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【前回までのあらすじ】
叔母の紹介で里親募集中の子猫をもらうことに(更に短ッ)。
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5月6日。大雨が降っていた。

ようやく猫のいる生活が始まるという期待に年甲斐もなくサンバのリズムで踊る胸の片隅で、1つの命の在り方をあたしの都合で決めたのだ、という罪悪感にも似た感情は、引き続き鳴門の潮のごとく渦巻いていた。

いい名前を、つけようと思った。

普段触れない部分にうっすらと埃をかぶったグラストップのテーブルの上に投げ出された、未だ形を成さないランチョンマットや、写しかけたまま“g”で中途半端につづりが止まっているスペイン語の歌詞、何週間も同じ頁に折り目がついたディーン・クーンツのサスペンスや、いつ買ったのかすら思い出せない、綺麗なセロハン包みの飴玉にそうしたように、何食わぬ顔で、彼の幸せについての願いを無関心の底に沈めるなんてことが努々ないように。

半端に外国カブレなあたしは、もし猫を飼うことがあるのなら人間の子にはつけられないような異国情緒たっぷりな名を与えようとかねがね思っていた。

例えば、サイード。
例えば、ニーヨ。
例えば、ガルシア。
例えば、クレイグ。


Mmm...


・・・。


でもこいつには、どうにもゲルマンやラテンの民が編み出した機能的な文字が似つかわしくないように思えた。 目と目が離れた面白顔の和猫には、書初め用の筆で黒々と、太々と書かれた、この土地の文字が似合うだろう。

散々辞書をくった挙句、彼の名は「楽助」に落ち着いた。

あたしの都合で兄弟から引き離して、
マンションの一室に監禁して、
そこで一生を終えさせるのだ。
楽で楽しい生活を享させる理由には余りある。

この先、数え切れないほどの回数つむがれるであろうその名前が、都度都度、今の気持ちを思い出させるといいと思った。

ミドルネームが「ダイナマイト・ポン」なのは、また別のお話である。