こんにちは。

 

 本日も創作小説でお楽しみいただければ幸いです。

 セリフだけの小説なのでサクサク読めます。

 イメージを働かせて読んでください。

 

 

 

 はい、まいど。疫病神ですよ。ひっひっひっ、みなさまの近くのガード下高架下で病気を売っているからよろしくね。あ、神様ってのは次元が違うから泥酔してるか頭が正常な人は見えないからね。え? 病気なんて買うやついるかって? いるよ。タバコがそうだろう? 金出して病気の素を買っているのさ。ひっひっひっ。

 今回はね、なんだかへんてこな爺さんがやってきてね、そいつが主役なんだよ。

 まあ読んでおくれ。

 

              *

 

 

「疫病神のばあさん、こんばんは」
「じいさん、あんた誰だい? いきなりなんだい。ん? なんであたしが見えるのさ」
「同じ神様同士じゃからなぁ、ふぉっふおっふぉっ」
「へぇ? あんたも神様なのかい? それはそれは。貧乏そうな爺さんだから、さだめし貧乏神かい?」
「まぁそんなところだ。ところで、ここでわしも商売していいかのぉ?」
「同じ病気屋なら断るところだけどさ、あんた何商っているんだい?」
「幸せ…かのぉ」
「そりゃ売れ筋商品だ。ああ、せいぜい気張って売りなよ」
「ほい。よっこらしょっと。ここらにむしろを敷いて、と。おや、いらっしゃい、早速お客さんだ」
「じいさん、ここで何してんだい? え? 商売? 何売っているんだい? なにも品物がないようだけどさ」
「幸せ…かのぉ」
「幸せか。どんな?」
「まぁ幸せってのは、その人によりけりじゃからなぁ。あんたの幸せはどんなものかいのぉ?」
「貧乏になることだ。一文無しが望ましい」
「ふぉっふぉっふおっ、それはいい。どうして貧乏になりたいのかな?」
「俺は今年で四十五歳になる。飲む打つ買うをしないし無趣味で貯金は四千万円ある」
「それで?」
「俺は独り身だし、親兄弟もいない。この金使いきって死にたい。遺産相続する者はいないし、残しても最終的には国のものになってしまうんだろう?」
「寄付とかしたらどうかのぉ?」
「自分が稼いだ金だ。誰かにやるつもりはない」
「では結婚したらどうかのぉ?」
「仕事一筋できたから、もう婚期を逃した」
「なかなかイケメンじゃと思うがもったいないのぉ。わしなんか老人じゃがまだまだ恋愛は現役じゃぞ。ふぉっふぉっふぉっ」
「………で、貧乏にしてくれるのか? してくれないのか?」
「してあげよう。簡単じゃよ、ギャンブル中毒になればよい」
「それは考えた。しかしそれだと四千万くらいなら、あっという間に消え去るだろうし、いまいち面白みがない」
「駅前にパチンコ屋があるじゃろう? 今はパーラーというのか。それならどうじゃろう? 一日一万円負けても四千日遊べるぞい」
「悪くないな。ありがとう。やってみるよ。ここの相談料はいくらだい?」
「たまには勝つこともあるじゃろう。その金のいくらかをわしにもってきてくれればいいぞい」
「それだけでいいのかい? 結構欲がないな。じゃ、その時また来る」
「まいどありぃ」

       *

「こんばんは。じいさん」
「おやおや、これはわしの最初のお客様じゃないかね? どうじゃ? 貧乏になれたかのぉ?」
「これ、いままでパチンコで儲けた金だ。受け取ってくれ」
「おお、こんなに。いいのかい?」
「ああ、欲がないとギャンブルは勝つもんだな」
「そういうものらしいのぉ」
「それはともかく結婚するんだ」
「おお、そりゃおめでとうさん」
「パーラーに毎日通っていたらね、素敵な女性と知り合って。意気投合した。爺さんは俺と彼女の縁結びの神様だ。ありがとう」
「いやいやいや、わしは何もしとらんよ。イケメンが金持って毎日ギャンブルしてればさ、そりゃ女がよってくる」
「だとしても、よかった。俺はもうパチンコとは縁を切る。金を残す意味ができたからな。爺さんと契約した貧乏にはなれなかったが」
「いやぁ、貧乏になるよ。あんたは次々と子供に恵まれる。全部女の子じゃ」
「そんなことなんでわかるんだい?」
「一応わしも神様じゃからのぉ、ふぉっふぉっふぉっ」
「神様? 貧乏そうな神様だな。そうか、貧乏神?」
「ま、そんなようなもんじゃよ」
「じゃ、ありがとうな。もう二度と来ることはないと思うけど」
「まいどあり」

「爺さん、儲かったねぇ。ひっひっひっ」
「疫病神の婆さん、聞いてたのかい?」
「そりゃあね。隣だから聞こえるよ。ところで、どうしてあのお客さんは貧乏になるんだい?」
「俗に言うだろう。三人女の子が生まれると家がつぶれるってのぉ」
「ああ、女の子は嫁入りにお金がかかるからねぇ」
「あの男は女の子ばかり五人生まれるよ、ふぉっふぉっふぉっ」
「そりゃ大変だ。まぁ彼が望んだ通りになるんだからいいさね」
「貧乏なるは幸いなりじゃな、ふぉっふぉっふぉっ」
「商売繁盛でうらやましいねぇ」
「いやいやいや、勝って兜の緒を締めよじゃよ」
「ああお腹すいたねぇ。なんかあたしに食べ物でも恵んでおくれよ」

「いやいやいや、おごりは禁物」

       おしまい