副題 住まいからはじまる支援の可能性

 

第10章 拡大する「住まいの貧困」とハウジングファースト

稲葉剛

 

1「適切な住まい」とは何か

 

ハウジングファーストとは、ホームレス状態にある人々に対して、安心して暮らせる恒久的な住まいを提供することを最優先とする支援アプローチであり、1990年代のアメリカで、重度な精神疾患をかかえ、慢性的なホームレス状態にある人々への支援手法として開発されてきた。その実践を支えているのは、「住まいは基本的人権である」という理念である。

 

~国連の社会権規約委員会

1991年 一般的意見4号

「住居への権利」

=「安全に、平和に、尊厳をもって、ある場所に暮らす権利」

 

「適切な住居」の7要素

居住権の法的安全

サービス・物資・設備・インフラが利用できること

居住可能性(habitability)

アクセシビリティ(accessibitlity)

ロケーション(location)

文化的に適切であること

 

6「社会デザイン」としての「ハウジングファースト」

 

長い時間がかかろうとも、すべての人に「適切な住居への権利」を保障する社会システムへと私たちの社会を創り変えていく必要があるのだ。

 

いわば、それは「社会デザイン」としての「ハウジングファースト」である。

そのように射程を広げると、日本の障害者地域自立生活運動や、精神科病院の長期入院患者の地域移行をめざす取り組みも、広義の「ハウジングファースト」として位置付けることができる。また近年、民間レベルでさかんになってきた児童養護施設出身者や母子家庭などへの住宅支援事業も、広義の「ハウジングファースト」と言えるだろう