【自殺考 被災地から】 ■動き出したネットワーク 震災直後、さまざまな団体が心のケア支援に被災地に入っていたが、長期的・継続的なケアを行うため、自治体はそれぞれ、県や医師会などと連携したネットワーク作りに奔走している。 釜石市では昨年5月ごろから、全国心理業組合(東京都港区)や、自治医大の同窓会有志などの団体が、それぞれ現地に入り、被災者の心のケアを支援していた。市はこれらの団体との連携を進め、「釜石市こころのケア対策関係者連絡会議」を立ち上げ、1月から実質の運用を開始している。 ネットワークでは市内を8つに分け、それぞれに「生活応援センター」を設置。1人ずつ保健師を配置した。さらにセンターを3つに分けて全心連が2カ所、岩手県臨床心理士会が1カ所を担当。相談を受け付け、必要に応じて訪問やカウンセリングを行う。また、釜石保健所などを通じて、医師との橋渡しも行う。 自殺対策を担当する健康推進課は、市役所本庁舎にほど近い、釜石のぞみ病院の2階の保健福祉センター内にある。午後6時すぎ、夕食をはこぶカートの音だけが響く病院で、このフロアにだけはこうこうと明かりがともり、職員たちが忙しそうに動き回っていた。 保健師の洞口祐子さんはこの日、ネットワークに関する会議に立て続けに出席し、ようやく本来の保健師としての業務に手をつけようとしていた。家には寝に帰るだけ。それでも、睡眠時間が取れなかった震災当初に比べれば、よくなった。 動き出したネットワークを周知したい。軌道に乗せて被災した人みんなに目を向け、心や体の不調を発見したい、という強い思いが彼女を突き動かす。 ■ボランティアはありがたい ありがたいけれど… 洞口さんには、悔しい思いがある。 昨年秋ごろ、病を抱える被災者の対応した。入院治療が必要だが、仮設住宅を離れることをなかなか了承しない。職員らは日に何度も訪問し、住人を説得して入院の段取りを決めた。 その直後に、看護師資格を持つボランティアがこの被災者を訪問した。ボランティアは市の対応状況を知らず、「なぜこのような状態でここにおいておくのか」と叱責の電話をかけてきたという。 「住人の方も混乱しました。入院当日の交通手段の確保まで、念入りに段取りを考えたのに、また一から始めないといけなくなるところだった」と洞口さん。住人は無事に入院することができたが、後日、ボランティアが所属していたNPOの代表らが市の仮庁舎を訪れ謝罪したという。 市の対応を知らないボランティアがそれぞれ活動し、統率がとれない現状はいまもある。受け入れる行政には歓迎したいと思う半面、困惑を抱えていることの事実だ。生活応援センターで活動する保健師らには「違う人が来て、毎回同じようなことを聞かれる」という苦情も寄せられているという。心のケアが心の負担になりかねない。 「心のケアの支援で活動したいと電話してくださる団体は、お断りすることもあります。でも、私たちの知らないところで活動している団体に関しては把握すら難しい」 ■ただ「聞いてくれる」だけでいい 被災した人のなかには話したいことをたくさん抱えている人がいる。被災者が語る話に、ただ耳を傾けるという「傾聴」は、心のケアにとってとても大切なことだ。「被災者の話を聞いてくれるボランティアは来てほしい。でも、傾聴に徹してほしい」。それが洞口さんの本音だ。 震災から1年が過ぎたが、心のサポートは7回忌を迎えるまで必要といわれる。心折れそうな人びとに対して、何を、どこまで行えば必要十分な支援となるのか。答えが出ない問いの中で、心のケアに携わる人間たちは動いている。 (佐々木詩) 【関連記事】
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