いままでの田母神発言や論文がどのくらい正しいかについてはいろいろ議論があると思うけれども。

田母神俊雄・前航空幕僚長が講演 新潟
http://sankei.jp.msn.com/region/chubu/niigata/090202/ngt0902020324004-n1.htm
 閉塞感を社会が感じているときに、不安を和らげるような力強い民族的な言説に支持が集まるのは分からないでもないと思う。ただ、小林よしのりは知識人ではなく単なる表現者だったので、ある程度ものの道理が分かる人々には影響力が及ばないという点で限定的な支持者が集まっただけで終息したのに対し、田母神氏の場合は何より元軍人である。

 胸の奥深くにしまっておく私たち日本人としての矜持や自覚というのはむしろ持っていて然るべきだと思うけど、それを公然と、しかも自衛隊の元高級幕僚が公然と語り、しかも中身が結構間違ってるというのは幾らなんでもヤバい。さらにバックについていたのも微妙を通り越している。日本の軍事力というものは自衛的であり、侵略や拡大の野心はありませんよと心を砕いて諸外国に警戒されぬように、いままで穏便に事を運んできた従来のやり方に対する是非はあれ、あからさまに各国にこのような発言をしちゃう、そして注目されちゃうというのは、実にマズい。

 その意味では、佐藤優氏とか、ある種現役からは隔絶されたところで何か政治的にモノを言うのと随分性質が違う。また、ある程度学術的に担保された政策提言の形で古巣批判をする高橋洋一氏とも話しの程度が変わる。要は、田母神氏の発言は軍人属性やバックグラウンドの重大さに比べて発言内容がアレ過ぎて、関係者が迷惑しているようだ。

 過去30年以上に渡って欺瞞とはいえ「自衛のための軍隊」と銘打って諸外国に説明してきた外交が、田母神氏の発言のお陰で「やはり日本軍は心の底ではそう思っていたんですね」となりうる。これが民間人であれば、あいつはキチガイだ嘘つきだ悪い筋から金をもらっていたなどと時間をかけてどうとでも管理・処理するのだが、こと軍事に限って言うなら思想信条の自由というのは日本も例外ではなく制限され統制されているべきものだと考えるわけであるから、田母神氏が特別で、日本は発言自由な民主主義国であるというエクスキューズは通用しない。

 さらに寒いことに、日ごろパブリックディプロマシーとか豪語しているカウンターすべき人々が、田母神氏の件に関しては総じて静かになっている。現在絶賛考え中、ということならいいけど、どうもそういう話でもないらしい。欧州なら、本当に事故死するレベルだろうと思う。