ダウンロード違法化という形でほぼ決着したようで…


http://miau.jp/
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0712/20/news110.html
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/05/news066.html


 文化庁の資料が公開され、平たく読むには「ダウンロード違法化に反対するネットユーザーの声には充分配慮しつつ」ダウンロード違法化は実施するという、規定路線からはほぼ1ミリも変わらない内容で進んだ。


 次回があるかどうかは別として、3つぐらい致命的な失敗を犯していたという風にも見えるので、何となく書いてみる。
総論 勝利条件のハードルが高すぎ、状況に対する認識なさすぎ


 そもそも論で言うなら、MIAUが活動を通じて目指す勝利条件ってこれ読んで明確に分かるかい。


http://miau.jp/index.phtml?genre=MIAU%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6


 ネットユーザーの権利を守る、という場合に、その権利がどういう状況で担保されているのか、前提条件を考えなければならない。ネットで恒常的に権利を侵害されているという権利者がいて、ネットユーザーの99%が侵害していなかったとしても、1%の犯罪者がいたら、それを防ぐために法律はできてしまうのだ。


 だから、現状でネットを使ってアニメや映画などを視聴している状況そのものが先進的なネットユーザーとして現行法下でもすでに違法状態であると認めなければ、ネットユーザーの大多数の権利を守ることなどできない。Youtubeやニコニコ動画などで金払わずに無料で映画とか観ている奴は、権利者から見ればwarez拾って喜んでる無法者と等しくフリーライダーだ。そういうのを取り締まるのに、いちいち権利者の側が見つけ出し、訴訟を起こし、吊るし上げて賠償金を取るというのは、果たしてフェアなのか、という議論である。


 本来なら、これが先進的なネットユーザーの集まりだと自称するのであれば、現状のネットの無法地帯ぶりを確認し、これらのフリーライダーを制限するか、ネット時代の著作権について既存の業界団体と話し合わなければならない。ダウンロードの違法化で、先進的なネットユーザーが鋭く業界団体と意見面で対立しちゃってるのはどうなのか、という話である。


 既得権益がどうだとか、商売人がどうとか、ネット時代に対応できてないとか、ネット側から批判したいことは分かるが、批判されている権利者の側も、常にネットによって自社の製品が無断でばら撒かれ、タダ観され、コピーされて金を払ってもらえてないと思っている。先進的ネットユーザーの側が、話が折り合えるような条件を最後まで相手方に提示することができず、遅滞戦術も取れない状況で妥協案に自陣営の意見を盛り込ませることがあまりできなかったことをまず反省するべきだ。


 そこから先は政治の話である。ネットユーザーを代表する人選を行って、彼らがユーザーを代表して交渉をしている、というのは、憚らず創価学会みたいなものである。圧力団体、宗教団体、市民団体というような、そういう活動をするための器を、ネットの中から捻り出して行こうという話だ。批判を一身に喰らって泥だらけになっても山を登っていこうというような指導者がいんのかという。ネット界の池田大作になれんのか。極論言えばそういう話。


 事前に言っておくと、「お前は何をしたの?」というのは禁止。だって私は権利者に無断でYoutubeなど動画サイトにうpしたり、マズいと知りつつ日常的に視聴してる馬鹿は嫌いだから。合法の墨付きが出るんだったら私も見るけどさ。


1. 気づくの遅すぎ


 MIAUが設立され、ネットでの運動を開始しようというころには、すでに無法地帯となっているネットでのダウンロードをどう防ぐか、それを取り締まる、権利者の権利が無闇に侵害されないためにはいまの法律がどう問題となっているのかが、業界団体や他省庁(警察庁含む)などとの研究会でとっくに議論され、「握」られていた。


 小委員会に呼ばれ、明確に問題点を理解するに至った津田大介氏がネットで問題の所在を明らかにし、呼びかけるのは、すでにその方針を決めている各団体からするとコンセンサスを覆す存在であって、邪魔であった。誰が仕切ったというわけでもないようだが、これがネットユーザーらの声に押し切られる形で違法化の要綱が緩むと面子が潰れるとかそういうのがあったのかもしれない。


