『誰よりも高く飛べ!』 | みなせのブログ

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「改めて、皆、準備は良い?」
「「「 はい! 」」」

「やってやるよ!」
「うん、何かあったら、私が守りますから」
「何もなかったけど」
「何か見つけるために」
「馬鹿にされてもいいから」
「1番目指すんだ!」

「自分の役割は絶対にあるから」
「もう逃げない」
「自分を信じて」
「皆を信じて」___________


0. はじめに
本記事は、2023年10月に公演された舞台『かすみ草とステラpresents ¨誰よりも高く飛べ!¨』の感想をつらつらと綴っていくものになります。一部、完走記念感謝会等のイベントや公式及びメンバーからの発信等で触れられている内容と重複する可能性がありますが、あくまで筆者が劇場で鑑賞した内容だけを対象とした個人的な感想になります。なお、公演終了から半年間も温めておりましたので、誤った記憶や妄想が含まれる可能性がありますが、そちらもまたご容赦ください。

【公演詳細】
期  間 ⁑ 2023年10月5日(木)〜15日(日)
劇  場 ⁑ 東日本橋A-Garage
出  演 ⁑ かすみ草とステラ


1. 出会いと化学反応
まず、この物語の核として描かれているのは、人と人との出会いによって生まれる心境の変化、即ち化学反応であると考えます。物語は、2年生城嶋アリス(比賀ハル)が、とある事情によりバスケットボール名門校から古豪(落ちた強豪・飛べないカラス)と呼ばれる彩霞高校へ転入してくるところから始まります。彩霞高校が強豪校であるという話を聞いて意気揚々と転校してきたアリスは当然バスケ部に入部し練習へ参加しようとしますが、そこで思っても見なかった現状を目の当たりにすることとなります。練習は基本自由参加、練習内容も辛く苦しいトレーニングは行わずオフェンスの練習のみ、練習前にお菓子やジュースを摂取…等々、名門校から来たアリスには信じ難い光景でした。そんな中、チームのキャプテンである2年生秋山こころ(小柴美羽)と副キャプテンの2年生坂東景(有岡ちひろ)はアリスの歓迎会を開催しようと部員たちに呼びかけます。しかし、歓迎会で用意されたのはなんと水のみ。これには2年生大門杏子(鈴森はるな)先輩もご立腹されます。

″歓迎会つったらお菓子にジュースだよなぁ!なぁ加奈もそう思うだろ!?(そっすね〜!)″

突っかかる杏子に、アリスも「練習もせずに、何の為にバスケ部にいるのか」と応戦します。

″どうせ試合でもファールばっかしてチームの足引っ張ってるんでしょ!?(正解!)″

場を和ませようとした1年生江本加奈(川菜光)に対しては「盛り上げるのとふざけるのは違う」と一蹴(ぴえん…)。「私も2年生に同じことを思ってた」とエースを自称する1年生原田海香(本田香澄)に対しては「あんたはそもそもセンスがない」と手厳しい一言(海香の″ハァ?″が回を重ねる毎に凄みを増していました)。アリスを宥めようとするこころに対しては「みんなの顔色伺い過ぎ」、景には「キャプテンの顔色伺い過ぎ」と鋭く指摘します。そんなこんなで険悪なムードになってしまった歓迎会。アリスのバスケへの情熱が暴走してしまった結果、それを見た1年生飯倉一花(高実心花)お嬢様、1年生古橋乙羽(石間実咲)後藤絵梨(福井ひより)のギャルコンビ、生憎センスが無いそうなので他の部活を探すことにする海香、と次々に部員たちが居なくなってしまいます。そうして3人になってしまったアリス、こころ、景ですが、それでも懸命に練習を続けます。ここからが本当のストーリーの始まりであり、出会いによって化学反応が生まれ、登場人物の心情が目まぐるしく変化していくパートに入っていくことになります。そして、そのキーとなる人物が他でもないアリスなのです。


2.「私」と「ワタシ」
前述の通り、アリスの入部により大きな変化が訪れた彩霞高校バスケ部。散り散りになった部員たちも、出会いによる化学反応の連鎖によって、再びバスケ部へと引き寄せられていきます。まず、アリスの持つ情熱によって心を動かされ、その情熱を和らげながら優しく伝播させていく人物がいます。財前若葉(渡辺萌菜)先生です。学生時代、かなりの腕を持ったプレイヤーであったと推測される財前先生ですが、怪我の影響により引退を余儀なくされ、次第にバスケットボールへの情熱を失っていきます(試合中の怪我によって思うようにプレーが出来なくなり、先輩の最後の試合を自分のせいで終わらせてしまったことに負い目を感じていることも要因と考えられます)。そんな中、バスケ部の顧問でありながら練習指示もしない財前先生に対してアリスは「何もしない顧問なら、今すぐ出て行ってください」と突き放します。

