ぐるんぐるんぐるん

鳩尾辺りの差し込むような痛みに現実に戻される。


時計より先に静寂に響くポストの音から大体の時間は想像できる。

患部を堪らずに手で触ってみても口から何か出てきそうに痛く、そして吐気が襲う。


マゾヒストでは決してないがゆっくり指に力を込めると筋肉痛に似た痛みが走る。

息苦しさを感じて反対の手で窓を開けて早朝のひやい空気を入れる。


触れる外気が冷たすぎて身震いした所でようやく自分が異様に発汗している事に気がつく。

状況は変わらないが何故か気持ちは落ち着いてきた。


ココは胃か膵臓か十二指腸か…消化器系の炎症だろうなぁ

急性なんとかってつきそうなソレだ、きっと


今できることは何もないし病院に行く気もない。

しかし状況は打開したいので何か出来ないか考えてみる。


途端左足の土踏まず近辺が痙攣を始めた。

嗚呼、ここは消化器系の反射区だったっけ


膝をうんと折り曲げて右手人差し指を曲げると痙攣しているそこに第二間接をグリグリ当てる。

半分寝ていた脳がパッチリ覚めるほどの衝撃があったが、締め付けられていた鳩尾が楽になった気がする。


暫く力を込めてグリグリしていると衝撃が和らぎ痙攣も治まった。

膝がしんどくなってきたので解放し、今度は鳩尾に手を当てながら深呼吸をはじめた。


息苦しいが火照った患部に新鮮な外気が触れると良くなってるような錯覚を受ける。

何度か深い呼吸を繰り返した後脳内でイメージをした。


疲れて真っ赤になっている内蔵に青い呼吸が少しずつ侵食し落ち着いていくところを。

全力で想像する。


気がついたら手で優しく鳩尾周りをさすり「だいじょうぶだいじょうぶ」と呟いていた。

なんだか優しい気持ちだな…と思ったらカーテンが騒がしく動き出した。


隙間から眩しい光が零れ、すっかり街は起き出していた。

優しい気持ちを手放したくない、もう一度目を閉じた。

この曜日は9時間ソフトドリンク飲み放題が付いて390円で居座れる。

以前通う目的がきちんとあった時に知ったサービスを今もたまに利用している。


たまに、の理由はこんなのが9時間ギリギリまで毎週居られたら店側にしたら溜まったものじゃないだろうと勝手に想像しての事だ。

心情にうっすら申し訳なさも宿って友人には積極的にこの場所を口コミするようにはしている。


壁紙には「部屋は目的以外で利用するのをおやめください」との記述。

とりあえずマイクを握りタッチパネルを操作、耳触りのよい空間を演出する。


エコーはあまり好きじゃないのでうっすらかける程度、強くかけると頭にリフレインして気持ち悪くなるのだ。

伴奏もマイクも店側のオススメ度数より幾分小さくしてようやく部屋の調整に入る。


照明は一番明るく、暗いと眠くなるしどうせ行き来する人に覗かれるのだから気にしない。

空調は28度、当たり部屋だとイオンや空気清浄機能もあるのでそれもオンにする。


そうしたところでようやく枝豆がフロントから届く。

これは前回きた時にイベントで得た無料チケットを利用したものだ。


イベントとは店側が提示した曲から高得点を出すと飲食物と交換してくれるものだ。

枝豆とソフトドリンクで20時までもたすのだから本当にいいお客さんだと思う。


店員が部屋を去った後に机の位置を移動し可能ならモニターの正面に椅子を置いたり立てるように空間を作る。

上着があるならハンガーにかけて、バックの中からおもむろにノートとボールペンを出して机に置く。


ノートには暇だから出た点数を書き綴っている、彼是4冊目。

友人と行く時もこのノートを持参する事が多いので世間の反応は笑わうか呆れる反応なのは知っている。


タッチパネルは長時間の耐久に命を落とすので電源コードをうんと伸ばして机の上へ。

2本付属のマイクは20曲ごとに交換がいつの間にか出来上がったマイルール。


体調が悪い時を除いて14時ごろと17時半の2回、トイレの時間まで決めていたりもする。

そうして少なくとも100曲は歌い、気が向けば踊り、豆をかじって、ウーロン茶を飲む。


飲物はとろっとしてるりんごジュースやオレンジジュースが喉には好ましい。

油分を取ってしまうウーロン茶は不向きなのは理解の上でお供に決めている。


何故だろう…と考えても昔からの癖でお茶のボタンを押してしまう。

