何度後悔したか分からない。

それぞれの味の記憶一一受けた心の痛み、軽くなる財布、広がる暗闇、残酷な虚無感ーーは、散財を繰り返すたびにモヤがかかったように薄れていった。


しかし一つだけ、決して薄れないブルゴーニュの記憶があった。結婚式で飲んだブルゴーニュ。

私の最初の赤、そして最後になるはずだった赤。


忘れようとどんな努力をしても頭から消えていかず、幾度となく思いだされる。あの日の思い出のように

同じ記憶を、妻も覚えているだろうかと私は思った。

かつての面影などもはや残っていない、2人の関係の中で



元々、不利な賭けだった。

それでも私は、できる限りの準備をした。

ソムリエ協会は教本で私に知識を与えた。

銀行はなけなしのお金をおろした


検索エンジンはあらゆる知識を与え、ブルゴーニュの可能性を信じ、お墨付きを与え、私たちを鼓舞して送り出した。


ワインの住まう地、ワインショップへと。

私たちはどこで間違えたのか。

あるいはそもそも、安く神の地の酒が飲めるという考え自体が誤りだったのかもしれない。

どこまでいっても神は神、人は人。

覆せない格差の残酷さを人類に見せつけるかのように、私は敗北した。


過去を振り返り、わたしは思う。

もし私が、あのとき気の迷いでブルゴーニュを飲まなければ、沼にハマらなかっただろうかと。

ーーーあの時のワインに出会うために、財産と肝臓を投げ打つという道を。




舌に突き刺さった酸の痛み。

甘草とキノコの生々しい感触。

イガイガするだけのタンニンのかきむしり

ワインの中から、香りだけが剥がされていくような感覚。


そうしたハズレの記憶一一一ワインとしての失敗と後悔と死の記憶は、何回ハズレを繰り返しても、薄れることなく心に刻まれている。



コスパワインを恐れさせることで、なりふり構わずブルゴーニュに執着させようという

酒の神の謀りか。


静かな夜に一人でいると自然と思い出される、消したくても消せない最初のブルゴーニュの記憶。


そして、それを盛り立てるように心の奥底から湧き上がってくる、過去の記憶たちのブルゴーニュへの渇望の声。

彼らは一様に叫ぶ。もう一度あれを味わうのだ、為すべきことを為せと。

記憶の叫びは徐々に一か所に集まっていき、やがて大きな一つの声になる。


「お前の死に、わたしが意味を持たせてやろう」

ロピアのアナウンスは、抗えないほどの優しさで心に響くのだ。

どこまでも優しく、暖かく、まるで真夜中を照らすコンビニの灯のように


久々にあたりのコスパ・ブルゴーニュ

あの時の赤については、何年かかっても見つけます













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