″みんな、夢とか希望とか何か持って始めたんじゃないんですか、バスケ!″

ストレートに気持ちをぶつけるアリスと相対したことで、財前先生の冷え切っていたバスケへの情熱に再び火が灯り始めます。そして、ロードワークを終えたこころと景に対して、何故バスケ部に残ったのかを尋ねるシーンに繋がります。こころは迷いなく、「(このバスケ部が)好きだから」と答えます。そして部員1人ひとりの良いところを並べていきます。

″…一花は私なんかよりもずっとバスケに詳しくて、戦術とかたくさん知ってる(え、私は?)″

その後、周回遅れを思い出しロードワークに戻るこころと景(もう一周ある〜!)。今度は景の心情に変化が起こります。2人が1年生の時、厳しかった先輩に対しても良いところを見つけて褒めていたように、八方美人と言われることもあるけれど誰よりも他人の良いところを見つけることが出来るこころの人間性が好きで、景はバスケ部に残ったのだと打ち明けます。アリスの言うように、みんなの顔色を伺うキャプテンの顔色を伺って、事勿れ主義で過ごしてきたのかもしれない。過去は変えられなくても、これから進む未来は変えていける。景が自分の役割に気付いた瞬間です。

"私、自分の役割が分かった気がする"

副キャプテンの心情に変化の兆しが見えた頃、バスケ部の練習風景をどこか後ろめたそうに眺める乙羽と絵梨を見つけた財前先生は2人に部に戻ってくるよう勧誘します。しかし、「私たちが戻っても…」「ねぇ…?」とどこか歯切れの悪い返事。アリスの持つ情熱に対して引け目を感じていた2人に対し、財前先生は何故バスケ部に入部したのかを尋ねます。「他にやることなかったし?」「なんとなく」と答える2人に、財前先生からありがたいお言葉が降り注ぎます。

″小さい頃の夢とか希望とか、一体どれくらいの人が大人になっても見続けられると思う?みんな、なんとなくで生きてんのよ、大人なんて。なんとなく、上等じゃん!″

アリスと3人で練習を続けるこころと景は部員が5人集まらないと試合に出られないことに頭を悩ませます。すると、3人の前を偶然(?)通りがかった海香から、杏子が「バスケ部はハラスメントが凄い」という悪評を広めていることを知らされます(居心地の良かった部にいられなくなり、残った部員にちょっかいを出すのは完全にMAJ○Rに登場する三船東中時代の山根くんそのもので親近感が湧きます)。すると、部員集めの目処が立たない3人の元にこちらもまた心情に変化が訪れた2人、乙羽と絵梨が現れます。そう、財前先生のお言葉が2人を動かしたのです。しかしながら、今までの財前先生であればあれほどの熱い言葉をかけたでしょうか。アリスと出会ったことで財前先生の心情が変化し、化学反応が連鎖することでアリスと最も遠い存在のように思えた乙羽と絵梨の心をも動かしてしまったのです(情熱ってスゲー!)。

無事に部員が5人揃って一安心と思いきや、個人的に本作で最大の泣きパートが畳みかけてきます。そう、一花が退部届を提出しに部室へとやってきます。当然こころたちは引き留めようとしますが、昔から運動が得意ではなく周りから馬鹿にされてきたと話す一花は、アリスのように情熱を持って部活に励むことは無理だと涙ながらに言い放ちます。そんな一花に対して、アリスは馬鹿にされない為の努力をしたのか?と問いかけます。

"その努力をしてもまだ、あんたのことを馬鹿にするやつがいたら、そいつは私がぶん殴ってあげる"

一見、他人に興味がなく、ストレートな物言いから敵を作りがちだったアリス。そんなアリスの厳しくも優しさに溢れた説得により、一花は退部を踏み止まります(良かった…)。これまで間接的に周りに変化を与えてきたアリスが、初めて自分から動き周りの人間を変えた瞬間でした。いえ、変わったのは一花だけではないですよね。アリスもまた、こころたちや財前先生と出会い、接していくうちに変わっていった1人の高校生なのです。

"私、そういう熱い感じとか、無理ですから″

まさに一難去ってまた一難といった感じに、今度は海香が退部届を提出しにやって来ます。アリスの加入によって、体育会系…本格的に練習を始めたバスケ部に嫌気がさしてしまったのです。こころ達は一花と同じように引き留めようとしますが、一筋縄では行かない様子。バスケ部には海香の力が必要と言われるも、「私、一花と違ってやれば何でも出来るんで」と突き放します。

"自分より出来ないやつ見下して、そんなんだからいつも中途半端で終わるんじゃない!何やっても70点で、何かで100点取ったことある!?誰かに何かで勝ったことあんの!?"

