権力の世界だと「流れ的に見て当時は正しかったが、時代が経て役者が変わると悪になりうる」という事例って多々ある。カエサルが「どんな悪法というべきものでも、その開始時点では立派な動機に基づいているものだった」と述べ、同時に「悪法も法であり…」という話なのだが。

「かんぽの宿」、民営化5年後の譲渡は「竹中平蔵氏の指示」
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20090205AT3S0500E05022009.html
 譲渡の内容や方法について、いろんな報道がされているけれども、郵政民営化に伴い既定方針を策定したのは小泉政権時代であり、中心になってこれを進めていたのは竹中平蔵氏であるから、まあそれは仕方がないのだろう。

 もちろん、にわかに批判の槍玉に挙げられそうな竹中氏も反論というか釈明のような文書を掲載し、いろんなところで語っている。

【竹中平蔵 ポリシー・ウオッチ】かんぽの宿は“不良債権”
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090119/plc0901190243000-n1.htm

 この論法、安倍政権とかであればたぶん通っちゃっただろう。間違ってはいないから。第一の「機会費用は乏しく、不良債権であるから処分することは政策上”改善”である」とか、第二の「オリックスの宮内氏は郵政民営化のプロセスに関係したことはない」とか、まあどちらも事実だし。

 ただし、鳩山総務相や総務省のちゃぶ台返しを民間人排除や役人の専横というには無理があって、不良債権であったとしてもいま売る必要はなく、売る期限を切ったのは当の竹中氏であるから、いまこの経済情勢でそんなことを言っても始まらないだろうという話である。また、宮内氏は本件とは関係なく、オリックスへの譲渡は公正中立であるという論拠も、これまた世間一般の常識的な見解では「お前らグルだろう」と背後関係を疑われ、何らかの作為がありえたと考えられた。結局、表向きの理由はともかく譲渡計画自体が崩れてしまった。

「かんぽの宿」オリックスへの譲渡を断念 日本郵政・西川氏が表明
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090129/plc0901291916011-n1.htm

 では、竹中氏が「個人で」裏金を貰い、私腹を肥やすようなマネをしていたかというと、そんなことはしておらんだろうと思う。だけれども、政界やメディアでの影響力を残したい竹中氏が、直接の資金ではなく肩書きとしての「慶応義塾大学教授」を維持するために、この手の仲間内企業などから研究費名目でスポンサーとして資金を入れてもらっていたとしたらどうなるだろう。

 同様のやり方で、腰巾着とかシンパとか微妙なのが慶応大の周辺にうろうろするようになったのも、恐らくはステータスを確保するための椅子を買ってもらっているからに他ならない。正直、彼らが研究分野で著名な実績でも上げることができたという話は聞かない。悪く言えば慶応大の教授なり准教授の名刺を持たせてもらって、その名前で商売したりメディアに出たりしてるだけなんだよな。せめて、竹中氏だけが学術に戻って政策研究の分野に戻るということなら、ここまで面倒くさいことにはならなかったのに、と思う。逆に、実践的な経済学者としての人脈や学識を裏から支えた一人は明らかに高橋洋一氏であって、彼の退官にあたって竹中氏がどういう経緯かきちんと面倒を見なかったことがここにきて響いているのではないかとも感じる。

 そういう意味では、竹中氏は学者としてより政治家として極めて優秀だったため、実績を独り占めするほど輝かしい実績を残すことができたことに対する功労なんだろうとは思う。それは誰もが認める。だけれども、彼が旗を振った新自由主義「的」なアプローチというのは、論理的な説得力はあっても世情の肌合いには合わなくなった。そうなると、彼に対しての批判が無原則に集中するがゆえに、彼がいままで実施してきた改革の実績は根こそぎひっくり返されるジレンマになる。まあ、政治的失脚の典型的なパターンだな。とはいえ、正面からの話はすべて合法だろうと思うので、なんらかどいてもらう方法を考えるんじゃないだろうか。慶応も巻き込まれるんだろうか。塾員として心配なところではある、正直。

 という夢を昨晩見ました。