「2016/05/04 通算損益」の記事の最後にちょっと触れましたが、米国株現物取引において注意しておくべき決済・取引ルールの一つである、グッドフェイスバイオレーション(日本語のいわゆる差金決済に近いものでしょうか。微妙に違うかもしれませんが)のまとめに挑戦してみようと思います。

 

※かなり長々とややこしくなってしまいました。ページ最下部の【まとめのまとめ】を最初に読んでおいた方が、以下の具体的説明を理解しやすくなるかもしれません。

 

間違っている可能性、また証券会社によってさらに細かいルールがある可能性等があるので、実際の取引で「ヤバイかな?」と思う可能性が少しでもある場合、ご自身でしっかり確認されることをオススメします!

 

 


「えっ、グッドフェイスって、もしか自分のことッスか?」
(今回は モンスターパレード攻略wiki より画像いただきました)

 

…と、意気揚々とあらわれたサイおとこ、でも残念!グッドフェイスはグッドな顔じゃなくて、Good faith、誠実/善意という意味のようですよ。顔ならまだしも、faithとこられては、サイおとこさんにはちょっと縁のない言葉だったかもしれませんね…!

 

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さてGood faith violation(しばしばGFVと略されるようです)ですが、これに深く関わるルールとして、アメリカの株取引には「T+3ルール」というものがあるようです。


…といっても別に何てことはない話で、簡単に言えば「3日ルール」(T+3はTrade date plus three daysの略だそうです)のことであり、単純に「取引で売買された株やお金が、決済されて所有権が完全に自分に移るのに、3営業日かかりますよ」というそれだけの話です。

 

さらに見方を変えて言えば、「株を買っても、3日経つまでは、あなたに正式な所有権はないですよ」(もちろん所有権が移ることは確定しているし、自分の口座には買った瞬間に「所有」と反映されるわけですが、それは便宜上そう表示してくれているだけで、実際はまだ「手続き中」にすぎない、ということになります)、そして同じように、「株を売った場合も、3日経つまでは、売って手に入ったお金はまだ正式にはあなたのものじゃないんですよ」(→だから、その資金を完全に自由に使ってはいけません、ちょっと制限を加えさせていただきます、…というのがGFVが定めている約束になるわけです)ということですね。

 

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余談:1700年代、株式取引が誕生した頃は、決済には14日間もの時間を要していたようです。今とは違い、全てが手作業で株券を用いてやっていたのでしょうから、それだけ時間が必要なのも無理ならざるや、という感じです。


そして割と最近、1970-80年代になって、技術の発達とともに決済に必要な時間は5日にまで減り、これがT+5として知られるルールになりました。これがさらにまた短縮されて、現在アメリカ株取引ではT+3になっているようです。以上Wikipediaより。

 

今後さらに技術が発達して、完全リアルタイムで全ての決済が可能になれば、T+3ルールは消滅し、決済の期間を気にする必要が一切なくなる、というのも、そう遠い未来の話ではないのかもしれませんね。
余談終わり。

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さてその“制限”ですが、GFVというのは、一言で言えば、

「未決済の株またはお金で取得したものを、さらに次の取引に使うことを禁止」

しています。

 

言い換えると、

「未決済の株またはお金を使って取引するのは認めるよ。でも、その取引で手に入れたものは、"good faith"の約束に従って、決済が完了するまでは手離さずに持っていなくちゃダメだよ」

ということになります(ちょっとややこしいですが、以下で例を示します)。

 

GFVに注意しなければいけないのは、意外にも株を買う時ではなく、売る時になります。

 

