来期予算とか決算準備とかいろいろあるわけだけど、投資先が株式交換でバイアウトされたので、その流れで大企業さんの経営企画の現場を少し触ったんだ。顧問契約も残っていたし、来いって言うからさ。
 最初は和やかだったさ。「山本さんのブログ読んで参考にさせてもらってます」とかリップサービス喰らったり。やっぱりプレゼンや資料作りなんかは惚れ惚れするほど上手い。マーケティングに関する議論とか、商品分野ごとの戦略とか、海外販売拡充のためのロードマップ作りとか。プロだなあと思うよ。

 で、本丸の決算に関する議題になって、ちとびっくり。売上的には確かに無視できない大きさになってるけど、経年的なものもあって販売は頭打ちで、利益も随分でなくなったなあというような事業があって。すっぱり止めてしまうか何らか版権でも持ってきててこ入れでもするか、どっちにしても縮小均衡をこのまま続けていっては国内の体制を維持できないよね、という。

 そしたら、財務担当の人、何ていったか。

「過去の販売実績からするに、ここまでは販売が回復するはずだ。営業を強化しよう」

 いま、何と? 営業に資源突っ込めば実績あるから販売が回復? 何言ってるの。終わってる代物じゃないですか、それ。まだ客がついてるだけで丸儲け、コスト安く作れる体制にシフトして手堅く事業継続するという話ならまだ分かる。でももう充分ライトユーザーからお金吸い上げて、存分に儲かったじゃないですか。繋ぎの商品も開発終わっているわけだし、終息させて商品ラインアップを整理すればいいじゃないですか。

 でも何も言わなかったら、小売店向けの販促強化とバナー広告増量で売り上げ減に対応という不思議な結論に達しておしまい。たぶん、来月あたりから予算消化気味のバナー広告がたくさんブログとかアドネットワークに出回ることになるんだと思います。

 次に、開発セクションなどから上がってきている新しいビジネスについて。意欲的なものや試験的なもの、試みとしては古味だけどいろいろ考えてローコストで実施できそうなもの、組み合わせで工夫したと思われるものとさまざま。開発セクションでとりまとめられたお話を整理してプレゼン、まずはそこまでは普通。

 ふたたび、財務担当登場。

「それを全部自社の人件費でやると高いから、中国の外注先でやろう」

 何でそうなっちゃうの。っていうか、あんたこの前中国のその外注先で喧嘩して帰ってきたじゃん。思い通りの品質にならなかったから金払わないぞーとか言ってさ。何より、新規のビジネスモデルへの取り組みや、新技術やらコンセプトやら、その手の一番価値を生ませるためのR&Dを外へ、しかも情報管理のしにくい中国に出しちゃってどうするの。

 意味が分からないので、じゃあ何で国内でクリエイターと企画を雇ってるんですか、彼らはやることないじゃないですかというと、これからはグローバルなんだと。世界で通用するサービスを作るためには世界標準の何とかかんとか。いやいやいやいや、あんた最初に「人件費高いから中国で」って言ったじゃん。世界標準関係ないじゃん。おまけにそれって中国水準じゃん。

 最後に、事業再編の話とか。途中から話に加わったので、半年以上から進んでたと思われる議論の内容が私には良く分からない。でもなんかプロダクトマネージメントに精通したプロデューサーを長期的な観点から育成、確保しようとか言ってて、お前のとこの会社って失敗したPやDを根こそぎ解雇したから売上を維持するためのラインが確保できなくて外注管理もままならないので、いろいろ買い物してるんじゃなかったの。

 育成と言うからには、プロダクトを発案からリリースまで一貫して担当した経験を成功でも失敗でもたくさん積ませて、大事に抱えておかなければならんと思うのだが、あまりそういう発想はないらしいです。教育のためには失敗は財産、思い切りやれ、とか訓示を垂れておいて、いざ事業がコケてみると会議で吊るし上げたり反省文書かせたりする感じなんですかね、知らないけど。

 でも、皆薄々「これじゃ駄目だ」と分かってると思うんだ。それが、4時間、5時間と会議をやると、なんとなく意識がぼやけてくる。資料やプレゼンは確かに立派なので、そこまで言うんじゃそういう方向にしてみようか、という風になるのもまた気になる。でも繋げて考えると、さっき「幅広いユーザーに受ける製品作り。自社製品を通してユーザーに感動を与えられるものを」と言ってたのが、次の議題だと「尖ったアイデアが乏しく、企画力が低下している」とか問題点を語ってるんだ。尖ったアイデアは万人受けしないだろ。で、会議の後半になると「じゃあ次回」となる。

 思うに、短期と長期、育成とコスト管理、国内と海外、全方位外交と独占、新技術と統合性といった、相反するものを個別の議題ごとにその場のノリで何となく判断しているから、「短期ではコスト管理を徹底するけど、長期では多ライン管理できるプロデューサーの育成」とか訳の分かんない結論を出してしまうという。

 一番いけないのは、全員が真剣なんだということで… 真面目に考え、議論した結果、出てきた結論が「どうしてお前らそんなに馬鹿な判断したんだ」というような事例になりうるんです。個人個人は、さすがに非常に能力的にも高く、よく物事を考え、長期的視野にも現場感覚にも優れ、何より会社と製品とユーザーを愛しているんだなあという素晴らしい人々なんですけれども…。

 なので、予算も総花的になります。あれもやり、これもやり、利益が出なくても他がそれを埋めるのは嫌だから、とりあえず持ってる。国内も海外も。海外は強化したいけど、手綱を締めるのは日本で。だから海外に強い日本人を育てよう。でもそういう人は社内にいないよね。コストを減らして効率的な経営をしよう、でも全部やる方向でまとまっちゃってるので、一個一個の予算はやや少なめ。

 …勝てるわけないよねえ。貰った株、どうしよ。

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