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**まんじゅうと幽霊**

町はずれの小さな村に、古びた茶屋があった。その茶屋の名は「ふくふく庵」と言い、毎日地元の人々が集まる賑やかな場所だった。しかし、その茶屋には一つだけ奇妙な噂があった。

噂によると、茶屋の奥の倉庫には幽霊がいるという。誰もその幽霊を見たことはなかったが、夜になると倉庫からかすかに声が聞こえるのだという。それを聞いた人々は、幽霊がまんじゅうを欲しがっているのではないかと恐れ、倉庫には近づかなくなった。

ある日、村の青年であるタケルは、ふくふく庵の主人であるおばあさんから、倉庫の整理を頼まれた。タケルは幽霊の噂を知っていたが、勇敢な青年で、むしろ興味があった。彼は幽霊と対峙する覚悟で、夜に倉庫に入った。

倉庫の中は、まんじゅうの甘い香りが漂っていた。棚には古い道具や使わなくなった家具が積み重ねられていたが、幽霊の気配は感じられなかった。しかし、夜が深くなるにつれて、確かにかすかな声が聞こえてきた。それはまるで、遠くから話しかけられているような声だった。

タケルは慎重に声の方へ歩いていくと、古い木箱の影に小さな穴を見つけた。その穴から声が漏れているようだった。タケルは勇気を振り絞り、箱を動かしてみると、そこには古びた扉があった。

扉を開けると、狭い部屋があった。部屋の中央には、一人の少女が座っていた。少女はタケルを見ると微笑んだ。彼女は幽霊ではなく、長い間この倉庫に隠れていたのだった。

少女は、「私はミユキ。おじいちゃんが亡くなって、この倉庫に住むようになったの。でも、毎日お腹がすいて困っていたの」と語った。タケルは、彼女にまんじゅうを差し出しながら、「大変だったね。でも、これからは一緒にご飯を食べよう」と優しく言った。

その後、タケルと村の人々は、ミユキを迎え入れ、彼女の家族を探す手助けをした。幽霊の噂はすぐに消え、ふくふく庵は再び賑やかな場所となった。そして、村の人々は、まんじゅうの香りが幸せとともに広がるのを感じながら、毎日を過ごすようになった。

幽霊の正体が明らかになったことを知ると、村の人々はまんじゅうを作るたびに、倉庫の奥に向かって微笑んだ。もう幽霊を怖がることはなかった。