今までキャプテンの顔色を伺い、場の空気を乱さないように努めてきた景が、副キャプテンとして自分の役割を見つけ、殻を破った瞬間でした。キャプテンであるこころがみんなの良いところを見つけて褒める天才なら、自分は嫌われてでもみんなの欠点、直した方がいいところを伝える役割を全うする。周りの誰もが副キャプテンの行動に驚きました。海香も例外ではありません。

″ないよ…!!ないよ…100点取ったことも、何かで1番になったことだってない…″

クラスでも部活でも才能のある自分を演じて来た海香が、初めて周りに見せた弱気でした。何だってソツなくこなせることを自分らしさと決めつけて閉じこもっていた海香に対し、自分も同じ境遇であると打ち明ける景。次第に海香は心を開いていき、一花と同じく退部を取りやめることになりました(良かった…)。両者の涙を流しながらの迫真の演技に、見ているこちらも何度見てもここでは必ず泣いてしまいました。そうして部員達が戻ってきた彩霞高校バスケ部。こうなったらあの2人も連れ戻さなければ始まらないですよね。そう、杏子せんぱ…

″大変!!!杏子先輩が…杏子先輩が!!!″

物凄い剣幕で部室に駆け込んできた加奈。ただ事ではないと、全員杏子のもとへと急行します(みんな、仲間思い過ぎなのよ…滝涙)。向かった先で昔つるんでいた不良達に取り囲まれていた(絵梨はスマホでちゃっかり撮影していた、現代っ子!)杏子に対してこころは「まだこの人たちとつるんでたの!」と叱責します。アリスに八方美人と言われるほど温厚なこころがここまで声を荒げて怒るということは、よほど杏子のことを心配してのことでしょう(キャプテンと杏子は幼馴染なの、杏子を不良グループ辞めさせてバスケ部に入れたのがキャプテン!)。

"キャプテンには関係ないだろ!!!″

″関係あるわ、あなたはまだバスケ部の一員よ″

″違う!私はもう…″

″まだ、キャプテンって呼んでくれるじゃない″

こころが作中で初めて他人に見せた厳しさに、さすがの杏子も言葉が詰まってしまいます。そして、こころの変化に呼応するように、殻を破った1人の女の子がいます。

″杏子先輩は私が守ります!″

自分の身を盾にして杏子の前に出てきたのは、他でもない、杏子の舎弟加奈でした。以前、いじめられていた加奈は、杏子からバスケ部に誘われたおかげで救われます。その後、杏子が不良グループと再びつるむようになると、加奈もその会合に連れていかれ…顔を出すようになります。しかし、加奈は杏子がいるべき場所はこんなところではないと気付いていたのです。いつかの御恩をここで返しますと言わんばかりに、本作1番の名シーンをお膳立てします。

″杏子先輩…バスケやりたいんでしょ!?″

コテコテの振りに会場からは笑いの渦が起こります。このシーンが近づくにつれて変にソワソワしてしまったのは私だけではないはず(これが共感性羞恥…?)。そして、杏子先輩による渾身の名台詞が飛び出します。

″バスケが…したいです″

やっとのことで杏子と加奈を連れ戻したバスケ部は、大会に向けて練習に励んでいきます。そんな中、バスケ部の最後のピースとなるもう一つのストーリーが静かに時計の針を進め始めます。

2年生近川久美(吉川実紅)もまた、自分の殻を破れずに思い悩む本作のキーパーソンの1人です。中学時代はアリスに負けず劣らず有名だったという久美ですが、怪我の影響で引退してしまいます。バスケへの未練を断ち切れず1人隠れてシュートの練習をしようとしますが、ゴールを決めることはおろか、シュートを放つことすら出来ません。勘の良い方はお気付きかもしれませんが、何を隠そう久美は※イップスに陥っていたのです。

