決算書が回ってくるシーズンでありまして、何とも多忙な状況になっておるわけですが。どこもベンチャー系はキツいな。一年前だと「年末には上場!」とかいう経営者がぞろぞろいたのが、まるでアリの巣コロリを置かれた巣穴のような荒涼とした世界に愕然。

 先日、某氏の出版記念パーティーに出たとき、ちょうど当事者がおったもんで、少し気になっていて、その後、決算が出て書類が回ってきたのを比較したら面白かった。そのまま書くのはさすがに気が引けるので、それとなくぼかして定性的に書き綴ってみる。

 基本的には、通信簿見た人からの応援メッセージだと思ってもらえれば。親心。マジで。
<経緯>

A社:最初は指紋認証システムの開発やアメリカ製のソフトウェアパッケージを輸入販売する会社だった。社長はいわゆる西海岸の人で、VCとかから4億円ぐらい出資を受けて00年ごろ創業。02年に創業時点での指紋認証システムがさっぱり売れずグダグダに。この時点で技術者半分解雇したり、別事業でやってたパッケージ事業は違約金支払って撤退。
 子会社作ったり人材派遣など諸々金になりそうなビジネスに手を広げてみたものの、それほど全体の改善には寄与せず。VCから社長が株式一部買い取って減資したり上場会社に新規出資を仰いだり、紆余曲折を経て、システム開発の受託事業に衣替え。決算期変更もあって今期で12期目ぐらい。

B社:業務解析ツールをはじめとする、web関連の業務支援、大量普及型の安価サービスの開発などを主業務とする。大学ベンチャーの走りで、大学のリエゾンオフィスだか経由でVCから6億円ぐらいの出資を受けて01年ごろ設立。経営ど素人のドクターとMBA取得者のコンビ。創業二年ぐらいは飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、無料サービスが乱立して収入は大幅に減少し自分が落ちる勢いに。
 大赤字になったらMBAの人は転職し、創業来の技術者以外は全員解雇に。ホモを経営者に抱える大手投資会社から出資金の剥がしに遭い、やむなく創業者が株式を買い取って独立。その後、あまりパッとしないwebサービス開発の受託や、flash関連のサービスやホームページ製作に従事。システム開発受託の割合は二割ぐらい。決算期変更があり、今期10期目。

<転機>

A社:どこで知り合ったのか、某有名VCコンサルタント経由で経営改善に着手。良く分からんところから大規模増資が。いろんな事業を展開する活動に拍車がかかり、子会社をたくさん作って経営を現場に任せる「エンパワーメント経営」みたいなものを実施。最盛期で2ダースぐらい子会社作って、本体は何とかホールディングスに。

 → 拡大するネット関連ビジネスの商機を大きく捉えようと、大型出資引き受け、多数のビジネス展開で成長した子会社が出ればよいというマネジメントへ。

B社:外部から経営のプロを呼んできてもなかなか成長に結びつくビジネスにはならないという反省から、学生プロパーやインターン引き受けなどで身の丈技術者を大量に養成。上から下まで「オール身の丈経営」。マネージメント能力不足に苦しみながらも安値でシステム関連受注ができる体制を構築しようとする。

 → 自社のできることを見極め、手ごろな値段で手ごろな発注を貰える体制へと切り替えて、どこにでもある開発会社へと脱皮。

<現状>

A社:07年までは黒字の連結子会社もあったが、7割がた赤字。うち、二社ほど急成長する企業が出たが、資金需要が旺盛になるタイミングでA社がホールディングカンパニーとして資金支援しきれず、一社は伸び悩みに、もう一社はより良いスポンサーを求めて出資者を募ったためマイナー出資に転落。

 赤字会社へのミルク補給が厳しくなってきたところへ08年ネットバブル崩壊で上場でのエクジットの道を断たれる。これからどうするんだろう。いや、マジで。

B社:06年ぐらいまでは「安かろう悪かろう」風情の開発会社で、何となく夢も希望も乏しげな魅力レス経営を積極的に邁進。その後、某鉄道会社の大規模受注が舞い込み、共同受注先の暴走というラッキーもあって大手SIerの単独孫請けにめでたく着任。

 ある程度力量のある若手技術者が高給に釣られて先に歯抜けのようにいなくなるという組織上のジレンマも抱えつつ08年まではゆるゆると成長、今期に入って「安くて日本語で発注できるシステム開発会社」として中抜き受注も増える見通し。

<説明>

A社:決算説明の内容は土下座ぽい文面で、金を払って面白い文章が読めるという点では合格点。大口で乗っちゃったVCとかはお疲れ様としか言えない情勢に。ほんと、どうするんだろうね。新しい増資先(と書いてカモと読む)を見つけるまではかなりしんどい日々を過ごすことになるのだろうか。

B社:総経費の実に七割が人件費という究極の全力チャリンコ経営だが、景気の悪化を追い風に出来る体制と言われるとこういうのしかないのかもしれない。売上に占める大手SIerからの受注比率が下がって、ちょっとは見られる状況に、と思いきや結構良い利益率。上場すんな。配当。配当。

<考察>

 IT業界も土方比率が増えて参りまして、ITゼネコンが充分な受注の取れない状況では、夢のないファクトリー型のベンチャーが地道に安値で受注しまくって成長、というスタイルが定着しそう。どこぞで出た「価格競争力」か「差別化」かといった競争戦略だと、上記二社のように「起業した時点での差別化」が訴求せず、成長できなかったときのプランBの秀逸さというのは大事なんじゃないかと思う次第。

 ある程度革新的な技術があって、これならいける、と思っても、半分以上、どころか成功率二割かそんくらいのものである。だから、積極的にこういう革新的な技術による差別化を狙って拡大を志して、駄目でも会社は存続し、株主もおり、従業員を喰わせなければならないのだから、経営者はどこかでロマンから「降りる」必要が生じる、と。

 降りたときに、手広く博打を張れる体制にするか、勝負から降りて生き残りに賭けるかは経営者次第だが、景気の良いときは博打もありうるものの、いまのご時勢でジャックポット狙って頑張って逝こうというのもなかなかむつかしいものでして。

 いやもうこういう状態では投資家も明日明後日今期来期上場して資金化できて売却益が出てラッキーハッピーなんてこと、ぜんぜん期待してないから。経営者として、社会人として、まあまあほどほどの成績を出しながら、少数株主をないがしろにしないで前向きに経営して半期に一度は電話をくれればそれでいいから。

 解散するまでが、経営者です。