飴玉転がしながら、葉巻で余韻を刻む呑み心地
コストコだと最安の2000円。
とんでもないワインが出てきたものだ
〜ワイン選挙 アメリカ編〜
俺はアメリカのワイン代表人米川の邸宅を訪れた。
米川は実業家だ。事業は幅広く、その中でも特に有名なのがワイン事業。そして――“マリア”という名のワインだ。
4年前のワイン選挙で日本一に選ばれたワインだ。
ひと口目は普通だが、気づけば囚われている魔性のような力を持っていた。
俺も一時期マリアから抜けられずに苦労した。マリアの発売当初は飲みすぎで二日酔いの社員が続出。アル中が増えたという統計まであるらしい。
そんな魔性のワインを作った男は、一体どんな人物なのか。期待と不安を抱えながら米川邸へ。
その豪邸は、仏山邸に勝るとも劣らない派手さで、まさに海外富豪の住まいだった。
米川は意外にも気さくだった。
吹き替え映画のアメリカ人みたいな調子で話し始める。
「やあ、よく来たね。アメリカワインの魅力を知りたいんだって? アメリカワインの魅力は……“No.1”なことさ」
唐突に飛び出したNo.1。
「すごい自信ですね。何か根拠があるんですか?」
俺の問いに、米川はニンマリ笑って答える。
「根拠?もちろんある。まずは“バリテイスティング事件”だよ。知ってるかい?」
「名前だけは……」
そういえば先輩の資料にあった。ちゃんと勉強しておけばよかったと少し後悔したが、米川は丁寧に説明を続けた。
俺の懸念に反して、米川は丁寧に話す。
なんだワイン代表人っていいやつじゃん
「1976年、フランスの高級ワインと無名のアメリカワインが対決したんだ。結果は――白も赤もアメリカが勝っちゃったんだ!」
「それは凄い!」
「だろ? 当時一位になった白は今でも2万円で買えるよ。赤は高騰したけど、エントリー銘柄なら1万円台からあるね」
なるほど。2万円は高いが“世界一”を体験できるなら安いかもしれない。彼女ができた時のために覚えておこう。
「その後のリターンマッチも全部アメリカが勝ったんだ。どうだい、アメリカは凄いんだろ?」
「アメリカワインがそんなに凄い理由てなんですか?言っちゃ悪いですが、歴史はあまりないですよね」
「それはアメリカが才能と投資が集まる国だからだよ。映画も企業もオリンピックもアメリカがNo.1だろ?」
確かに株式市場やハリウッドを見れば一理ある。
「元々気候にも恵まれていたし、成功した経営者がセカンドライフで参入したのも大きい。金、人脈、センスを持つ連中が揃っていたからな。今やフランスに負けない高級ワインを作っている。……少なくともイタリアなんかは話にならないね」
唐突にイタリアをディスり始めた。やっぱりワイン代表は他国が嫌いなんだろうか。
「それに、あいつら日本に“イタリアンランド”なんて立てやがって……日本は俺の調合したアメリカワインが支配するはずだったのに」
話が危険な方向へ向かいそうだったので、慌てて質問を変える。
「アメリカにはコスパワインはありますか?」
「もちろんあるよ。大量生産のメリットを活かしたお得なものが山ほどある。カリフォルニアの食べ物は安くて旨いだろ?高級でもコスパでもアメリカはNo.1さ。何せ“マリア”はこの前日本でもNo.1になったしね。」
ついに“マリア”の名が出た。俺はチャンスとばかりに切り込んだ
「コスパワインの“アーニャ”を飲んでみたいんです。店舗限定の不定期だけど、一度飲むと忘れられないとか」
その時、米川がキレた
「あんなもん飲めるわけねえだろ!! 何考えてんだお前!!」
突然のブチギレに困惑が隠せない
冷や汗も出てきた。
俺の慌てっぷりを見て
すぐに米川は冷静を装い、態度を変える。
「ゴメンゴメン、急に怒っちゃったね。アーニャはフレーヴァードワインだから、普通のワインの定義から離れちゃってるんだ」
何故か今度は米川が冷や汗をかいている。
なんか怪しい
「でも飲んでみたいです」
「いや、あれハイッちゃってるからな。私は飲みたくないなか〜」
「“あれ”とは?」
「えっ?あ、アルコールのことだよ。飲みすぎ注意って意味さ」
「まさかマリアにも何か入ってたんじゃ?」
「い、今は入ってないよ」
「今は?」
「コーラだって昔は変なもん入ってただろ? 時代に合わせて変化するんだ。ビジネスの基本だろう?」
ますます怪しい。
さらに食い下がると、米川は白状した。
「アーニャには亜久地市のハーブと南アフリカの薬草が入っている。危険性は確認されてないから問題ないよ。ハハハ」
怪しむ俺の様子をぶった斬って、唐突にコスパワインの話になった
〜コスパワイン〜
差し出されたのは「689ピノ・ノワール」。
〜続きはインスタへ〜