こんにちは。
とうとうアメブロ投稿三桁の大台に乗りました。ぱちぱちぱち。
記念すべき本日の投稿は久しぶりの
牛さん短編小説劇場 第七幕
「だるい足」
です。
朝ふとネタが降りてきて三十分で書き上げました。
最近ネタがすっと浮かばない。^^
*
最近足が妙にだるい。
年のせいかなとも思う。
栄養が足りていないかもしれないな。
脚気のように。
俺は栄養ドリンクやカロリーメイトを食べるように努めて、多少改善された。
日曜日俺は図書館で半日過ごす。
無類の読書好きだから。
静かな環境は俺の趣味にあっていることもあり休息にはもってこいだ。
ただその日はソファーで寛いでページをめくる俺の隣の女が快適さを妨げた。
「あなたの足になにかついていますよ」
と彼女は眉間に皺をよせて囁く。
「はい?」
てっきりヌスットハギなどの種子がボトムズにくっついているのだろうと下を見下ろすが、特に異常はない。
「なにもついていませんけど」
俺は女性を追い払うように不快感を露わに応える。
「私は普通見えないものが見えるんです。あなたの足に男性がまとわりついているのが見えます」
女性はそれだけつぶやき、そそくさと館外に向けて早足で立ち去った。
スピリチュアリスト、霊感の強い人間、いずれも俺には胡散臭い存在だ。
だが、この時、俺には心当たりがあったのだ。
*
父親が死んだ。
そう警察から連絡があったのが去年の春。
父は俺と母親を捨てて愛人といっしょになった。
それからは音信不通で所在を知りたいと思わなかった。
警察から父が孤独死したことを知らされて、ざまぁみろとすら感じた理由。
父は自己破産して生活保護を受けていた。
父の愛人は死別したか父をふったのだろう。
因果は巡る、哀れな最期。
同情する余地はないが。
それで父親の遺骨を引き取って欲しいと警察に要請されたが断った。
実の息子だろうが、骨を引き取るだけの恩義はなかった。
しかしそれで縁が切れたわけではなかった。
その後父が最後に住んでいたアパートの大家からの電話。
いわく、アパートの修理費を払っていただきたいとのこと。
死後数か月して遺体が発見されたそうで、その部屋はまるごと改修しなければ使い物にならないそうだ。
その費用五十万円。
そんな代金を俺が払うものか。
俺は弁護士に相談して相続放棄を代行してもらった。
七万円要したが、まぁ五十万円よりかはまし。
大家さんには悪いが、それきり大家からの連絡は途絶えた。
やれやれ一件落着、と俺は安心していたのだが、図書館の一件でまた俺に嫌な記憶が蘇った。
間違いなく、俺の足についているのは父親だろう。
遺骨も引き取らなかった俺を呪い、足にとりついているのだろう。
それが最近の足のだるさの原因。
そうであるならばお祓いをせねばならない。
俺は近所の神社の神主さんに相談してみることにした。
また寄付金が要るな。
なんであの男は俺に迷惑をかけるのか、死してなお。
*
次の日曜日俺は図書館の憩いを我慢して神社に赴いた。
そこは宮司が常駐している大きな、見るからにご利益ありそうな神社だ。
滅多に神頼みしない俺だ。
神社で行う所作とかは知らない。
それがいけなかったのか。
鳥居のところですっころんだ。
ついてない。
足首をひねったようで歩けない、立ちあがれない。
宮司さんが救急車をよんでくれて、そのまま病院に搬送された。
「骨折も捻挫もしていませんね」
医師にそう告げられた。
不思議なことだが病院に到着するなり俺の痛みは消えていたのだ。
「ありがとうございます。一時はどうなるかと思いました」
俺がお礼を述べて立ちあがると、医師は手を上下して俺を再び着座させる。
「閉塞性動脈硬化症の疑いがあります」
「はい?」
「タバコは吸われますか?」
「ええ」
「血圧が高いし、血糖値も高い。糖尿病予備軍ですよ」
「え?」
「放っておくと歩けなくなりますよ」
「そ、そうなんですか?」
*
俺の足のだるさは病気だったのだ。
父親が足についていたわけではなかった。
いや、父親が足にまとわりついて教えてくれたのだ。
俺は今ではそう思っている。
このままでは息子が歩けなくなる。
そう感じた父は俺に知らせてくれたのだろう。
今ではそう思っている。
禍福は糾える縄の如し。
神社で転倒したのも神様の思し召しだったのかもしれない。
今度の日曜日は父親が無縁仏として埋葬されている霊園に行こう。
父が母を捨てたのは母が宗教に凝ってしまったこともある。
今にして思えば、図書館で俺に忠告してくれた女性、少し母の面影があった。
母は三年前に他界している。
了