#34 知ったかぶりの代名詞 ~「酢豆腐」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

このブログ開設の案内を出した友人から激励のメールを頂き、自作の川柳が一句添えられていた。「発酵と 腐敗の違い 述べてみよ」(くるみ餅 作 毎日新聞万能川柳)というものである。ハッとさせられ、詠み手の着眼点の素晴らしさに感心させられた一句であった。川柳と落語にはどこか共通するものを感じていて私も川柳が好きで、散歩の途次に時折捻っている。

さて、この川柳から腐敗した豆腐が出て来る落語「酢豆腐(すどうふ)」を思い出した。こんな噺である。

 

夏の盛りに、町内の若い衆が集まって一杯やる相談をしている。肴はないかと探したところ、昨日買った豆腐があった。だが、暑さの中で出しっ放しにしていた所為で腐ってカビが生え始め、プーンと臭っていた。そこへ、日頃から食通を自慢し、知らない食べ物はないと豪語しているキザな若旦那が通り掛かった。この腐った豆腐を利用して若旦那を懲らしめてやろうと若い衆のリーダー格が一計を案じた。

「よーッ、町内の色男!ちょっと寄って行って下さい」と若旦那を招じ入れる。「貰い物なんですが私たちには名前が分からなくて。何でも珍味だそうですが若旦那ならご存知でしょう?」と豆腐を差し出す。「拙に知らない食べ物はない」と言いつつ豆腐を取り上げるが悪臭が鼻を突く。だが、日頃の言動の手前食べざるを得ず、鼻をつまみながら嫌々一口食べる。「若旦那、何と言う物ですか?」「拙の思うところ、これは“酢豆腐”という物でげす」「そうですか、酢豆腐ネェー、(上手いネーミングだと思いながら)どうぞ遠慮なくもっと召し上がって下さい」「いや、“酢豆腐”は一口に限る」。

 

「酢豆腐」は広辞苑にも「酢豆腐=知ったかぶり。半可通」と載っている位、知ったかぶりの代名詞となっており、「あいつは酢豆腐だ」という風に用いられた。この噺は1950年代にはよく高座に掛けられていて、八代目桂文楽の高座が秀逸で、キザな若旦那を好演していた。上方落語では「ちりとてちん」という題目で演じられており、2007年に放映されたNHK連続テレビ小説の題名にも使われた。初代昔々亭桃太郎「石鹸」という同工異曲の噺もある。

 

知ったかぶりを題材にした落語は、他にも「千早振る」「転失気」「やかん」「茶の湯」「つる」など傑作が多い。知ったかぶりをする人を敬遠し、笑い者にしたい大衆心理は今も昔も変わらぬようである。

 私は高校の芸能祭で、この「酢豆腐」を基にして脚本を書き、若旦那を当時流行っていたシスターボーイに仕立ててクラスメート4人で寸劇を演じ、大受けしたことがあり、印象深い噺である。

 

(琵琶湖ミシガン号・滋賀 2011年)

 


にほんブログ村


落語ランキング

blogramのブログランキング