『菅首相退陣表明 「有言不実行」懸案は次期政権へ』

　就任から約１年３カ月で退陣表明した菅直人首相は経済成長と財政再建の両立を掲げたが、打ち出した政策は成果に乏しく「有言不実行」に終わった形だ。日本経済は２００８年秋のリーマン・ショックの傷が癒えない中で、東日本大震災が発生、急激な円高にも見舞われている。マイナス成長が続くほか、国の借金も膨張に歯止めがかかっていない。懸案は軒並み先送りされ、次期政権は「負の遺産」を解消する道筋を早急に示して着実に実行することが求められる。

　経済の体温を表すとされる株価はこの１年３カ月間“低体温”が続く。２６日の東京株式市場の日経平均株価は前日終値比２５円４２銭高の８７９７円７８銭で、菅政権発足時の昨年６月８日の９５３７円９４銭を７４０円１６銭下回った。

　政権発足時の昨年４～６月期の国内総生産（ＧＤＰ）は自公政権下で始まった家電エコポイント制度が縮小された影響で３四半期ぶりのマイナス成長だった。その後の７～９月期はやはり自公政権下で導入されたエコカー購入補助金終了前の駆け込み需要でプラスに転じたものの、１０～１２月期は同補助金の打ち切りで再びマイナスに転落。そこに震災による生産や消費の落ち込みが追い打ちをかけ、今年４～６月期まで３四半期連続でマイナスが続く。

　景気浮揚に効果があったのは自公政権から引き継いだ消費刺激策だけで、震災の影響を抜きにしても菅政権の「無策」は明白だ。

　◆デフレ脱却に策なし

　菅政権は鳩山前政権の「家計支援重視・企業軽視」の経済政策を修正し、昨年６月に閣議決定した新成長戦略で法人税減税など企業の成長支援策を打ち出した。だが、法人税の実効税率５％引き下げを盛り込んだ１１年度税制改正法案は与野党の対立で国会の審議が止まり、実現の見通しが立たない。

　新興国などの成長を取り込もうと、菅首相が昨年１０月の臨時国会の所信表明演説で提唱したＴＰＰ（環太平洋戦略的経済連携協定）の参加も農家の反発や震災の影響もあり結論が先延ばしされたままだ。

　日本経済の病であるデフレからの脱却に向けた取り組みも力不足だった。菅首相は副総理・国家戦略担当相時代の一昨年１１月に「デフレ宣言」を行い、昨年６月の新成長戦略でも今年度中に消費者物価指数をプラスにしてデフレを脱却する目標を明記した。

　だが、生鮮食品を除く消費者物価指数は今年６月まで２年４カ月連続で前年同月に比べて下落。７月の同指数は２年７カ月ぶりにプラスとなったが、国際的なエネルギー価格の高止まりなどを背景にした「悪い物価上昇」で、デフレの根本原因である需要不足は年２０兆円と解消していない。

　農林中金総合研究所の南武志主任研究員は「（首相は）日銀に強く働きかけたわけではないし、有効な経済政策を打てたわけでもない」と批判する。

　内需の低迷に直面する企業は外需への依存度を強めているが、菅政権の発足時に１ドル＝９１円台だった円相場は今月１９日に７５円９５銭と戦後最高値を記録。輸出企業には逆風だ。菅政権は３度の円売り介入に踏み切ったが、いずれも効果は長続きせず、円高対応でも「手詰まり感」が強まっていた。

　◆財政再建も置き去り

　就任直後の昨年６月、唐突に消費税増税をぶち上げるなど菅首相がこだわった財政再建も結局置き去りにされたままだ。今年６月にまとまった社会保障と税の一体改革案は増税反対派の求めに応じ、消費税増税の時期を「２０１０年代半ば」という表現にぼかした。ニッセイ基礎研究所の櫨（はじ）浩一経済調査部長は「閣議決定もできず、何も決まらなかったと同じだ」と切り捨てる。

　１０年度末の国・地方の長期債務残高は８６２兆円で、ＧＤＰの１．８倍にまで増大。このままでは欧米の財政不安が「対岸の火事」ではなくなる恐れも指摘され、次期政権には難題が山積している。（田村龍彦、本田誠）

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