チャットしていたら「面白い」というので、夜更かしして読んじゃったよ…。最高級の釣り堀じゃないですか。

海外で勉強して働こう
http://www.chikawatanabe.com/blog/2009/04/future_of_japan.html
日本を脱出した人のことは置いといて、そろそろ誇りある撤退戦の準備でもはじめましょう
http://d.hatena.ne.jp/gamella/20090429/1240935844
バカを蝕む「シリコンバレー」の呪縛www
http://d.hatena.ne.jp/AntiSeptic/20090505/p1
シリコンバレー在住コンサルティングのポジショントークに日本のエンジニアはどのように向き合ったらよいか
http://d.hatena.ne.jp/gamella/20090503/1241358318

 他にも、熱のこもった漁師がたくさんいて、誰が良いとか駄目とかでなく、面白いなあ、と。以下、徒然。
○ 外国、海外で学ぶことイコール、アメリカ西海岸逝きで決定なんですかね?

 モスクワ大学留学組(留学つーか逗留に近いけどな)として言いたいことは、日本が駄目だ、だからアメリカ西海岸という思考経路ってのは何だろう、と思う部分であります。

 勘違いかもしれないけど、爺の語感に少し私の感覚は近いと思う。

日本は資源のない国とか言われるけど
http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20090504/1241415393

 国力とか民度というのは相対的なものでありながら、個人にとっては「どの船に乗るのか」という決断を迫るものであるから、西海岸に逝って仕事をしている渡辺女史の言い分も分かるし、「それは単なるシリコンバレー病だろ」というAntiSeptic氏の議論も(書き方はともかく)非常に正確だと感じる。

 保守主義の観点から逝くと、渡辺女史の「もう日本はだめだと思う」は所詮渡辺千賀という一代限りの知性が導き出した結論に過ぎず、長い年月をかけて形成してきた社会全体の持つ教養や調和や一体感といったものは、そう簡単にはひっくり返らなかろう。

 ソ連からCIS、そしてロシアへと貧乏一直線だったロシアが、ロシア的に観て健全なナショナリズムと市場経済のメカニズムを一体化させ、資源バブルが到来したところで国威を回復した、というのと同様に、「もうだめだな」と当時が誰もが思ってた社会でも、自律的に結構回復していくものだろうと思うわけだ。

 ただ、個別の仕組みについては別だな。「日本の新聞業界が駄目だ」といった、特定のシステムや役割についてはいずれ終焉はくるだろうし、取り返しのつかない破綻は経験する。そういう、将棋の駒のひとつひとつが不利な状況に置かれていて、その駒がそこに立っていることだけでツラい、というのは現実であるわけで。

 渡辺女史のエントリーを読んで、なるほどと思いつつも、賛同はしない部分というのは、US(の西海岸)と日本(の一部のIT業界)だけを見て、優れているのもう駄目だのと論じてもしょうがないだろ、スイスだのアイルランドだの、一時期持て囃された地域がいますげーことになってんだぞコラというのは思う。

○ それはポジショントークなんだろうか問題

 結論を先に言うと、それはポジショントークじゃなくて、ミッショナリーによるプロパガンダでしょう、というお話。梅田望夫氏の言説や、gamella氏が例示した一連の流れは、それぞれ個人のオリジナルというより、米・民主党系と新自由主義のアイノコのようなプロパガンダに近しい内容を踏襲していると考えたほうが良いかなと。

 だから、日本の現実となかなかフィットしなくて、梅田氏のようにある種メディアからいきなり忘れ去られたり、渡辺女史に対して反発する記事もちらほら出るのだが、一方で、ある種の正論というか説得力も強いので、そういう考え方を受け入れ、理解しつつも「でも日本を捨てるかどうかとまで言われたら、いまある仕事もあるわけだから、そう簡単には日本から離れるわけにはいかないよな」という結論になりやすい。

 むしろ、西海岸流の競争主義を全面的に取り入れたシンガポールとか間近で見ていて「こんな競争状態って本当に長続きするの?」と感じるぐらい、個人に対して成果を求める図がある。そこまで緊張感のある技術革新の現場を日本はなかなか作れないでいるから、シリコンバレーのような環境というのは優れているし、それを上回る勢いで体制構築しているシンガポールなんぞは凄いことになっているのかな。

 平たく言えば、思想教育の延長線上にある、パブリックディプロマシーの典型かな。

○ メリットを語ってるけど、リスクはどこに逝っちゃったのか問題

 追記されている内容に被るけれども、成長している地域に身を置けば、自身の成長が大きな成功となって返ってくる、というのが渡辺女史の主張で。

 でもさあ、西海岸はまだいいけど、中国やインドでそれ相応の成功を享受して、現地で根付いてる人って、技術者でどれだけいんの? 留学組でも現地就職組でもいいけど、そういう日本人って身の回りにいます? ソ連やアメリカやオーストリアに留学したけど、その当時一緒にいた日本人で現地化して成功している奴らって、だいたいほぼ全員日本に帰ってきちゃってる。私なんかも、そりゃファンドは現地に置いたり税金の安いところに構えるけど、仕事のしやすいところに居ればその人の生産性は一番高いのではないかな。

 しかも、人生は仕事だけではない。結婚があったり出産があったり、自身や家族が病気になったりする。親もね。子供の教育とかさ。シンガポールとかでもそうだけど、メジャーリーグ待遇で呼ばれた研究者はアゴアシどころか3年契約何百万ドル予算使い放題の世界に居られるからいい。でも、実際に企業で働き、サービスを作り込み、顧客に提供する役割を担う技術者って、多くても俸給10万ドルから30万ドルぐらいまでじゃないか。保証はそれほどない。日本で800万内外貰ってる連中が、仮に給料倍になるからってほいほい逝くかな。

 海外で働くメリットは充分過ぎるほど分かるけど、アメリカ系企業が仮に駄目になった、経営が傾いたときに起こすジレンマって凄まじいよ。独身ならともかく、家族抱えて逝けるもんなのか。そっちのほうが不思議だ。大学出て20代は武者修行と割り切ってる技術者ならもってこいかもしれないけどさ。

○ 日本は海外資産の運用益で喰う時代に入ったと思うよ

 渡辺女史の理解は、貿易立国や産業発展段階論が前提になっていると思うんだ。あー、これは主観ね。違うかも知れんけど。日本の貿易黒字がなくなりましたさあ大変、日本を支えた産業が沈没だというようなお話でありまして。これとかな。

国や組織はどういう時に良くなるか
http://www.chikawatanabe.com/blog/2009/04/how_things_get_better.html

 こんなのもう十年前からずっと言われて来ていたことなんだよねえ…。で、日本の政治が壊滅的に駄目だ、それが真実だとして、海外と橋渡しをする日本人が増えるべきだ、という論旨とはあまり関係がない。レトリックとしては、否定し得ない事実をまず述べて、そこに関係のない主張したい内容を並べると説得力が出るという方法だよなあ。

 ま、言わんとすることは分かるけどさ。クソして寝るか。