異様に喉周りは強いので大丈夫だろうと思い込んでいるのもある。


10分前にの終わりを告げるベルに対応するのが嫌で20分前には部屋を元通りに。

そして15分前を境に退出する。


どんなに混んでいてもオーバーする事無く390円を支払い店を後にする。

すっかり暗くなった空間を歩く、流石にこのときばかりは食への欲求が高まる。


ただ不思議な事に帰宅し並べられた食材を見ると欲が下がることが殆どだ。

理由はわからないし、問い詰めたいとも思わない。


でも胸には吐気と充実感が交じり合った不思議な達成感があり、シャワーを浴びたら早々に横になる。

眠いのに寝付けないけどあまり気にしないから結局はすぐに寝ているのがパターンなのだ。

海を見ているのが好きだ。

ただこの街は面してなくて逢いに行くには車を要する。


車と言っても私がさすのは免許の必要の無い小学生も多く乗れるそれだ。

多くの友人が大学時代に取得したそれを保持してないから必然的にそうなる訳だけども。


もっとも私は大学時代と言う物がなかったし、必要性を感じなかったから今後も愛車はエコであり続ける。

さて川沿いをグンと下降するルートがゴールへの近道らしいが、一度も通った事がない。


市街地を抜けるゴミゴミとした路を選んだのは挫折した時に相棒を棄てて電車で帰れる。

と、言う気持ちからではなくただ何となくだ。


30分毎に10分の休憩を入れて持参のお茶を飲み足を曲げたり伸ばしたりお菓子を齧る。

5回休憩を入れてやっとつく距離だが筋肉痛になった事は一度もない。


本当は毎日だって眺めていたいけれども最近はそうもいかなくなってしまった。

後ろ足にどれだけ生命の息を吹き込んでも5分も持たずに萎れてしまうからだ。


このご時勢に新品で5000円台で随分もったなぁ…と庭になんとなく放置して1ヶ月になる。

3日乗らなかっただけでも住人が住み着いて糸をまとうからどんな事態になってるのやら。


そんな訳で近場で好きなスポットのひとつに歩道橋がある。

アレの癖にあまり高い所は得てではないがココだけは話は別だ。


早朝の起き出す雰囲気、夕暮れの落ち着いた雰囲気、夜の神秘的な雰囲気。

例外として昼の慌しい雰囲気は好きじゃないし、もしその時間に出歩いても歩道橋は使わない。


たかだか数メートルしか変わらないのにそこに吹く風はちょっと新鮮な気がする。

今のところ決行予定はないが飛び降りたらどうなるんだろう?と考えるのもいつものことである。


もう一つは最近出来たスポットで川、整備されて触れる位置まで降りられるようになった。

日中は子供夜は大人に遊び用に取られてしまうので1人になるタイミングはなかなか難しい。


狙い目は大人の遊びが終る日付が変わる間際か極端に暑い日或いは寒い日だ。

しかし基本的に夜更かしは嫌いなので後者を選択する事が多い。


座って闇で音しか聞こえない川に向かって手ごろな石をただひたすら投げる。

重さによって着水の音が変わり、手元が狂うと対岸のコンクリートに当たる音が面白い。


ちゃぽん ちゃぽん ぽちゃん ちゃぽん かっ ちゃぽん ぼちゃん ちゃぽん ちゃぽん

どぼん ちゃぽん ちゃぽん どん かっ かっ ちゃぽん ちゃぽん ぽちゃん どぽん


今年の夏ビールを飲みながら初恋の人をこの気に入りの場所へ連れてきた事がある。

野球の投球を教えて貰ったり定番の水切りをしていたが1時間ほどで飽きられてしまった。


行く頻度がそう高くはないけれども行ったらただひたすらに石を投げ続ける。

これだけ投げてるのに石がなくならない不思議を感じつつただただ投げる。

雨が降っていた。

少し窓が開いていたらしくそこからの冷気の侵入が目覚ましだ。


今日は部屋を綺麗にしたいなー…と机側に顔を向けるが途端に気持ちが萎む。

整頓されてなくても誰も困らないしな、言い訳で自分を説得するのが最近の得意技になっていた。


正直部屋の常態は綺麗ではないけど汚くはない。

過去に服の収納に失敗して放置して床が見えなくなりドアが開かなくなったのに比べればマシだ。


床は見えてるし小物類も種別や形順ではないがとりあえず並んでる。

じゃあ友達が呼べるかと言ったら呼べないことはないが、変なプライドがあるから今のままじゃやっぱり無理だ。


部屋の常態が心理状態の表れと言うけれどまさにと痛感する。

