一本あたりで見る限り逆に減る場合も多く、やはり縮小均衡の状態が続いています。

● 開発人材の流動化について

 国内海外を問わず、日本のメーカーで開発に従事していたメンバーの流動化や、移動の促進は毎回議案にのぼるんですが… はっきり言うと、ある特定の会社でずっと開発をされていた人が、開発実績あるからといって、他の会社のプロジェクトに入っても使い物にならないケースが多くあります。アジャストまでに半年から一年はかかる場合も多いです。これは、仕事の進め方に対する方法論が、各社固有のものであるため、どうしようもない部分です。

 なので、証券業と同じく仕事の流儀を同じくする数人から十数人の「チーム」が、独立するか他社パブリッシャーの傘下になるなどしてホッピングするケースが続出します。問題なのは、ゲームは当たりハズレが大きいので、前に当たったチームや、実績の多い大御所が期待や値段どおりの働きをすることのほうが珍しいことにあります。

 メーカー出身者が独立したあと、何年かそのメーカーや他のパブリッシャーからの仕事を請けるも、五年から六年ぐらいで下請けとしてお払い箱になりスタジオごと解散するケースがゲーム業界で後を絶たないのはこのためです。

 これは国策としてコンテンツ産業をどうにかしようとしてどうにかなる問題ではないです。

● プロデューサー問題

 より凝縮されているのがプロデューサー問題です。クリエイターとして社内実績を積んだ人が、生き残ってプロデューサーになるケースと、勤続が進んで現場作業をするような立場でなくなった企画マンがプロデューサーに昇格するケースとが多いと思います。

 ところが、ゲームのクリエイターとして求められた能力と、プロデューサーとして作品をよりよく世に送り出す能力とはまったく違います。むしろ、内向的で鬱屈しながら暖めてきた独創的なクリエイティビティと、多くの人と関わり作品の良さを知ってもらい協力を取り付けチームを率いるプロデュース能力とは真逆の性質と言えます。

 本当に長い期間第一線で結果を出し続けている優秀なプロデューサーはたくさんいらっしゃいますが、実際に関わったり外側から拝見したりしている限り、ご本人の資質と運による部分が大きく、俗に言う産業育成や知財戦略とはまったく別世界のドクトリンが必要であることは痛感します。

 不利な状況なのに、局地戦でなんとかなっているのは、これらの人たちが本当に文字通りなんとかしてしまっている現実があるからで、現場からするとこういう「なんとかしてしまう人たち」に適切な補給が行き渡れば、当面は大丈夫だろうと思います。

● 裾野とか

 あまり語られることはないけど、ゲーム業界だと小売業の苦境というのはかなりなものがありまして、ただし店舗流通は国内も海外も極めて大きいバッファであり、これも広い意味で業界にあたると思います。

 同様に、AMなどフランチャイズも苦境です。パチンコ・パチスロだとホール問題もありますが、これらの症状の根元は同根で、小規模店舗や少ないチェーン展開だと厳しく、商圏が確保できる立地でないと採算が合わないという状況です。

 これにオンライン販売や通販、DLCがありますので、業種として浮上の見込みはあまりありません。なので、これらのリアル業者はどうしてもカジノ法案とかそっちの方向に目を向けてしまうのですが、世界的にゲーミングマシン市場というのはこれまた成長が鈍化しそうな状況なので、そっちの戦場にこれから打って出るつもりですか、というジレンマは引き起こしています。

 ゲーム小売は専業だと死ぬしかないと思います。

● コンテンツ会計と減損

 IFRSが導入されるのが少し延期されたのですが、コンテンツ会計の分野でいうとIRRと減損の問題というのは、とりわけ上場企業の財務では極めて問題視される部分です。

 なので、投資部分をファンド化したり、委員会方式でというオーダーも多いものの、大作のパイプラインが入りから出口まで3年が平均とすると常時7件から8件は回していないとビッグプレイヤーにはなれません(某社Yakuzaチームのように毎年出る化け物もいますが)。

 しかも、作品ポートフォリオを作って総合メーカー、総合パブリッシングを目指すと「年末売るものがない」等のジレンマを解消するために、これまた常時複数の外部スタジオを平行して回さなければならないという事態になり、制作体制ごとにコンテンツ会計上適用すべきルールが違ってきます。

 うっかり納期が遅れて期ズレとか起こすと大変なことになるので、とにかく特定の時期にタイトルを間に合わせなければならないという理由で、もう数ヶ月手を入れれば良作になるはずなのに無理矢理リリースされた中途半端な作品が出てしまいます…。

● これらの風景は、ここ五年ぐらい変わっていません

 いろいろと述べてきましたが、局地戦としての問題は2000年ぐらいからずっとこんな感じで、合併が進んで少しは良くなるかと思いきや… というところから五年は変わらずいまの状態です。私も外資の傭兵風情とか業界ゴロとかいろいろ言われつつやってきましたけれども、一番ツラいのは現場で実際のプロダクトを組み上げているDやPGなど鉄砲一丁で頑張っている人たちだと思います。

 もちろん、CESAやゲーム白書のような包括的な報告やデータも重要です。一番大切なことは、産業政策としてどこまで民間に国家が踏み込むべきなのか、民間はどこまで政府を頼っていいのか、現在起きている問題を解決するためのアプローチで何が効果的で、どういう優先順位をつければ国益が護持されるのか、という視点だろうと考えます。

 今回、お怒りの声を頂戴したのは「国が金を出して対策を取ってくれるというのに、お前は文句を垂れて妨害しようというのか」という内容でした。私の考えは、国の出す金もまた民間から納めた税金であり、これが有効に使われない限り産業は良くならないし、その産業に従事する私たちの生活も良くならない、ということです。しかし、業界が苦しいからといって、国が助けてくれる、何らか補助されるということを期待することが、長い目で見て望ましいことでしょうか。

 自分の職掌や経験から導き出されている、望ましい対策は、コンテンツを石油のように捉え、コンテンツ産業を製造業と考えて、国際競争力を高めるために産業の効率を上げて、利害の一致する諸外国と協調して自国に不利ではないコンテンツ貿易の体制を築くことだと考えています。

 総花的で長期的視野に立った対策も必要ですが、いま目の前のクリエイターやプロデューサーや企画に必要な資金が行き渡らず、タイトルが絞られ人員が削減されているのです。成長産業であり、国家が考える戦略資源であると規定されているコンテンツ産業が、大手から下請け零細まで国内需要の激減で大変なことになっています。

 いま好調で潤沢な資金のあるパチンコ・パチスロ業界を国が取り込んで、彼らを軸に産業再編すればいい、というプランBは、アニメ業界で上手くいっているでしょうか。

 まあ、そんなことを真面目に考えたりもしていたのですが、ネットの片隅ですら目障りに思われるようなので、続きは4gamerで書きます。kazuhisa助けて!