景気が悪いのもあって、世間では能力本位でしっかり仕事をしてくれる人を選別するようになったのか、皆さん不思議な相談をお持ちかけになられるケースが増えました。ああ、もちろん私が一流だなどと傲慢な考えを持っているわけじゃないですよ。どちらかというと敗戦処理がエキスパートだというだけで、変な仕事が押し付けられてくるというだけの話です。
 で、あっと驚くような大手企業さんの、あーあと思うような下水処理案件が頻繁に流れてくるわけです。まるでクソ溜めのような世界ではあるんですが、もうそういう汚い案件を見てもどうも思わなくなってきました。金額がでかかったり、関わっている人数が多かったり、関係先が大手企業だったりするだけで、汚いものは汚いわけですね。

 そういう「みんなが逃げ散ろうと思っているところでの経済ババ抜き」で大事になる前段での見極めというのがありまして。

○ 失敗大型案件は、たいてい発起時点で偉い人が関与している。

 大型案件を立ち上げられるような人は、たいてい偉い人が作ったプロジェクトですから、案件をうっかり触ってしまった場合はその偉い人がまだその界隈に存在するかどうかを確かめます。酷い場合は、周辺の大手企業を焚きつけるだけ焚きつけて、集まったお金を自分の息のかかった会社を下請けに入れるなどして存分にカネを引き出したあと、頃合を見計らって別の椅子を確保して逃走していたりします。別に違法でもないし、問題があるのならその当時の関係者が声を上げなければならないのですが、何しろ相手は大物ですから、真正面から反対したら自分の身が危ない。結果として、吸い尽くされたあとはでっかいクソのような案件となって、世間のど真ん中で異臭を放っていることになります。

 あくまで一般論であり、例えばなんですが、竹中平蔵さんという素晴らしい政治家がおられまして、学術経験も豊富なので、良いポジションを用意して、お金も引っ張れる算段もあるからというので、彼の協力も得て大きいお社を建てKMDとか作ったのはいいんです。だけど、この不況の状態で、竹中さんの金看板でアホほどお金を出してくれるというような、見返りゼロの学術資金を凄い勢いで貢いでくれる篤志家など存在しません。何か別の事情でお金を出そうとされた方はいっぱいおったようですけれども、社会人大学院とはいえ、大学ですから教授のポストとか乱発して、論文を書かない岸博幸さんみたいな人を官邸から連れてきて据えちゃったので、当然揉めます。もちろん、合法ですし、彼らが直裁的に悪いというわけではありません。で、知らない間に竹中さんはパソナの役員とかに就任され、これほんとどうするんだよという話であります。

 敗戦処理の要諦というのは、敗戦を収拾するためのシナリオ作りと、後ろ向きな協力者のマイナスサムゲームをどうコントロールしながら最終的なシナリオに着地させるのか、というプロセスワークにあります。ステークホルダーに損切りを促し、放棄してもらうという考え方は、当面の資金繰りさえどうにかなれば法的整理でも良い場合のみで、実際問題として地雷のような案件というのは「潰すに潰せないけど、存在していると迷惑だし皆が損する」けど「カネで決着できない」問題で炸裂するわけです。

○ 逆に、大物がのめりこんじゃってて、周囲の言うことをまったく聞かなくなっている。

 いわゆる「誰が鈴をつけるんだ」系の敗戦処理は、必ず返り血を浴びる要員が必要とされる点で、より性質が悪いと言えます。だいたいのめりこんでる大物は、老人か、傲慢な性格特性をお持ちの方であることが多く、誰がどう見ても厳しい状況なのに、成功を信じ込んだうえに何も知らない他人を巻き込むので、放っておくとどんどん損害が大きくなります。偉人というのは、「失敗しない。何故なら成功するまで頑張るからだ」という価値観の人が多いんですが、成功するまでに道端に転がる累々とした屍の類は目に入らないのです。

 当然、関わるからには死体になりたくないので、どうにかしてプロジェクトを止めてもらうか、最低でも方向転換するか進むスピードを落としてもらうことで調整することになります。その場合、必ず必要なのは憎まれ役です。あいつが案件を潰した、と金看板を背負った人に罵倒される役割は、モノの分かっている人からすると神です。世間的にはババをひいた人ですけど。

