IT業界というよりは、デジタル土方はキツいねって話であるような。


http://www.j-cast.com/2007/11/03012893.html


 デジタル土方が大変だという話はかつていろいろ書いた。デジタル土方養成所として、デジタルハリウッドバーカという話に流れ着いているのが何だが。


http://kiri.jblog.org/archives/001397.html
http://column.chbox.jp/home/kiri/archives/blog/main/2006/07/13_124957.html


 「IT業界だからiPhone開発のようなクリエイティブな仕事ができる」という勘違いは、「建設業界だからビル設計のようなクリエイティブな仕事ができる」という馬鹿に通じるものがある。世の中しんどいんすよ。クリエイティブな仕事「も一部ある」けど、その「やりたい仕事」をやるためにはその数倍から十数倍の「やりたくない仕事」をしっかりこなさなければならない。
 やりたい仕事だけやればいいというのは、基本的に経営にいる人たちの特権とも言える。日常のやりたくない仕事や、手間のかかる面倒な仕事を引き受けてもらうために、お金を払って人を雇っているのだから。その雇われている人が、やりがいのない仕事を押し付けられることや、つまらん仕事を押し付けられそうだと考えて、その業界に逝きたくないと考えるのはある意味当然なのかもしれない。


 ただ、人間向き不向きっていうのは厳然とあって、私なんかは決算書を読むのは好きでも決算作業をするのは面倒くさくてやってられないが、世の中には請求書を毎日出したりしち面倒くさいタスクの塊である決算をやるのが好きな人もいるかもしれない。そういう人間の生まれ持った向き不向きがたくさん揃った会社はバランスが良くなるということだろう、きっと。


 翻って、IT業界、すなわちデジタル土方の世界は徹夜してナンボ、身体壊して一人前と考え、職場では数年おきに鬱病を発症する人が出現するようなハードな環境こそが「働く」ということなのだ、というマインドの人がいる。別にそれは否定しない。その人の職業観であるから。それで利益を出して、飯が喰えて、家族を養っているのであればそれはそれで立派だ。


 ただし、自分が若い頃そのように働いて頑張ってきて、現在の管理職やら執行役員やら取締役の地位に就いたのだ、という自負があって、新しく業界に入ってくる若い人にもそういう働き方を求めるのであれば、それはちょっと待てよ、と思う。それって、野球部に入ってみたら意味も分からず筋も通らない上級生のイジメにあって、その体質に染まり、自分が進級すると後輩をイジメずにはいられない高校球児みたいなものだ。


 もちろん、レガシーな大手SIerをはじめIT業界も作業量の軽減のためにさまざまな作業内容の改良や効率化は行っているには違いないのだろうが、ただでさえ理系離れが進んで数理学科のような学問的な基礎体力のある新卒が減ってきて各業界が奪い合っている状況で「私はこれまでこのようにやってきた。問題はあるかもしれないが、それが仕事だと思っている」と胸張られても困る。


 で、大手SIerが本業が伸び悩んで株価も上がらないので、利益の出そうな周辺事業に進出しよう、なんて話になると悲惨である。技術系なのに変な体育会系のマネージメントしか経験していないから、うっかりネットサービスの子会社に「管理職です」とか言って落下傘すると凄い化学反応が起きる。何か変なガスが出そうだ。きっとバレーボールのマスコットのパクリのようなロゴを堂々と掲載してみたり、社長が勝手にYorNとか言ってしまうのだろう。それは別にいいんだが。


 じゃあ新興のIT企業ならいいのか、という話である。何かチビなのにイケメン風情の社長に手帳を買わされたり、会長と社長がいきなり不倫して結婚して勝手に社内を祝賀ムードにされて仕事どころではなくなったりする。上場して儲かった旨みが忘れられず、子会社の上場を強行しようとして親子上場規制に引っかかって幹事証券から馬鹿呼ばわりされる会社が鈴なりになっている。


 基本的に新興のIT企業というのはレガシーの大手SIerより効率的で収益性が高くて業界・市場の歪みを突くことが成長戦略であり飯の種であるから、必然的に大手SIerより給料は安い。人材の調達が難しくなって、人材が在庫だというのに相場より給料を安めに設定しっぱなしだといざというとき「それをやる人がいない」という状況に陥るわけだ。弊社のことですかそうですか。


 でも会社はその人の職業人生すべての期間を保証してくれるわけではないから、最初は多少キツくても仕事の仕方や業界事情をしっかり叩き込んでくれる会社に入ったほうが幸せだと思うけどねえ。それがどことも言いづらいが。たまに背広は着てるけど名刺を指で摘んで受け取る社員とか平気で営業にくるじゃん。夏にノンアポで訪問してきて何事かと思ったら「今日は暑いですね!!!」と冷茶出しを暗に催促されたりする。うちは喫茶店じゃねえんだよ。汗拭いて帰れ。


 個人的には、若いうちに厳しい環境で仕事を経験し修練したほうが、30代40代に大きく跳ね返ってくると思う。というか、中学なり高校なりに勉強していい大学に入学した奴が、結局社会でそれなりに認められて良い企業に入る確率が上がったり、能力的に多少劣っても上から引き上げられて出世する可能性が高まったりする。それと同じで、ビジネスの基礎体力を鍛えてくれる多少理不尽な会社のほうが、その後の人生でたくさん訪れる凄い理不尽なことの嵐に耐える力を養えるんじゃないかと。


 まあ、若いうちに楽して儲けることを覚えてしまうと、また同じやり方でお金を手に入れようと安易に考えてしまって、身を持ち崩す人がベンチャー界隈に多いからそう思うんだけどね。