取引先の窓口になっていた秘書の女性が、半年ほど見ないうちに見違えるほど痩せていたので驚いた。(以下、本人検閲済み)


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 過去にダイエットグッズや食品を飽きるほど試したのだという、理由は二十代後半になって、周囲の大卒同期が結婚し始め、高校(ただし田舎)の同窓会でも未婚率が三割を切ると、焦るものであるらしい。理由を考えると、収入問題なし、出会いの数それなりで、残りは体形さえ何とかなればと一念発起してダイエットを志すものの、仕事上酒は呑むわ夜は遅いわ腹は減るわでダイエット食品ごと喰い進んで痩せるとリバウンドを繰り返し、二十代最後の歳には見事百キロすなわち0.1トンの大台に到達したんだとさ。


 どうしても三十代前に痩せようってことで、お祓いに逝ったりヨガ試したり(やりすぎて脱臼したらしい)するも、休日は仕事の疲れを癒す目的で自宅でごろ寝&お菓子&テレビという生活ではどうしようもなく、私の見る限りひたすらどすこいな状況だったのは間違いない。


 転機になったのは勤めていた会社の具合が悪くなって早期退職を募集するという噂を聞きつけてからだそうだ、子会社に逝くか割り増し退職金を貰うなどして職場を去っていく同期の姿を見ると「こいつらみんな私より痩せている。もしかして体重順に解雇者を決めているのか」という疑念を持つに至ったとのこと。


 「いやそれは勘違いだと思うよ」とチャットで話し合っていたのだが、彼女の場合は太っているとかそういう意味ではなく、単純に仕事で欠かせない人だったからである。去る人が去って、その結果、固定費が減ってそれなりに業績も回復すると、三十路に乗った彼女は自信がついたらしく、自分が遣り残したことを思い返すと「二十代で痩せられなかった」ということだけが取り残されていたのだという。


 個人的には「ダイエットする目的は、結婚ではなかったのか」と思うのだが、女性のこの目的と手段、あるいは帰着点と経由地の取り違えはありがちなことで、見事に痩せることが自己目的化し、かつ、いままで「器具やグッズやダイエットを謳う食品に頼りすぎていた(本人談)」とのことで、たまたまの引っ越しを機に突然オーガニックな生活に。朝サラダ、昼サラダ、夜サラダ。カロリー不足なのか腹が減って朦朧とする日々だったというが、一週間もすると慣れ、夜の付き合い以外はサラダとチョコレートとジュースだけ。ウォーキングシューズを買って歩いたりしたそうな。それ、ちょっと極端過ぎないかと思うほど。


 チャットで「痩せた」「痩せた」というものの私はそれを見てないので信じていなかったのだが、その数ヵ月後、実際に会ってみると見た目半分になっててびっくり。三割引の七十キロになってた。えー。


 で、本人は結婚するんだそうな……そこの社長と。あらやだ。まあ、尻に敷かれるんなら目方が少ないほうがいいんだろうけどさ(笑)。


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 その結婚式が三月に終わって、あれから二ヶ月、先日用事があって訪問したら見事にリバウンド途上の奥さんに出会ったのであるよ。一度、ダイエット成功したら「いつでもまた痩せられる」と思うものらしい。ああ、私もそう思っていたよ、禁煙に一年成功したとき。


 成功体験ってのは恐ろしいもんだな。