GIGAZINEがまた何か言っています。

「楽天」が抱えている10個の問題点まとめ
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20090529_rakuten_matome/
 一応、本質的なところで言いますと、GIGAZINEが「楽天は個人情報を10円で販売している」と「会員情報をスパム業者に流している」という、事実ならそのまま楽天に行政指導が入るとか訴訟祭りになるとか、それなりにインパクトのある燃料だったから盛り上がったんだと思うんですよ。

 記事が出たときは、それって普通にネットサービス業者が契約店舗に顧客情報を流すって実務上の問題に過ぎないけど、話として面白いし、相手は楽天で別に株持ってないし白黒どっちでもいいからガンガン逝こうぜ頑張れGIGAZINEアクセスぐらいは流してやるぜとしか考えていませんでした。

 で、楽天から公式に「お前らの戦闘力たったの5か… ゴミめ」とGIGAZINE報道全否定のお知らせがあり、何だよ俺達の暑い夏は終わっちまったのかよつまんねえ帰ろうぜ帰ろうぜといった情勢だったのだが、またGIGAZINEが立ち上がり再反撃のエントリーを書いていたというので見物に逝ったんですよ。

 だが、さすがにこれはねえ… んー、どうなんでしょう(長嶋茂雄風)。

 GIGAZINEにはこの手の法実務に強い弁護士にリーガルの確認を取るという行動様式はなかったんでしょうか? 最低でも、ガイドラインは読んでからのほうが良かったと思います。

個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/privacy/041012_hontai.pdf

 GIGAZINEの書く問題点その2、その3、その4、その5、その6、その7、その8、その9は、現行法上は適法か、訴訟の提起がいままでなく白に近いグレーとして運用されているもののように思えます。広報内容と実態が違うよ、というレベルの話ですね。被害実態がぼろぼろ出ていて消費者センターに鴨が行列しているという話ならともかく、委託業者に情報管理を委託していること自体は別に違法じゃなく、単純に商慣行上、不適切ではないかという疑義程度のことかと。

 基本的には、外部業者に対して安全管理措置を明記した契約を交わし、「必要かつ適切な監督」が行われていれば個人情報を外部に業務委託することができる、というのが個人情報保護法の大原則であって、これが駄目なら銀行や消費者金融の約款など、広範な個人情報を処理しなければならないサービスは合理化ができなくなってしまいます。これはほんと基礎的なことだと思うんで…。

 問題点その10は、10とナンバリングするまでもなく総論として楽天はGIGAZINEの従前の主張を門前払いしており、契約事業者に個人情報を約款に基づいて委託することの何が悪いのという話ですね。ましてや、顧客情報のダウンロードを有料化していることを指して、顧客情報を「販売」というような書き方をされたのであれば、そりゃ違うよということでしょうねえ。

 唯一、スパムについては関心があります。問題点その1の部分ですけど、これはきちんと検証して、楽天に突きつける意味はあります。ただ、あくまで一般論として、通常のスパム業者がリストとして楽天のような属性情報の曖昧なデータを使ってスパム配信するというのは、基本的にはやりたがらないはずです。だから、個人的には楽天と契約している特定の不良店舗が楽天との契約を反古にして勝手にスパム業者に顧客情報を売った、という話ではないかと思います。

 もし、楽天がグループ企業等に対して組織的に顧客情報を移動させ、あるいは不良社員がいてこれを流出させ、スパム業者やマーケティング会社にこれを転売するなどして収益を得ているのだとするとそれは問題ですが、そういう話だとさすがに業界騒然とするでしょう。つーか簡単にバレると思います。実際、バレた会社はたくさんありますから(ex. ヤフーBB)。そりゃほんと犯罪です。吊るしていいですよ。

 ただ、スパムやSEOの世界で楽天から情報が漏れて大量のスパムが出回っているという話はついぞ聴いたことがないので、興味はあるけど本当に楽天が糾弾されるほどに出回っているのかというと私は懐疑的です。興味深いので、ニフティさんとかその辺に協力を仰いでスパムデータを解析すればいろいろ出てくるのかもしれませんが…。

 本来なら、「楽天が顧客情報を販売」という衝撃的な情報があったのでネット界隈が騒然としたのだと思いますが、蓋を開けてみたら個人情報保護法の解釈の範囲内で合法、ただ商慣行上の不快感に過ぎない話だった、とするならば、非常に残念なことであります。何と言うか、酒場の情報で伝説の剣があるというのでダンジョンに潜ってみたら、クリムゾンレッドドラゴンが護っていたのはヒノキの棒だった、という壮絶なオチというか。

 個人的には、GIGAZINEは楽天を応援するより先に、この手の事案を手早く相談できる弁護士を探しておいたほうがいいと思います。せっかくアクセスがあって、業界や界隈に問題提起する能力を持っているのに、粗末な論理構成で社会派のネタを捨てている。