#200 将を射んと欲すれば… ~「猫の皿」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

 

江戸時代も落ち着いて来て太平の世になると、茶碗などの銘品を集める人が増えてきて、江戸の骨董品市場は活況を呈したが、やがて市中に出回る骨董品が払底するようになり、道具屋は商売上がったりの状況となった。

 

一人の道具屋が掘り出し物を求めて地方へ出掛けることにした。これを果師(はたし)と呼んだ。成果もなく歩き疲れた果師が「ちょっと休ませてもらうよ」と、小川のほとりの茶店に腰掛け、煙草に火を点けた。同じ床几で猫が皿に入った餌を食べている。よく観ると、なんと皿は“高麗の梅鉢”と呼ばれる逸品で、300両は下らない代物であった。“こんな使い方を見ると、茶店の親父は骨董品のことは何も知らないようだ。騙して取り上げてやろう”と内心で奸計をめぐらした。

「親父さん、私も女房も猫好きでうちでも一匹飼っていたんだが、先日、何処かへ行ったきりになって女房が寂しがっているんだ。親父さん宅は猫はこれ一匹かい?」「いえ、他にも15、6匹もおりますんで」「じゃあこの猫、私にくれないか? タダとは言わない、3両出そう」「そんなに高くですか?」「うん、逃げて行った猫によく似ているんで、どうしても欲しいんだ」「そんなわけならお譲りしましょう」「そうかい、有難う。じゃあ、3両渡すよ。それから、その猫が食べ慣れている皿も一緒に持って帰りたいんだ」「その皿だけは勘弁して下さい。“高麗の梅鉢”と呼ばれる逸品で、300両もする代物ですから」「へえ、そうなのかい、値打ち物なんだね」。

 

高い買い物をして落胆した果師に猫がすり寄って来る。「うるさい猫だな、あっちへ行け!俺は猫が嫌いなんだ。でも親父さん、なんでまたそんな(たけ)え皿で猫に飯を食わせたりするんだい?」「へえ、こうやっておりますと時々猫が3両で売れますんで」。

 

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」という慣用句の実例とも言うべき、「猫の皿(ねこのさら)」という洒落た人情噺である。百戦錬磨の果師よりも田舎の茶店の親父の方が一枚も二枚も上だったという面白い噺で、「油断大敵」という格言も浮かんで来そうである。

 

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