落語 天王寺詣り -3-
(大阪2番 四天王寺)


四天王寺6

四天王寺7

こら、白紙(しらかみ)では持って行けんで。
                  前 回 の   つ づ き


何ぞ書きまっか?
戒名を書かないかんなぁ
戒名……、犬のことでっさかいに「ワンワン信士」と しときましょか?
「ワンワン信士」ちゅな おかしぃやないかい
俗名やったら どぉですか?
俗名なら 結構や……、どない言ぅねや?
「クロ」っちぃまんねん。
「クロ?」ケッタイな名前やなぁ、ほなまぁ「俗名クロ」と しとこか……、ほで 日は幾日(いっか)や?
三月のね、十五日でんねん
おぉ、偉いもんやなぁ、ヨクセキなりゃこそや。犬の死んだ日をちゃ~んと そぉして覚えてんねやなぁ「三月の十五日」やな……、それから?
「それから?」て、それ 何ぼ書いたって おんなじ値段でっか?
そらまぁ、何ぼ書いたって 一緒やがな
あぁそぉでっか、それやったら ついでだっさかい、ちょっと うちの親っさんのんも 書いといてもらいまひょか。
お前なぁ、もの ちょっと間違ごぉてるで。どこぞの世界に 犬のついでに 親の引導鐘撞きに行くやつがあるか?
ここらがハイカラで……
何がハイカラなことがある。 で、お前とこの親っさんちゅうのは、いつ死んだんや?
さぁそれでんがな、それわて忘れてしもたんだ
アホか お前わ。犬の死んだ日ぃ覚えてて、親の死んだ日を忘れるやつあるかい
ここらが現代で
何が現代なことあんねや。お前とこの親っさんちゅな、確か あれ暑い時分やと思たんやが……
あ、せやせや暑い時分……、せやせや、あれスイカ食べてましたんや。あのね、七月の二十二日ですわ
お前、スイカで思い出してんのんか? ケッタイな やっちゃなぁ「七月の二十二日」やな……、ほいで 戒名は?
霊巖貴鄭信士(れぇがんきてぇしんじ)ちぃまんねん。
おぉ、こらちゃんと覚えてたんやなぁ「霊巖貴鄭信士」やな……、それから?
それからねぇ、そこへ「俗名 麻生太郎」と書いといとくなはれ
何や?その「太郎」ちゅうのわ?
いえね、政治家でんねやがな
あぁあぁ、あの政治家 死んだんか?
いや、まだ達者で 働いてまんねやわ
働いてるもんの 引導鐘を撞いて どないすんねん?
あ、そう でっか  あきまへんか
そんなら、ちょっと 言うタロウか は、どうや
わて、あいつ、マンガ好きやちゅぅんで贔屓にしてまんねやがな、ちょっと 撞いといてやろ思て
そら マンガいち どころか、麻生太郎は えらい災難や 
お前、しょ~もないこと言ぅさかい、これ書いてしもたもん、もぉこれどないもならんやないかい
ほで、日は幾日に しときまひょ?
まだ死んでへんちゅうねん、あほやなぁ
「先祖代々過去帳一切」と……、さぁ、これを持って参っといで
ヘヘッ、えらい 済んまへん。ほんで あの あんたは今日は参りまへんか?
わしは今日は参らん、わしの参んのは中日やなぁ
「中日」言ぃますと?
今日が三日目、あしたが四日目で中日。あした参る。
「あした参る」やなんて、そんなこと言ぅてて、今晩のあいだに ゴロッと死んでしもたら 参られしまへんで。小野小町が言ぅてまんがな「人間は風前の灯火、明日をも知れぬ身の終わりかな」一休禅師がどぉ言ぃなはった「今をも知れぬ身の終わりかな」御開山(ごかいっさん)が何とおっしゃった「明日あると思う心のあだ桜、夜わに嵐の吹かぬものかわ、ただ南無阿弥陀仏」
そんな人の気の悪なるよぉなことば~っかり言ぅねや、もぉしゃ~ないわ、こないなったら「牛に引かれて善光寺参り」や
ヘヘッ、わてらは「犬に引かれて天王寺参り」でんなぁ

                  つ づ く





 ヨクセキ=よくよく。よほど。
 ハイカラ=〔high collar〕たけの高いえり。
          また、明治時代、西洋の文物を好む政治家・官吏がハイ・カラーを
         着用していたことから、目新しく、しゃれていること。西洋風なこと。
         そして、そのさま。そのような人をもいう。
 ケッタイ=妙な・変な・へんてこな・おかしな・奇態な・嫌な・不思議ななど、
         実にいろいろな意味を含んだケッタイな言葉。
         エゲツナイと並んで上方言葉の両横綱。
         怪体とも奇態とも希代とも卦体とも当てる。
 しょ~もない=つまらない。くだらない。仕様もないの訛化。
 御開山(ごかいっさん)=浄土真宗の開祖、親鸞上人を指して門徒衆がいう語。
         開山上人の略。


四天王寺8

四天王寺9



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