先週の例会では「中国経済は危ないだの中国の統計は信頼できないだの中国共産党は滅亡するべきだのと散々書いてきて、いまさら胡錦涛支持とか趣旨替えするな」と言われてしまいましたが、


・ 駄目かどうか分からない(と世間が思っている)ときは「駄目だ」にチップを張る


・ 駄目であることが明確になった(と世間も理解した)ときは問題がこちらに及ばないように予防線を張る


 ことが望ましいと考えている私です。ジム・ロジャーズ氏とかが言っているのは中国が一度の混乱を乗り越えられれば素晴らしい投資先になるだろうという話であって、今回の混乱を経てなお中国共産党による中国政府であり続けるとは彼も断言はしていないわけです。中国と価値観を共有しない私たち(欧米と価値観を共有している証左でもある)が中国の成長を見過ごすと国難に陥ることは分かっていたわけでね。
 中国が今回の訪日でどのようなメッセージを発信したいと考えているかは、もうこの辺のアンケートとか見てると分かりますよね。


http://japanese.cri.cn/other/hjtdc/


 上から順番に、中国当局が希望している内容だと思いますよ。「青少年交流→環境問題→経済・貿易」の順。あるいは、「北京オリンピック→経済・貿易→中国観光→歴史・文化」の順。中国に関心を持っているのは少数民族問題だと回答したければその他で。文化歴史ではなく歴史・文化。分かりやすいです、中国。


 だけど、ダルフール問題であれチベットの件であれ、中国政府が中国自体の統制を取ることができなくなっている話に加えて、全方位攻勢とでもいうべきサイバーテロの分野に伝統的な人海戦術ドクトリンを持ち込んで独自のアプローチを築き上げつつあるのが中国という国でもあります。例えばこれ。


http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080418/153470/


 記事としては凡庸だけれども、エッセンスとしてはまさにその通りであります… 最近でも虎ノ門に中華が侵入していたのを三週間も気づかず発表もしていないような話があるようですが、我が国に関して言うとこの分野においては「もう遅い」ということでありましょう。本来なら情報分野でリードすべき人材がアメリカ大統領選の分析などという「そんなものは現地にいる好き者にやらせておけばいい」レベルの仕事に時間の大半を割くものだから、現場はきっと大変なことになっているかもしれません。


 遅まきながら、ネットは統制の対象にするべきという議論が出るかどうかというところで、児童ポルノの話とか青少年に有害なコンテンツをフィルターで遮断しましょうとかいう議論とか、まあ重要っていえば重要だろうけどそんなのは民間に任せておけばいいじゃん(どうせ民間で駄目だろうからあとで包括的な規制をかける準備だけはしておけばいいだろ)という程度の話で躓いているので、しばらくは前進はしないんでしょうね。


 総務省から出ている包括的なアイデアは、これ。良し悪しは置いておく。高市法案なんて単なる煙幕だろうと思う。MLでも書いたが通りっこないもの。良く言っても踏み絵に過ぎないよね。有識者に求められるのは、「こんな法案は許せん」と怒ってるポーズを取っていることが大事。


http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/tsushin_houseikikaku/pdf/071206_3.pdf


 ただむしろ、私の関心事からいうと「ネットが実現するサービス面での自由」がもたらす国益より、ネットが野放しになっていることで阻害されている分野における国益の喪失のほうが大きいのではないかという点。議論が分かれるところだからそのうち慎重に書くけど、6年前、7年前の楽観的なサイバー空間の自由がもたらす開放的な理念が日本社会にもたらす好影響をイメージしていたものが、実際にはもっと抑圧的で業者に不明瞭な自助努力を求めてユーザーと業者で対立が激しくなるような、もっと原始的な闘争関係を暗示する微妙な世界観なんじゃないかと思われます。


 中華スパイ騒動はこれから日本でもさらに騒がれることになるだろうし、そう考えると安倍政権下で検討された日本版NSC構想自体は決して不要な画餅でもなかったことは理解できると思う。すでに中国経済はオリンピックをやるやらないぐらいの時期を境に国家解体的崩壊に向かっていて、それをある程度織り込んだ上での陣地の取り合いになっていると考えたほうが無難だろうと考えられるし、その手のメッセージを送ろうとした某重要閣僚はメッセージの伝え方を間違えて置いた駒が総バッシングされたりしている状況はマズいだろうと。


 だから、そういう「手口」をどう遮断するか、無理ならどう監視するかというのを考えなくてはならないし、それを実施するための法律をどうするのかはそろそろ真面目に考えないと駄目だろうと思います。そのためには、冒頭で言うように胡錦涛はどういう形であれ(政府レベルでは)好意的に迎えておいて、中国側から日中の人的交流に前向きな姿勢とともに協力を宣言させて、修好状態の回復を両国間で確認したあとで問題点をおおいに開示して中国政府に改善を求める、無理なら胡錦涛は結局中国を統治できてないのではないか、といろんな場面で日本が言う、それに価値観を共有している欧米諸国の同調を求める、というような流れがよろしかろうかと考えるわけです。


 「俺たち理解しあえてるし仲がいいよね。だからこっち見んな」と宣言する土台を作るのが心情的親中派である福田政権の最後の仕事だろうと思うんですけどね。福田首相が修好するなら中国は頑張って譲歩しますよ。ここから先四半世紀ぐらいで最初で最後の親中政権かもしれないもの。誰かに禅譲する前に、福田首相には一仕事してもらいたいです。


(補足) 蛇足気味だけど、福田政権への支持率が20%とか言って、総選挙したら自公で100議席は減らすという試算があるようでして。あくまで個人的には、福田政権ってのは「途中で放り投げた安倍政権でやり残したことの敗戦処理」を半年以上にわたって負わされた不運な状況を淡々とこなしたという意味で、もう少し評価していいのかな、と思います。ここでいきなり麻生でした、いや小池でした、ということだと、取り返しがつかないことになっていたかもしれない。


 あと、本来なら小泉時代に重用された不審な人々の放逐&冷や飯喰わせというのも大事な機能だったように思います。最近なぜかうちの大学によく分からないポスト乱発してて居座ってるけど、あれは大丈夫なんでしょうかね。さてさて。