 あくまで一般論であり、例えばなんですけれども、JAL再生タスクフォースというのがありまして、そこに冨山和彦さんという方がいらっしゃいました。彼を中心にして再生の専門家集団、という触れ込みで入ってきたものの、彼らの得意な方法は解体であって、失われた利益や低下した売上や喪失したモラルや消散した技術や墜落したブランドを立て直すノウハウではありません。JALという問題を解決するには、彼らの能力はミスマッチであることぐらいは皆分かっていました。とはいえ、プレゼンも上手いし能力も高く、大変魅力的な人々なのは間違いないのですが、本来は何の権限もないはずのタスクフォースの禅問答のような答申の影響で、結果として政策投資銀行から何千億か無闇な救済金が拠出される騒ぎとなり、これを指示した前なんとか大臣の金看板の問題も出て、結果的に地雷を皆で踏んで大爆発をしてしまうことになります。ただ、悪役としては最適の活動をされたのは事実で、本来ならJALの歴代経営陣が経営責任を取るべき事案であるにもかかわらず、冨山さんがアホ呼ばわりされる状況になったというのは特筆すべき点かなと感じるところであります。

○ 組織の目的を達成したのに、そこに偉い人が座っているから組織が存続してしまった。

 立派なお題目を掲げて予算が投じられ、それなりに成果を出して組織設立時点での趣旨や使命を果たした組織は結構あります。本来であれば、もうこれであんたがたの役割は終わりでありお払い箱であり用済みでありお疲れ様でしたというお話になるはずが、すでにその組織は人も雇ってるし偉い人に理事とかお願いしてるし関連団体に予算もつけててそこには外注先もぶら下がってるし潰すわけにはいかないよねそうだよねということで、やることないのに存続しちゃうことになります。

 で、本来やるべきことではない内容にまでダボハゼ的に機能拡張して存続していると、想定していなかった仕事が出たり、もともと向いてない人たちを組織してきたことなどが理由で、失敗案件が続くことになって能力が低下してきます。さすがに、周辺に居る人たちはまともなので、もう必要ないんじゃないかということぐらいは分かってるんですが、それを言うとそこに居る人は失職であり明日からハローワークであり夕飯はおかず一品であり妻は泣いて離婚であり日々酒浸りの生活を送るかもしれないので、積極的に「あれはお取り潰ししておこう」という話にはなかなかならんのが実情です。

 それもあって、民主党が「政治主導」「脱官僚主義」を言い出したとき、予算関連を考えるにもう不要な外郭団体や組織は自動的に取りやめになるんじゃないかとドキドキしており、業務仕分けをするっていうんで「こりゃいよいよ存続が危うくなってきたぞ」と覚悟をしていたんですが、何だか知らないが全面的に温存され、出向していた役人もいまだにそこにおり、理事にも普通に給料が払われている状態で、なーんだということであります。しかし、機能不全なのは変わりがないので、そこに組織が存在しているだけで常に敗戦処理を続けなければならないという苦行のような絵図が存在していることになります。

 ちなみに、あまりにも使えないので早く死んでくれないかなと日々願っていたところ、昨年暮れにご病気になられてお悔やみ申し上げます(AA略)と思っていたのが、関係省庁からもっと使えない人がやってこられまして、しかも大物OBなので文句も言えず、おいこれいったいどうするんだという問題が発生している事案がエネルギー方面にあるようですけど私は関係ありません。

○ より新しい、次世代の敗戦処理を目指して。

 基本的に、関わっている人たちがニコニコしている案件というのは、パイが大きくなって、利益が膨らんで、文句を言わなくても常識的な努力さえしっかり払っていれば不安がない状態に限られます。逆に言うならば、いま儲かっていても来年は分からんとか、いまもう金がなくなりつつあるとか、人事抗争に明け暮れてて本業に集中できる状態にないとかって事案は、再起可能かどうかの判断を下すリーダーシップのある人がいるかによって結論が異なることになります。このリーダーシップを取る人が、必ずしも偉い人とは限らないのが要注意です。偉い人は、やりたいことに集中したがるので、うまくいかない案件は取り巻きに任せて自分は常にフェードアウトしようとします。偉い人がリーダーシップを発揮するタイプの物件での敗戦処理は、偉い人がその物件にのめり込んでいるときです。