※イップス主にスポーツの動作に支障をきたし、突如自分の思い通りのプレー(動き)ができなくなる症状のことである(Wikipedia参照)。

久美ほどの実力者が高校でバスケをやっていないことを不思議がるアリスもまた、久美が痛めているのが肩ではなく、¨心¨であることに気付いている様子。「私はもうバスケ辞めたの!」と強情な久美に対して、「コートで待ってる」と一言。これも、アリスなりの思いやりだったのかもしれません。一花に対しては直接的な言葉を投げかけて心を突き動かし、久美に対しては一見さらっと見える一言で自分からコートに帰ってくることを待ちます。アリス、いいやつ過ぎんよ…人たらし…。そして、自身も故障経験のある財前先生もまた久美の現状を案じます。同じ境遇で悩む久美に対し、自らの過去を語る財前先生に、久美も心を開き始めます。

″シュートを打とうとすると、耳元で誰かが囁くんです…お前のせいで負けた!って″

中学最後の大会、怪我を押して出場した久美は思うようにシュートを打つことが出来ず、チームも敗退してしまいます。最後の大会だから…と自分のエゴを優先してしまった結果、みんなにとっても最後であった大会を終わらせてしまった。その責任に苛まれ、肩の怪我が癒えても心の傷までは元通りにはならなかったのです。そんな久美ですが、アリスに「コートで待ってる」と、財前先生にも「みんながあなたを待ってる」と声をかけられ、徐々に気持ちに変化が生じていくことになります。

一度散り散りになった部員たちが紆余曲折を経て再び一つの場所に集まるこのパートは、登場人物それぞれにスポットライトが当てられ、よりキャラクターの個性やバックグラウンド、悩みや葛藤が色濃く映し出された濃密なパートでした。そして、それを公演を重ねる毎により登場人物らしく演じ切ったメンバーの方々には頭が上がりません。本パートのタイトル「私」と「ワタシ」ですが、かすみ草とステラのある曲の歌詞から引用させて頂いています。

−見てみたい 世界が変わる これまでの私から
  未来を描き足していく 歴史的な瞬間−

登場人物がそれぞれ、今までの殻に閉じこもっていた「私」を脱ぎ捨てて、新しい「ワタシ」に生まれ変わる過程を描いたパートですが、1人では誰も変わることは出来なかったでしょう。仲間や先生との出会いがあり、出会いが化学反応を起こしたことで変化が伝染していき、やがて大きな輪を作り上げるのです。高校生という多感な時期に、壁にぶつかりながらも前に進もうとする彩霞高校バスケ部の成長は、見ていてとても美しいものでした。青春っていいな。


3. アリスとペルソナ
本作のオープニングは、冒頭に述した登場人物1人ひとりの台詞から始まりますが、BGMとして使用されているのがかすみ草とステラの『青より青く』です。夏の王道青春ソングであるこの曲は舞台のコンセプトに合致しており、観劇しているこちらも高揚感と共にスムーズに物語へと入って行くことが出来ました。しかし、本当の¨主題歌¨は青青ではなく、かすみ草とステラの別の楽曲であると推測することが出来ます。本作のクライマックスを振り返ると共に、この舞台に隠されたもう1つの¨主題歌¨について紐解いていきたいと思います。

久美を除く部員たちが再び集まった彩霞高校バスケ部は練習を重ね、大会前最後の練習試合に臨みます。しかし、そこには¨本当のチーム¨になる為の試練が待ち受けていました。試合当日、彩霞高校バスケ部はいつも通りエースであるアリスにボールを集め得点を狙いますが、相手のマークが厳しくなかなかボールが収まりません。見兼ねたある選手はチャンスシーンでアリスとは逆サイドの海香へパスを送りますが、惜しくも得点には繋がりません。すると、タイムアウト中にアリスの感情が爆発します。

″何やってんの!?囲まれてても私にボール集めればいいから″

チームメイトをまるで信用していないような発言に、周りも黙っていません。景はあそこはフリーだった海香に出すのが正しかったと主張し、一花も追随します。しかし、仲間の発言にも耳を傾けないアリスは「私に指図しないで」と突き放します。そんなアリスの態度に財前先生からの厳しいお叱りが入ります。「また同じことを繰り返すの?」と。親の転勤で転校して来たと知らされていた部員たちは目を丸くします。そう、アリスが転校して来た本当の理由は前の学校でスタンドプレーに終始したことで孤立し、部にいられなくなったからだったのです(上級生を殴っ)。

