落語 天王寺詣り -3-
(大阪2番 四天王寺)
■こら、白紙(しらかみ)では持って行けんで。
前 回 の つ づ き
●何ぞ書きまっか?
■戒名を書かないかんなぁ
●戒名……、犬のことでっさかいに「ワンワン信士」と しときましょか?
■ 「ワンワン信士」ちゅな おかしぃやないかい
●俗名やったら どぉですか?
■俗名なら 結構や……、どない言ぅねや?
● 「クロ」っちぃまんねん。
■ 「クロ?」ケッタイな名前やなぁ、ほなまぁ「俗名クロ」と しとこか……、ほで 日は幾日(いっか)や?
●三月のね、十五日でんねん
■おぉ、偉いもんやなぁ、ヨクセキなりゃこそや。犬の死んだ日をちゃ~んと そぉして覚えてんねやなぁ「三月の十五日」やな……、それから?
● 「それから?」て、それ 何ぼ書いたって おんなじ値段でっか?
■そらまぁ、何ぼ書いたって 一緒やがな
●あぁそぉでっか、それやったら ついでだっさかい、ちょっと うちの親っさんのんも 書いといてもらいまひょか。
■お前なぁ、もの ちょっと間違ごぉてるで。どこぞの世界に 犬のついでに 親の引導鐘撞きに行くやつがあるか?
●ここらがハイカラで……
■何がハイカラなことがある。 で、お前とこの親っさんちゅうのは、いつ死んだんや?
●さぁそれでんがな、それわて忘れてしもたんだ
■アホか お前わ。犬の死んだ日ぃ覚えてて、親の死んだ日を忘れるやつあるかい
●ここらが現代で
■何が現代なことあんねや。お前とこの親っさんちゅな、確か あれ暑い時分やと思たんやが……
●あ、せやせや暑い時分……、せやせや、あれスイカ食べてましたんや。あのね、七月の二十二日ですわ
■お前、スイカで思い出してんのんか? ケッタイな やっちゃなぁ「七月の二十二日」やな……、ほいで 戒名は?
●霊巖貴鄭信士(れぇがんきてぇしんじ)ちぃまんねん。
■おぉ、こらちゃんと覚えてたんやなぁ「霊巖貴鄭信士」やな……、それから?
●それからねぇ、そこへ「俗名 麻生太郎」と書いといとくなはれ
■何や?その「太郎」ちゅうのわ?
●いえね、政治家でんねやがな
■あぁあぁ、あの政治家 死んだんか?
●いや、まだ達者で 働いてまんねやわ
■働いてるもんの 引導鐘を撞いて どないすんねん?
●あ、そう でっか あきまへんか
■そんなら、ちょっと 言うタロウか は、どうや
●わて、あいつ、マンガ好きやちゅぅんで贔屓にしてまんねやがな、ちょっと 撞いといてやろ思て
■そら マンガいち どころか、麻生太郎は えらい災難や
お前、しょ~もないこと言ぅさかい、これ書いてしもたもん、もぉこれどないもならんやないかい
●ほで、日は幾日に しときまひょ?
■まだ死んでへんちゅうねん、あほやなぁ
「先祖代々過去帳一切」と……、さぁ、これを持って参っといで
●ヘヘッ、えらい 済んまへん。ほんで あの あんたは今日は参りまへんか?
■わしは今日は参らん、わしの参んのは中日やなぁ
● 「中日」言ぃますと?
■今日が三日目、あしたが四日目で中日。あした参る。
● 「あした参る」やなんて、そんなこと言ぅてて、今晩のあいだに ゴロッと死んでしもたら 参られしまへんで。小野小町が言ぅてまんがな「人間は風前の灯火、明日をも知れぬ身の終わりかな」一休禅師がどぉ言ぃなはった「今をも知れぬ身の終わりかな」御開山(ごかいっさん)が何とおっしゃった「明日あると思う心のあだ桜、夜わに嵐の吹かぬものかわ、ただ南無阿弥陀仏」
■そんな人の気の悪なるよぉなことば~っかり言ぅねや、もぉしゃ~ないわ、こないなったら「牛に引かれて善光寺参り」や
●ヘヘッ、わてらは「犬に引かれて天王寺参り」でんなぁ
つ づ く
ヨクセキ=よくよく。よほど。
ハイカラ=〔high collar〕たけの高いえり。
また、明治時代、西洋の文物を好む政治家・官吏がハイ・カラーを
着用していたことから、目新しく、しゃれていること。西洋風なこと。
そして、そのさま。そのような人をもいう。
ケッタイ=妙な・変な・へんてこな・おかしな・奇態な・嫌な・不思議ななど、
実にいろいろな意味を含んだケッタイな言葉。
エゲツナイと並んで上方言葉の両横綱。
怪体とも奇態とも希代とも卦体とも当てる。
しょ~もない=つまらない。くだらない。仕様もないの訛化。
御開山(ごかいっさん)=浄土真宗の開祖、親鸞上人を指して門徒衆がいう語。
開山上人の略。
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