二代目桂春蝶が芸術論を語った「ピカソ」という自作の滑稽噺がある。

　芸術というものはよくわからんものです。一枚の絵に億単位の値段が付くなんて考えられません。ピカソの絵も億単位の値が付いているそうです。実はピカソは大のアルコール好きで、ある人物画を描いていた時、左目は普通に描けたのですがそのうち手が震えてきて右眼がまともに描けなかったことがありました。ピカソはその絵を没にしてアトリエの隅に捨て置きました。

ある日、絵画の評論家として高名なイチジクという美術館館長がピカソのアトリエを訪問して製作中の作品を観て、「相変わらず下手だな、もっと勉強しなさい」と激励する。帰り際にアトリエの隅に置いてあった、目が変に描かれた絵を見付け、「これは素晴らしい」と惚れ込み、この作品を世に出す。

それ以来、「あの館長が言うのなら間違いなかろう」とピカソの絵は高値で飛ぶように売れるようになった。一転してピカソは豪勢な生活をするようになったが良心が咎め、真実をイチジク館長に打ち明けることにした。

　「館長、世に出していただいたあの人物画はアルコールの飲み過ぎで満足に描けなかった失敗作なんです」とピカソが言うと、「心配することはない、俺もアルコールの所為で視神経をやられているんだ」。

サゲは今ひとつ冴えないが、その道の大家と言われる人の一言で絵画の値は決まるということが言いたかった噺であろう。芸術の評価に絶対はなく、ある意味、芸術の本質をついた一席ではなかろうか。

私はルーブル美術館でモナリザを観たことがあるが、手に取れるような間近（写真）で世界的な名画を鑑賞することが出来たのは驚きであった。押し合いへしあいしながら遠くから観る日本の展覧会とはえらい違いで、感慨も一入のものがあった。

メトロポリタン（ニューヨーク）やオルセー（パリ）でも、安価で気軽に名作を鑑賞することが出来たという印象が強く残っている。この点、日本人は主催者側も観る側も芸術に対して構え過ぎる傾向が強いように思う。子供の頃から芸術に親しませる環境作りが必要であると思う。

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＃２６０ 芸術品の評価を皮肉る ～「ピカソ」～

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