″あなたが仲間を信じなきゃ、仲間もあなたを信じないわよ″

バスケを愛し、バスケに青春を捧げた財前先生の言葉だからこそ、アリスの心にも響いたのだと思います。タイムアウトも終わり、コートに戻ろうとするアリスに対し「どうするの?」と問いかける財前先生。落ち着きを取り戻したアリスはこう答えます。

″見てれば分かります″

不器用で気持ちを言葉にして伝えるのが得意ではないアリスの力強い返答に、財前先生然り会場にいた全員が安堵のため息をついたことでしょう。試合が再開され、チャンスシーンでアリスが味方へのパスを選択すると…

\\\GOOOOOOOOOOOOOOOOOAL///

初めてチームメイトを信頼し、相手に囲まれた自分よりも可能性の高い味方を選択したアリス。その成長が実を結び、一本のゴールに繋がります。しかし、喜びは束の間。パスを出した際に相手と接触し、アリスは足を負傷してしまいます。「まだ出来ます、やらせてください!」と懇願するアリスに、財前先生ストップがかかります。

″あなたのバスケはここで終わるわけじゃない″

故障で現役生活を棒に振った財前先生だからこそ、アリスの続けたい気持ちも痛いほど理解しながらもプレーを続けることを許しませんでした。財前先生もきっと、駅伝で棄権する選手の肩に手をかける時の監督のように辛い気持ちであったのは疑う余地もありません。大エースであるアリスの離脱によって、戦力ダウンは勿論のこと、残された部員たちの心にもぽっかりと穴が空いてしまいます。翌日の練習前、皆が意気消沈していると、松葉杖をついたアリスが戻って来ます。しかし、落ち込む様子を見せることもなく、笑顔でチームメイトを鼓舞します。空元気であることは誰の目にも明らかでしたが、アリスに励まされた以上、残された側は頑張るしかありませんよね。皆を練習へ送り出した後、1人になったアリスは「なんで…なんで…」と悔しさを露わにしますが、それもそのはずです。誰よりもバスケへの情熱を持ち、優勝して世界へ行くという目標の為にも大会にかけていたアリス。もしかしたら、自分が入ったことで良くも悪くも変化したバスケ部に対して、責任のようなものを感じていたのかもしれません。しかし、大会はもう目の前、全員が落ち込んでいる暇はありません。アリスを欠き、不安と焦りを感じる部員たちに、財前先生がある言葉を伝えます。

″「誰よりも高く飛べ」城嶋先生の教え、私もここの卒業生″

そう、アリスが亡き父から授かって大切にしていた言葉です。唖然とするアリスたち。生前、バスケ部でコーチをしていたアリスの父は、彩霞高校を強豪校へと押し上げます。そして、強かった10年前にバスケ部の中心選手として活躍していたのが、他ならぬ財前先生だったのです(つまり財前先生の年齢h…自主規制)。個人の努力は勿論のこと、誰よりも高く飛ぶ為に、誰かを高く飛ばせるためにチームで協力して努力すること。それこそがこの言葉の本当の意味だと、財前先生はアリスたちに説きます。アリスが試合に出られなくなった今だからこそ、全員が結束し、各々が仲間の為に最善を尽くすことでチームがより高いところへ行ける。目標や自信を失いかけていたアリスたちの心にさぞかし響いたことでしょう。この瞬間、彩霞高校は真のチームとなり、大会へ臨んでいくこととなります。そして大会当日、試合前の円陣を組もうとするチームに最後のピースが加わります。遅れて来たニューヒロイン・久美です。精神的な理由から来るイップスを克服し、シュートが打てるようになった久美の加入は、戦力的には勿論チームのメンタル面を考えても心強いですよね(実は久美がチームに戻るかどうかを賭けた1on1が財前先生との間で行われ、財前先生が勝ったことにより久美は部活へ戻る決心をしたのでした)。離ればなれになっていたピースが再び一つの杏子強固な塊となった彩霞高校バスケ部に怖いものはありません。いざ、ティップオフ!


