《ハム、ルッコラとホワイトセロリのクドン特製ドレッシング和え、ブラックオリーブ、チーズ》
誕生日プレゼントは、オリーブがいい!
と、林さん。
自分のことは20歳だと言い張って、絶対に歳を教えない。
いつもロングスカートで長袖。
肌が弱くて、半袖は無理。
でも、出勤は自転車。
汗を拭き拭き、出社する。
仕事中も常にタオルを持ち歩く。そしてたまに、faxの複合機の横に忘れる。
放置してあるタオルは、まず林さんと思って間違いない。
太ってるけど、汗かきだけど、くさくはない。
柔軟剤はレノアじゃなきゃだめなのよ。
以前、隣の人のニオイがだめなんですとクレームがあったとき、やたらとレノアを推していた。
おにぎらずを作ってから出かける横浜のコールセンター。2人前の上司だった林さんは、おそらく100kgを超えているんじゃないかと思われる女性で、というのは120kgある従姉妹と見かけは大差ないから分かることで、とにかくスパルタで、他の人に仕事を任せたくない人だった。
何かを頼んでも一回ミスをしたら、次は無い。はい、もうワタシがやる!となる。だから、彼女の仕事はどんどん増える。残業も多くて、林さん会社に住んでるの?と言われるくらいだった。
タオルを握りしめた手は、ぷにぷにしていてクリームパンみたいだ。
赤ちゃんのように、指の付け根に4つへこみがある。
ねーねー、よく見てよ。
なんか変わってない?
髪型も変わってないし、新しい服でもない。
もう!
5kgも痩せたんだよ。
それなのに、誰も気づいてくれない!
と、不機嫌ぎみ。
いや、ごめん、
ぜんぜん分かんなかった。
家には、すごく太った時からまあまあ痩せた時まで、複数のサイズを取り揃えた服があるらしい。
標語や朝礼の合言葉のように
私やせる!
というけれど、
机の上には、毎日お菓子がある。
例えば、アーモンドチョコレートを買うとする。コンビニで2箱買ってきて、その日のうちにそれを食べ切る。
食べすぎだって。
私ね、考えたの、チョコじゃなくてこれならいいかなって。
持ってきたのは、ミックスナッツ。
大袋を机の端に置いて、パソコン見ながら食べ続ける。
だって、お昼食べないからいいじゃない。
痩せるんだから。
ずっと食べてるからさ、もう空腹の時がないじゃん。
一緒にご飯を食べに行くと、ご飯よりまずタバコ。座って火をつけたら、ずっと吸い続ける、一箱終わるまで。
それも良くないよ。
職場が横浜に引っ越して、通勤に2時間以上かかると分かったとき、林さんも引っ越した。
絶対おしゃれなマンションに住みたい!と言って、あちこち探す。
いいのあったよー。
本当は分譲なんだけど、賃貸になってるの。
しかも、一階しか空いてないって言ってたのに、三階も空いたのー。
もう、ここしかなくない?
またそこから自転車通勤。
3年くらい一緒に仕事をしたけれど、結果、痩せた林さんに会うことは無かった。
社員さんの席にあるマトリョーシカの缶。キャビネットの鍵が入っている。そのマトリョーシカの顔には、林さんの顔写真が付いている。
まだある、彼女の名残。
突然いなくなってしまったから。
僕はずっとここに写真をつけておきますよ
と、正木さんが言った。
仲良くしてくれた、クライアントの社員さんだ。
どうしていなくなってしまったのか、教えてくださいと、何度も聞かれた。
大阪の親御さんが倒れられて、大阪に帰ることになったそうです。
みんなに展開された理由を伝える。
僕は何度も連絡をしたんですよ。でも返事は来ない。これはね、良くないですよ。
あの時ちゃんと伝えていたら良かったのにと、そういう思いを抱えながら生きて行くんですよ。いつか後悔しますよ。不義理をしてしまったと、悔やみながら過ごさないといけないんですよ。そういうことを僕はさせたくないんです。年長者の僕は言ってあげられると思います。だから、何度でも連絡しますよ。
その数年後、正木さんも定年退職で辞められた。
林さんと連絡は取れたのだろうか。
横浜で、林さんに会ったよ。
普通に、元気ー?って言ってたよ。
高島屋の前で偶然会ったという。
何もなかったかのような再会。
こっちにいるんだ。
元気ならいっか。
オリーブ使いたい。
おにぎりもオリーブ?
じゃあ、ぎらずはブラックオリーブにする。
ケータリングのために、女将が見つけてきたグリーンとブラックのオリーブ。
これが、美味しい。
なんでこんなオリーブ人気なの?
と、不思議そうなクドン。
あったから、みつけたから、です。
オリーブなら、ともだちはハムかな。
あとは、クドンのドレッシングでサラダ。
ルッコラとホワイトセロリ。
それからチーズ!
これで、ともだちはそろいました。
ご飯のうえに
ブラックオリーブの輪切りをぱらぱら
そのうえにルッコラとホワイトセロリ
そのうえはチーズ
そしてハム
またごはん
海苔で巻いてできあがり
一緒にご飯食べに行ったよね。
豚骨ラーメン。
ひとりでラーメン屋さんになんて入れないって言って、一緒に行った。
あっという間に麺を平らげ、
替え玉の麺も飲むように無くなった。
いちばんたくさん一緒にいたと思ってたのに。
急にいなくなるから。
お世話になりました、も
言えなかったじゃないか!