こんんちは
本日も創作小説をお楽しみいただけたら幸いです。
セリフだけの小説なので頭の中でイメージして読んでくださいませ。
毎回完結タイプなので今回だけ読んでも大丈夫です。
連続創作小説 病気屋のおばあさん
CASE 8
はい、疫病神ですよ。病気を売っています。あんたの町のガード下や高架下でも売っているよ。見たことない? そりゃね、あたしも神様だからさ普通の人には見えないのさ。泥酔してたり頭の正常でない人なら見えるよ。
病気なんて要らない? そうだね。でもタバコ買うみたいなもんだよ。体に悪いのに金出して買ってるだろう? 欲しい人は欲しいのさ。
さあて、今日はどんな人がどんな病気を買いにくるのかねぇ。楽しみだねぇ。ひっひっひっ。
*
「外は雨かい。高架下は濡れないけど、こんな日は客なんて……、客どころか猫の子一匹通らないわね。そんな日でもあちらさんは営業してるねぇ。ま、あたしが見えるとは思えないけどさ。どうやら占い師らしいね。今日初めて見る顔だけど。あれあれ、こちらに来るよ。あたしが見えるのかしら?」
「ばあさん、ここで何やってるん? 売り物がどこにもないから不思議だなぁと思って声を掛けたんだけどさ」
「あたしが見える? ああ、占い師ってのは霊感が強い人が多いそうだからねぇ。こんばんは。あたしは病気屋でね。ここで病気売っているのさ」
「はぁ? 病気なんて買う人がいるん?」
「いるよ。タバコといっしょ。金出して不幸を手にいれたい人がいるのさね。ひっひっひっ。なにかいかがです?」
「そうだなぁ、楽に死ねる病気をひとつ」
「ふ~ん、あまり商売が繁盛していないからかい?」
「そ」
「人間はね、寿命まで生きるべきだよ。うん。神様が言うから間違いないよ」
「ばーさん神様なの?」
「疫病神。だから病気のスペシャリストさ、ひっひっひっ」
「理にかなってる」
「そうだろう?」
「俺の占いが当たるようになる病気はな~い?」
「そんなのあるわけないだろう。当たらないのかい?」
「当たったり当たらなかったり」
「占いってそんなもんだろう。というかコロナが世界中蔓延するなんて占い的中した奴はいないんだからさ、いい加減でいいのさ」
「そうだな。ただ絶対当たる占い、これに勝るセールスポイントはないと思うんだよな」
「高架下で営業してるだけじゃだめだよ。今は宣伝の世の中だ」
「ユーチューブで流してるけど再生数のびないし。やっぱり、これは当たるっていう売り文句があればなぁ」
「そういう病気はないからね。すまないねぇ」
「ないよね。あ~あ、雨だから誰も来ないや。もう家に帰って寝よう」
「それがいいよ」
「駅はこっちだっけ? それともこっち?」
「自分で占ってみたらどうだい? ひっひっひっ。他人様の人生の道筋は占えても自分のは駄目かい?」
「見料をいただけないとやる気がでないな」
「もっともだ。あ、いいこと考えた。占いが当たるようになる病気売ってあげるよ」
「さっき、そんなのないって言ってたじゃん」
「それがね、あったんだよ。買うかい?」
「マジ?」
「まじさね。ひっひっひっ。今後あんたの占い収入の三分の一あたしによこすかい?」
「ふふふ、そんなのあるわけないじゃん。いいよ、本当に占いが当たるようになったんなら支払ってやるよ」
「まいどあり。あたしの営業アドバイスつきさ。明日また来ておくれ看板つくっておくからさ」
「看板? なんだかわからんけど、わかった。明日もここへ来るわ。じゃあな、ばーさん」
「またねー」
*
「死神のカードが正位置で出たねぇ。つまりこの恋の行方は破局だね」
「な、なんですってぇ! 今彼氏とラブラブなのよっ。なんで破局すんのよ。……あ、そうか、反対になるわけね。てことは、うふふ。ありがとう。見料は一万円だったわね。はい、どうぞ」
「まいどありぃ。やれやれ、あと一人で終わりか。はい、次の人どうぞ、って、ばーさんかい」
「どうだい? あれから一か月、儲かってるみたいじゃないか」
「おかげさまで。なにしたん? 俺に。この看板なに?」
「あんたを病気にしてあげたのさ。ひっひっひっ」
「病気なの? 俺?」
「そうだよ。高次脳機能障害の空間把握障害って病気だよ」
「なにそれ? 難しくてわかんね」
「早い話、あんたは方向音痴になったのさね」
「へ? なんで方向音痴になると占いが当たるようになんのさ?」
「あんたは他人の道筋を占ってやっているんだろう?」
「ああ」
「あんたは方向音痴だからさ、あんたはことごとく道筋を外すのさ」
「ああ、それでこの看板の意味がわかった。俺の占いの逆を信じてください。俺が右と言えば左、正と言えば偽」
「そうさ。まったく当たらない占いの逆は、よく当たる占いってこと」
「頭いいねぇ、ばーさん」
「いつもあんたの売り上げから三割いただいているからね、ひっひっひっ」
「これって領収書もらえるん? 確定申告のとき必要経費でおとしたいから」
「いいよ。疫病神様で領収書書いてあげるよ、ひっひっひっ」
「やっぱいいわ。さてと、駅前のホテルに帰るとするか」
「おやおや、羽振りがいいこと。今やホテル暮らしかい?」
「ちげーよ。最近家に帰りつけないの」
おしまい