「改めて、皆、準備は良い?」
「「「 はい! 」」」

「やってやるよ!」
「うん、何かあったら、私が守りますから」
「何もなかったけど」
「何か見つけるために」
「馬鹿にされてもいいから」
「1番目指すんだ!」

「自分の役割は絶対にあるから」
「もう逃げない」
「自分を信じて」
「皆を信じて」

『誰よりも高く飛べ!』

かくして、本作は盛大な拍手とともに幕を閉じます。物語を通して、アリスを中心とするバスケ部員たちの葛藤、すれ違い、変化、結束をきめ細やかに表現されており、何度見ても公演時間があっという間に感じる作品でした。これも単に、キャスティングされた役を公演毎により役に近付けて行き、稽古から千秋楽まで役を育て続けたメンバーの皆様の努力の賜物であり、素晴らしい作品を世に送り出してくれた関係者の皆様に感謝してもしきれません。本当に本当に感動をありがとうございました。

ところで、本項の冒頭で触れた本作のもう1つの¨主題歌¨について私見を述べていきたいと思います(答えは項目のタイトルに書いてしまっているのですが)。すばり、私は本作の本当の¨主題歌¨はかすみ草とステラの『ペルソナ』であると考えています。その理由を語るには、前提としてもう1つの楽曲に触れる必要があります。それは、本作の主人公とも言える登場人物と同名の楽曲『アリス』です。『アリス』は、理想と現実の狭間で揺れる女の子のセンシティブな心情を歌った楽曲です。

−追っていたはずの夢に
 いつから追われはじめたんだろう−

誰もいない放課後の教室で、出口の見えない暗闇に飲まれそうになるAlice。努力も笑顔も完璧なをいつも羨んで、ついつい私と比べてしまう。しかし、鏡の前でひとり心の扉を閉ざしていたAliceも、広い世界でひとりじゃないことに気付くことで鏡を捨て、窓の外に広がる青い空へ手を伸ばす決意をします。そう、『アリス』の曲中に登場するAliceこそが、城嶋アリスであり、秋山こころであり、坂東景であり、大門杏子であり、近川久美であり、江本加奈であり、古橋乙羽であり、後藤絵梨であり、原田海香であり、飯倉一花であり、財前若葉なのです。自分らしさを自分で決め付けて、どこかで線引きをしていたあの頃の私も、と出会うことで目の前の鏡を捨てて新しいワタシへと生まれ変わっていくのです(だから、あの頃の私、心配しなくていいよ!)。ここでいうが誰にとって誰であるかについては、受け手次第で多様な考察があると思いますので割愛します。

−もしも過去が 変わらないなら
 未来を愛せばいいじゃないか−

そして、我々は『アリス』のアンサーソングである『ペルソナ』という楽曲へと辿り着きます。後ろ向きであったAliceが、勇気を振り絞って外へと一歩を踏み出した先の世界線が『ペルソナ』です。自分らしさってヤツを言い訳にして閉じこもっていた小さな「私」が、理想の「ワタシ」になるまでのシンデレラストーリー。本作の登場人物1人ひとりが「私/ワタシ」の物語の主人公であり、Aliceであり、『ペルソナ』なのです。

−答えより 欲しいのは自信
 もっと私を好きになりたい−

一度きりの人生、自分だけが知っている嫌いな自分も、何もかも全て好きになって、好きなことを好きなままで生きられたら幸せですよね。綺麗事かもしれませんが、ひとりじゃなければ、仲間がいれば、人はどうとでも変わっていけるということを作品を通してアリスたちが教えてくれていたように感じます。過去は変えられないし、思い出は消えずに残っているけれど、次に会うときは新しいワタシで胸を張って会えるように。迷うことも遠回りすることもあるけれど、ぜんぶが青春なんだろう。振り返らずに進んでいれば、理想のワタシはきっとすぐそこで、昨日の涙が明日の笑顔になるのでしょう。それもこれも全部、と一緒だから叶えられる。今度はワタシが、を連れていく番。目をそらさないで、きっと。

″理想のワタシになる″


# 終わりに
この考察を書こうと思い立ったのが2024年4月4日のことでした。3日前にかすみ草とステラの単独公演で久々に彩霞高校の皆さんにお会いしたことで、半年前の記憶が走馬灯のように蘇り(しぬんかな…?)、気付いた時には指を走らせていました。2日間、思いつくままに書き殴ったので事実と異なる部分や誇張表現、妄想が幾分か含まれていると思いますが、許してくださいね。そもそも、ここまで読んでくれた方がいるとも思いませんが、もしいらっしゃったら大変長文になり申し訳ありませんでした、ご自愛ください。おや、もうこんなお時間だ。じいやがリムジンでお迎えに来ていますので本文中に載せきれなかった思いの丈を叫びながら締めたい思います。お付き合い頂き本当にありがとうございました!かすテラ大好き!!!






作品の本当の¨主題歌¨は『ペルソナ』!
……………なるぺそ。





−fin.