綺麗でも汚くもないなんか中途半端で微妙に居心地が悪いけど長い間居るから慣れてはいる。


じゃあ綺麗に片付けたら衛生状態が良くなるかな、いや…といつもの問答を脳内で繰り返す

いつの間にか雨音が止んで部屋がさっきより一層暗くなった気がする。


のそのそと起き上がり目を凝らすと近所の家々に明かりが付き始めていた。

鍵と携帯をポケットに入れて上着を羽織り外へ飛び出した。


重たい足と心を引きずってやや歩くとフトモモに痒みが走る。

蕁麻疹が出たらしい、コースを短めに変更してささっと振り出しへ戻ろうとする。


夏のミストとは訳が違う秋のソレがふわっとやってきた。

髪の毛が完全に湿る前に前に帰りたいと自然と歩幅が大きくなる。


公園に差し掛かり我が家の玄関の明かりが見え始めたところでびくっとした。

誰も居ないであろう砂場に大きな荷物が置いてあったからだ。


暗闇に悪い視力も手伝ってよく見えないがスポーツバックに思える。

歩は緩めずに観察するとグラット動きバックが宙に浮いた。


バックを背負っている人が立ち上がった、が事実であるが。

表情は読めないが何となく気まずい空間が生まれる。


互いに反対方向の出口に向かうが振り返らなかったので実際はわからない。

帰宅一番にシャワーを浴びながら考える。


バックに隠れる背丈の人が悪天候の宵始めに1人で公園に?!

家に帰れない理由があったのか、はたまた家がないのか、実は人型の地球外生命か…


カラスよりも素早い行水、手際がいいのはコレくらいのものだ。

コンタクトレンズを外すと自室に戻り何となくPCをつけていつもの夜が始まる。

久々に明るい時間に街に繰り出した。

郵便小為替を返金するのに期限があるので仕方なくではあるが。


太陽も人も嫌いじゃないけどなんとなく逢いたくなくて気が向いたら夜に散歩に出るだけの生活。

ただ家から15分くらい歩いて郵便局に行くだけなのに大冒険した気持ちになる。


最短距離の帰路を外れ昔よく行った神社に来てみた。

10月の午前は風が冷たいけど日差しが温かい、目を細める。


柔らかい空間に一瞬緊張が走る、振り返るが何もない。

無駄に上がった心音を楽しみながら過去の自分の居場所、神輿横の階段下を覗く。



止まるかと思った、いろんなものが。

向こうも大きく目を見開いたがお互い軽く会釈をして暫く見つめ合っていた。


沈黙に先に耐えられなくなったのは私だ。

無意味にごめんなさいと謝って出口の方へ気持ちは一目散、身体はゆっくり向かっていった。


今の自分の定位置、自室のPC前の椅子に座ると落ち着いてきた。

背もたれのネジが随分前からゆるくなってる為に仰け反るとギィギィと音が鳴る。


締める工具は数日前に気紛れに部屋を片付けている時に見つけたから後は回すだけ

だけど面倒と言うよりはこの半分壊れかけのスタイルが気持ちよくて放置している。


こっそりいつネジが外れて自分が後ろに転げ落ちるか、はたまた間一髪逃れられるのか…

小さなスリリングが楽しいというのが一番大きな理由かもしれない。


心地良い怪音を響かせながらさっきの事を思い返す

まさか人が居るとは思わなかった、男の子だったかな


幼く小さい印象をうけたし3、4年生と言った所か

はて、と思ってぐるっと部屋を見回すが目的の物がない


仕方なくベッドの上にダラしなく投げたバックを引き寄せ携帯電話を開く。

ロックを外してカレンダーを見る。


今日は月曜、祝日でもないし平日だ

なんで学校の時間に…いや、行事かなんかの振り替え休日かもしれない


サボりにしても理由はなんだろう

流行のイジメか単なるサボりか、もしかして見た目は子供だけど実は…


珍しくディスプレイがスリープモードになっていた。

相当長い時間先程出合った少年関係で費やしていたらしい。


遠くで母親の声が聞こえたので空想を中止し階段を降りる。

お腹は空いてない、でも実家に居候してるなら無理にでも食べなくてはいけない。


もう何十年も繰り返される光景を目の当たりにして、残っていた食欲がなくなってしまった。

ごめん、今日もお茶とゼリーでいいや


作業を終えると身体がとんでもなくだるい気がして部屋に戻るとベッドに倒れこんでしまった。

カーテン越しにキラキラ光る午後の木洩れ日に目を細めるといつの間にか真っ暗な世界にやってきていた。