 偉い人がリーダーでない場合、たいてい、リーダーシップを発揮するための前提条件があります。創業者や大株主の一族や部門長であったり、その組織で主たる部門を育て上げた人だったり、財務部門のトップだったり、あるいは労組、役人あがり、銀行から来た、MBAとりました、社歴が長いなど、必ずその人のバックグラウンドがリーダーシップの根源となります。ところが、それは同時にその人の欠点であり、失敗のポイントを兼ねております。創業者が昔からの成功体験を引きずったまま組織を自滅に追い込むとか、自分の部門の利益ばかりを追求し調和の取れた予算が組めないとか、MBA取ったけど本人はただの馬鹿だったとか、そういう個別の事例ごとに行うべき解決策は異なります。そういう解決策が然るべきタイミングで発動できなかったとき、事案は再建・再生案件から敗戦処理へと自動的にシフトすることになるのです。そして、何故か敗戦処理に限っていうと、社内で話されている事情よりも、他所から出る話のほうがよほど正確で速い、ということも容易に起きるわけです。

 あくまで一般論であって、例えばの話ではありますが、講談社という立派な情報産業の会社があって、野間氏ご一族という高潔で素晴らしい人々が経営に関与されておりながら、まことに残念なことに新しい技術への対応が可能なビジネスモデルの構築にやや失敗し、なかなか調整に手間取っている会社さんがございます。この難局に、どういうリーダーシップを取られるのか周囲も注目して見ていたところ、何故か不動産業者から面白財団の物件が出ているという話がまことしやかに伝わり、ああ、そういう方法で再建をお考えなのであるなあと本体が何か言う前から関係各所で衆知の事柄であるというような類例は山とあります。それを見て、これは再生可能な案件なのか、敗戦処理に突入するのかという皮算用が始まるわけでありますが、個人的には大きいお取引もないのでどうでもいいです。

○ 敗戦処理のシナリオ作りとは。

 運悪く、悲しむべきことに敗戦処理をしなければならない、そういう状況になった場合にまず先に考えるべきことは、「この損害は誰が背負うべきか」という事柄です。ババは誰に押し付けられるために存在するのであり、ババを押し付けずに解決できる敗戦処理はありません。押し付ける側も押し付けられる側も、それ相応に合理的な理由をもってババを相手に渡そうとし、責任を取ることを求め、対応策を要求します。

 また、敗戦処理においては、すべてが腐ったみかんというわけではありません。腐ってないみかんは、どういう状況であれ、依然として価値があります。企業の敗戦処理だとグッドカンパニーとバッドカンパニーに分けて処理する方法で100%ではなくとも部分的に回収してよしとする類の方法論はありますが、リーダーシップを取りたいor取っている人の守りたいものがバッドカンパニーの事業だったりすると悲惨です。合理的でないので、被害が大きくなる可能性が高まるため、リーダーシップを取ろうとする人の、リーダーシップの源泉を奪う必要が出てきます。

 債権者集会のように、もう決まった手順で処理されるものであれば問題はないのですが、そうでない敗戦処理というのは解決に困難を極めます。パイが小さくなり、投じた資本が減少するかゼロになるか、場合によっては保証を入れちゃっててマイナスになる人も出かねないので、いかに関係者を束ね、根回しをして協定を結ぶか、そのためのシナリオとして、まったく敗戦処理の恩恵を蒙れないババ引き要員を早期かつ合理的に作り上げてしまわねばなりません。

 一番合理的な方法は、問題の根源を作った偉い人に、責任を取ってもらう方法です。そういう人に限って、社会正義や人間の精神について書き連ねたご著書があったりして、人に道を説いておられます。あるいは、自社の経営は満足にできてないけど業界団体活動や財界活動は非常に熱心に取り組んでおられたりします。そういう偉い人と信頼関係が築けるのが望ましいのでしょうが、だいたいにおいて我が国で権力を握っておられる人は他人を信用しません。高校が一緒だったとか、極少数の取り巻きに余事を任せて、こういう取り巻きに社会から隔離されながら、取り巻きと一緒に歳を取っている場合が多いわけですね。

 そういう人は、菓子折り持ってご挨拶にいってお願いを聞き届けていただくより、表でわーわー騒ぐのが手っ取り早い方法のようでありまして、ああなるほど本物の下水処理案件というのはこういうことなんだと、最近は新たな知見に多く遭遇し、一個人として大変感動しております。

○ まとめ、とか。

 ・ 全員が助かると考えるのはやめよう
 ・ リーダーシップを取っている人の背後関係を確認しよう
 ・ シナリオ(落としどころ)を作って根回しをしよう
 ・ 損を押し付ける先はしっかり決めておこう
 ・ 偉い人は必ずどこか癖があるので、見極めよう