いまちょい忙しいので、いちいち触れるのも何だけど。しかし、これはないわー(笑)。

直接金融という神話
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/b1b431def224a4643ad510f612d714d9
Link by link
http://www.economist.com/displaystory.cfm?story_id=12415730
 エコノミストの記事を読めば分かるとおり、実務上の手続き論の話をしているのであって、間接金融と直接金融とで分けた規制のジレンマなんてハナからどうでもいい内容なんだよねえ… どう規制しても証券化されるわけでね。今回良く分かったのは、池田氏は長い論文や記事のなかで、自分の持っている世界観と合致した一部分をズームして、それが主題と取り違えて解釈し、さらに直接関係のないその他の文章や引用を持ってきて論理を補強しようとすることが違和感を感じる原因なんだろうと思う。

 というか、規制の失敗は池田氏がクローズアップしたいところであるというだけであって、商品設計上の手続きや商品の価値への試算がうまくいかない問題(レベル3問題)の外郭というかフレームの話。おまけに、どさくさに紛れて「リーマンを政府の補助金つきでバークレイズに買収させておけば、納税者の正味の負担は数十億ドルですんだかもしれない」と書いてあるけど、それは瑕疵資産への保証は全額税金なのであって、瑕疵を発生させつつあるリーマンの試算のその価値を支えていたレバレッジというか貸し出しの担保となる裏づけが全額税金で埋まるだけであって、これをバークレイズが資産劣化のためこれを処理しようとしたら税金がかかるという点ではすべて納税者の負担なんだよね。別の意味で書いたのかもしれないが、いったい何を言いたいんだろ、この人。実務が分かっていればこんな与太はあまり書かないのではないかな。

 リーマン発行の債権で回収できる価値が8%台だとするなら、バークレイズが入っていても早い段階で処理に追い込まれるわけでね。アメリカの裁判所を経由した破綻処理が効率的というのは池田氏の言うとおり。ただ、それを踏まえても政府が保障つき(要は税金で債務の裏付けをつけるの意)でLBを処理したら国民負担が二桁小さくて済んだはずだ、というのは、池田氏が政府の無策を強調したいがために適当に言ってるネタに過ぎないとしか思えない。つか、最終的な強制決済とか考えたら、政府保証つきのLBをバークレイズがそのまま引き受けたら政府保証つきのLBごとバークレイズが倒れる、それどころかバークレイズが7個ぐらいまとめて倒れるから、バークレイズもお土産つきも買えなかったってわけで。池田氏の論理で言うなら、規制当局がグズグズしててLBが破綻して納税者負担が増えた、というよりも、買えもしないのに挙手してLB救済の時間をむざむざ二ヵ月半も食い潰した韓国産業銀行(KDB)のほうが余程戦犯ってことになるわけでね。

 たぶん、池田氏は「規制」とかそういう単語が嫌いなんだろう。だからエコノミストが「規制の失敗」とか一文余計なの放り込んでいたから「うおwwwwなんぞwwwwww」とか池田氏狂喜乱舞ゲージMAXで自論を補強しまくったってとこなんじゃなかろうか。

cf)「サブプライム問題に端を発する」のか?
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2008/10/post-7082.html

 これに関連して、最終爺老師が疑問に思っている部分は「ほんとにサブプライムが引き金なんすか」という話であるが、クライシスという点では、まあ実際そのサブプライムが引き金なので間違いではない。で、それに対して疑問を投げかけるnewsweekのコラムがまた微妙な出来映えであるので悩ましいところではある。もっとも、CDOに対する正確な報道が現段階でも少ない現状では、実務に関連しなかったり格付けと債券の値動きについて肌身で感じることのできない人たちが誤解するのもやむを得ないことなのかもしれない。

 で、元はこれ。

Subprime Suspects
http://www.newsweek.com/id/162789

 曰く「貧困層やマイノリティへの融資は本質的にリスクが低い」。

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Third, lending money to poor people and minorities isn't inherently risky. There's plenty of evidence that in fact it's not that risky at all. That's what we've learned from several decades of microlending programs, at home and abroad, with their very high repayment rates. And as The New York Times recently reported, Nehemiah Homes, a long-running initiative to build homes and sell them to the working poor in subprime areas of New York's outer boroughs, has a repayment rate that lenders in Greenwich, Conn., would envy. In 27 years, there have been fewer than 10 defaults on the project's 3,900 homes. That's a rate of 0.25 percent.
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 そんなわけないから。リスク高いから。少なくとも、低所得者層向け債権を買った金額に対するリスクという点ではいまも昔もそれほど変わらんです。本件記事におけるリスクが低く見えている理由は、家(不動産)を担保に入れて、焦げたら家を剥がして転売する、その転売することでデフォルトリスクの金利の一部を相殺できるほど不動産市況が上がっていた(地域もある)からで、貧乏人に対する与信自体はあまり問題にならず、貧乏人が買う家など担保物件の相場が上がり続けていたから過去のリスク評価は低く見積もれるというだけだ。

 したがって「不動産バブルが崩壊しました」といった瞬間に、不動産に依拠しない貧乏人のナマのリスクをまとめて引き受けていたのがFMだのFMcだのだったし、それらの決済や信用補完で裏書してた金融に波及して、というのは致し方のないお話。ましてや、池田氏のいう直接金融と間接金融におけるレギュレーションのミスというのは全然関係がない、少なくともこの話の文脈では。どうせ証券化するし、証券化できるから。引用した部分にも書いてあるしね。どこがどう神話じゃいな。

 サブプライム向けのローン債権に、AAとか適当な格付けつけてCDOに組み込んで、GSやLBが成立していない相対取引とかの気配値で価値を算出して、さらにそれを担保に資金を借り入れているのが一般的な金融機関の投資銀行部門のスタイルだったし。金融政策のレイヤーなら違うんだ、あれは失敗なんだというかもしれないが、あんま説得力ないだろうね。だいたい、間接金融だって債権の区分が下げられたら債権回収屋に回ったりリスクの高い債権だけ束ねて証券化すんだから手法的には規制の失敗なんか関係ないはずなんだけどね。実際、サブプライムを組み込んでいたCDOが問題なわけだし。少なくとも規制してどうにかなる話ではないわなあ。

 だから、冒頭に戻って池田氏のネタは、まあ「何言ってるのこの人?」と実務から言われるレベルの話じゃないかな。それとも、池田氏の言うとおり「処理が銀行の破綻と同じく膨大なrenegotiationを引き起こすことに対して、規制当局の警戒が足り」てれば回避できた問題だった、とでも?