2. 「ユーザーの権利」を主張しすぎ


 MIAUが呼びかけたコピペなどで7,500件余りのパブリックコメントが寄せられたが、公開で呼びかけたものであるがゆえに受け取る側の準備ができており、逆にあれだけの活動を進めているにも関わらず「一万件にも届かない程度のパブコメしか集まらなかった」という反応に。畜産や金商法などで集まったものに比べると明確にインパクトが薄く、結束はほとんどないという理解でよいと思う。


 一部記事であるとおり、有力委員が「ネットでは正規品が流通しない。ネットはダークサイドで、全く別世界」と完全に対決姿勢であって、現状で違法なサイトが日常的に著作権を侵害している状況をどうにかするための法改正をやるにあたってのネットユーザーの権利確保の論理は、現在過剰に認められているユーザーの権利をまるまる認めるよりどこを権利者や業界団体に譲り、どこを引き続きユーザーの自主的な利用枠として温存するかを主張しなければならなかった。


 性急な法制化を結論付けることの危険性のみを指摘し、ユーザーの権利についての主張は後回しにする方策もあった。まあ、遅滞戦術である。あるいは、委員各人の主張に関する背後関係を確認し、誰がどこまで譲歩する可能性があったかを検証する必要があったかに思う。


3. 組織化しなさすぎ


 本件は権利闘争なのだから、匿名のネットユーザーの集積によるネットワーク化では駄目で、登録制によるオーガナイズをしなければ充分な発言力を確保できなかったのかもしれない。公式サイトでも書いてあるが、「他にも当団体以外にも相当多数の反対意見が寄せられているとのこと」であれば、どこの団体が反対でどのような反対運動を実施するのが望ましいのか考えなければならなかったかもしれない。


 同様に、ネットにおいては中立性や不採算極まる形でのトラフィックの増加があって、ユーザーはすでに安価で低額な回線をほぼ無尽蔵に使っているという状況もあり、これらの80%以上はYoutubeやニコニコ動画、6ステージなどの動画サイトの閲覧で使われている。エスタブリッシュなネット業界からも消極的な賛同票を得られていなかったのは、ダウンロード違法化に明確なNOを言う発言力ある団体の糾合と、それを支えるユーザーの組織化をしなかったからなのかなと。


補足


 小委員会に出席していた津田大介氏の”蛮勇”があってはじめて活動らしい活動を開始することができたという意味では、ネット社会における大きな前進だった。この手の委員会に津田氏が選ばれることは今後ないのかもしれないが。とりあえず、急ごしらえでもネットメディアなどと連動しながら、問題の所在をネットユーザーに明確に示す活動はできるのだということは分かったので良し。


 準備期間も特にないし、背後関係も持たないMIAUが初陣でいきなり成功というのも困難な情勢ではあったけれども、これはネットユーザーが本質的に嫌う市民団体的活動の側面を持つわけで、集会を開いて顔出し実名でやってくるユーザーが一万人なり二万人なり居てはじめて発言力を持つものだろうと。


 どんな法律でも必ず利害関係者がいて、その法律の改正にはいわゆる政策屋が日々ロビーを繰り広げていて、ある程度調整が落ち着きそうで、問題の解決のための法律改正に向けての膳立てができたから有識者呼んで委員会でもしましょうか、という話であるから、生活のかかっている業界団体のほうがパソコンの前に座って手軽にコメント寄せるだけのネットユーザーより強いのはごく当然のことだろうと。


 賛成者は、一部のIT系新興企業と一部の開明的な音楽業界・芸能事務所関係者と肝心のネットユーザーや学者ぐらいしか当初はいなかったのだから、まあ仕方がない。ただ、負け戦から組織は多くのことを学ぶのであるから、MIAUは負けて遠吠えするのではなく、負けて総括するべきだと個人的には思う。まるで「私たちの意見が通らなかったからこの仕組みは不正義だ」とでも言いたいのかと。


 まあ、この程度で組織が瓦解してしまうのであれば、設立したことそのものがあだ花だったことになるし、今後もさまざま起きるだろうネットのフリーライダー対策によって一般のユーザーが蒙る不利益を代弁することなど夢のまた夢だろう。