オバマ大統領が演説で「政府の大小が問題なのではない。機能するかどうかが問われているのだ」と発言し、それを聴いた聴衆が最初は「まあそうだな」と思ったものの、オバマ政権が健康保険の問題とかで実は大して機能してなかったと思われたので支持率が急落した逸話を思い出したのが以下の議論です。

[雑記]「大きな政府、小さな政府」など存在しないよ
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20091030/1256911673

 もちろん、比喩としての大きな政府、小さな政府というのは厳密な定義がされているわけではないですが、政治思想の観点から言うならばおおよその意味は決まってます。高熱とは何度か? という定義を求めるようなもんですけれど、政治過程から考えますに夜警国家(ラッサール)が主権国家の最低限の小さな政府である、という暗黙のルールがあるんで、存在しないよと豪語しちゃうのは馬鹿の極みと思います。知性を疑われる前に修正したほうがいいレベルの内容ですね。
 ただ、その前段の面白論調と違って、エントリーの中盤から結構興味深い記述があって、凄く良いです。

[引用]もっと直接的な政府の関与があります。それ無しにはGoogleもYahooもマイクロソフトも大きく発展、どころか存在すら出来なかったでしょう。それは「特許」です。

 いわゆる、プロビジネスやプロパテントは貿易統制とならぶ国際的な政治関与の一種と判断すると、従来の大きい政府、小さい政府とは別に、政治が貿易を含む民間にどれだけ効率的に関与するのかという論題が持ち上がってくるわけで。

 経済に活力をもたらすために、政府が効率的に産業を育成できる人たちに有利な条件で事業を取り仕切らせ、国家全体の経済を拡大する方策に充てるというのは当然考えることですしね。それの技術の元が軍事技術であったのは疑いなく、それはそれで良いと思います。じゃあアメリカ経済の全体の何割が政府関与した技術で形成された産業なんだ、と厳密に言い始めれば、もちろん論旨は崩壊するんですけれども(笑)。

 いろいろグダグダした論述も並存しています。

[引用]ブラジル銀の一部業務停止 地下銀行と取引で初の処分

 これは大きい小さい関係なく、通貨発行権を含む信用創造は国家が管理するという基本的な概念に関連するものなので問題外ですけれども… ただ、政府の機能のあり方について、規定の概念をとりあえず置いて論議するというのは最近忘れられていることなのかなとも思うので、非常に興味深いところではあります。

 国家全体の支出における公共事業の割合や、公務員の人口比を他国と並べて検証することに、ワイドショーで素人を騙す以上の効用はあまりないと思います。むしろ、政治的分配がきちんと機能せず、格差はそれほど広がっていないのに貧困率だけは上がっているという所得構造から、都市と地方の財政問題や経済問題を考えなければならんようには感じるんですけどね。

 っていうか、これだけ論じる力がありそうな人が、あまりにも乏しい政治知識を元に時事ニュースをピックアップして誤解の極みの解説をつけた挙句、凄まじい勢いで見当違いな方向へ全力発進しているのは凄いと思いました。
 この辺の本を一冊読むだけで、随分見え方も違ってくると思うので、せめて体系的な政治学の知識の一端だけでも確保しておいて欲しいと願います。

『アメリカの保守とリベラル』(講談社学術文庫、1993年)
http://www.amazon.co.jp/dp/4061590723
政治学は何を考えてきたか
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480863744/