#57 安眠を妨害させない策 ~「宿屋の仇討」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

万事世話九郎という侍が神奈川の宿で旅籠に泊まることにした。「伊八と申します。お部屋にご案内致します」「おー、そなたが鶏を食べるというイタチか?」「いえ、伊八でございます。何なりとお申し付け下さい」「そうか、世話になる。昨夜は相州・小田原の宿で相部屋に入れられ、騒々しくて眠れなかった。今宵は狭くてもよいから静かな部屋を頼む」という、応対に出た奉公人・伊八とのやりとりがあって部屋へ通される。

 

次いで賑やかな男3人連れの若い町人客が隣室に通される。その夜は芸者を揚げてのドンチャン騒ぎとなり、相撲甚句に合わせて座敷で相撲を取り始めた。

 

「いはち~」と侍の呼ぶ声に伊八が部屋へ行くと、「昨夜は相州・小田原の宿で相部屋に入れられ、…」と冒頭の文句を繰り返し、「隣客を静かにさせろ」と言う。伊八が隣室に行って苦情を言うと「おれら江戸っ子に怖いもんなんかあるかってんだ。文句があるならそいつをここへ来させろ」と息巻く。「相手は斬り捨て御免のお侍ですが…」「侍?…、分かった、静かにするよ」と事は収まった。

 

3人は話がしやすいように布団を巴に敷いて頭を付き合わせて話を始める。その内、源ちゃんという男が「今まで内緒にしていたことだが俺の色事師ぶりの話をしてやろう」と話し始めた。「小間物の行商をやっていた3年前に川越の石坂段右衛門という侍の新造(妻)といい仲になった。それを知った侍の弟が俺を成敗しに来た。俺は弟を返り討ちにし、50両を持っていた新造と駆け落ちし、途中で新造をも殺して50両を奪ったことがあるんだ」と言う。「へえー、信じられないね、そんなことがあったのかい? 色事師の源ちゃん、源ちゃんは色事師」と他の二人が囃し立てる。

 

「いはち~」とまたまた侍の呼ぶ声がする。伊八が顔を出すと、「拙者は弟と妻の敵討ちの旅をしている本名を石坂段右衛門と申す者だ。今、隣室に敵の源ちゃんを見付けた。宿で騒動を起こすと迷惑を掛けるから、明朝、宿場外れで敵討ちを行う。ついては、他の2人も手助けをしたいであろうから3人が逃げ出さないように縛っておいてくれ。もし逃がしたらその方も斬る」と言う。慌てた伊八が隣室へ行き、事情を話す。「あの話は嘘だよ、両国の飲み屋で耳にした話の受け売りだよ」と源ちゃんは泣き出す始末。「俺たちは手助けをしないよ」という他の2人に構わず3人を縛り上げて伊八は寝ずの番をする。

 

翌朝、「昨夜はよく眠れた。世話になった」と侍が言って何事もなかったように出立しようとする。伊八が「あの3人をどうしましょう?」と訊くと、「あれは座興だ。俺は妻を娶ったことはないし、弟もいない。ああでも言わないと拙者が夜っぴて寝られなかった」。

 

この噺は五代目春風亭柳朝が十八番としたそうだ。確かに彼の威勢のいい口調がこの噺によく合っていた。現役では三遊亭小遊三の高座が聴きものである。

昭和の落語家のCDやDVDが時折発売されるが、柳朝が何故か全くと言っていいほど採り上げられないのが不思議であり残念である。現在の落語ファンにも聴いて欲しい上手な噺家であった。

 
(小田原城・神奈川 2016年)

 


にほんブログ村


落語ランキング

blogramのブログランキング