【Good faith violationが適用されてしまう例】
XYZという株を先月購入し、現在1000株保有中。全力で買ったため口座内に残された資金は0。(手数料は無料キャンペーン中につき無視できるものとします。)
→月曜日にXYZを5ドルで1000株売却しました。口座内には早速5000ドルが入り、もちろん即利用可能ですが(※注1)、T+3ルールにより、この資金が決済ずみになるのは3営業日後の、木曜日になります。
→火曜日に、ABCという株を3ドルで1000株購入しました。ここで注意しなければいけないのは、このABC株は「まだ決済が完了していない資金」で買った株であり、"good faith"の名の下に、これを売るのは決済が完了してからじゃないとダメですよ!という決まりになっている、ということなわけですね。
→水曜日に、ABCが10ドルに上がりました!やった、早速売って利益確定だ、と喜び勇んでABCを1株でも売ったとします。…はいアウトー!!あなたはGFVを犯しました。
→木曜日になれば、XYZの売却資金5000ドルの決済が完了するので、火曜日に買ったABC株は今後いつでもいくらでも売れるようになります。
また言うまでもなく、残っている2000ドルも決済ずみになっているので、例えばABCでもXYZでも今日2000ドル分買って、今日中に即売るのも何ら問題ありません。

 

(※注1:実は、XYZを購入したのが3営業日以内(=先週の木金)のことであった場合、5000ドルは即座に利用可能にはなりません!(※※注2)
これは、T+3ルールにより、月曜日時点で「XYZ株購入の決済」がまだ済んでいないため、"good faith"の約束にのっとり「未決済株を売却して得たお金は自由に使えない」という制約があるためだと思われます。
この「未決済株の売却資金」は使った時点でGFVを犯してしまうお金なので、証券会社は、3営業日が過ぎて決済が完了するまでは、自分の口座に使えるお金として反映してくれません。決済完了後、すなわち木曜日に買っていた場合であれば火曜日に、金曜日に買っていた場合であれば水曜日に、ようやくその「月曜日に売って得た資金5000ドル」は自由に使える状態になります。
したがって、「買→売→買」パターンでは、T+3が経過する前の場合、自分の口座に利用可能資金が入ってこないことから、そもそも最後の「買」を実行したくてもできず、GFVを犯すことはあり得ないということになります。
これが、上で「GFVに注意する必要があるのは、株を買う時ではなく、売る時」といった理由になります)

 

(※※注2:もしかしたら証券会社によっては違うのかもしれませんが、少なくとも自分の使っている証券会社ではそうなっています。

株を始めた初日に、物は試しにとボロ株を全力で購入し、数分後に数セント上がったら即売って、「さぁ次は何を買ってみよう」とワクワクしていたら、"Cash buying power"(=買付余力)に資金が戻ってこなくてガッカリ、というのは記憶に新しい所です(もちろん"Account value"(=口座評価額)には売った資金が反映されていたので、「売ったお金が消えた!」「盗まれた!」「バグった!」とは思いませんでしたが)。
もちろん、もし未決済の株の売却資金でも即座に買付余力に反映される証券会社をお使いの場合は、そのお金は決済(←株を売った取引の決済ではなく、買った取引の決済ですね、ややこしいですが)が済むまで使ってはいけないので注意が必要です。使ってしまったらGFVです。
…なので、これは容易にGFVを犯してしまう資金であり、大抵の証券会社では未決済の株を売っても、恐らくT+3が過ぎるまでは買付余力に反映してくれないのではないかと思います。 他の証券会社を使ったことがないので実際はどうなのか分かりませんが、「使ったら違反を犯す資金」を使える状態にする証券会社があるとは考えづらいです。)

 

 

ちなみに、1株でも未決済資金で購入した株が混在している銘柄は、その決済が完了するまで、たとえ1株でも売ったらGFVになるようです。
例:現在XYZを1000株、ABCを1000株と余力資金10ドル(全て決済ずみ)を保有。
→月曜日にXYZを5ドルで1000株売却。この時点で自由に使える余力資金は5010ドル(決済ずみ10ドルと、未決済5000ドル)。
→火曜日にABCを3ドルで5株ほど買い増してみた。決済ずみ資金だけでは足らないので、未決済資金に手をつけたことになる。この時点でABCを1005株保有。
→そのほとんどが決済ずみ資金で購入した株であるにもかかわらず、火曜日あるいは水曜日に、ABCを1株でも売ったらアウト。

 


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GFVを犯した場合、以前の記事に書いた通り、1回目は警告だけで済みます。
しかし、2回目~4回目は、違反を犯すたび、90日間の取引制限が課されます。これを喰らうと、電話でしか注文が出来なくなる上、未決済の株・資金が一切利用できなくなるそうです(=3営業日が経過するまで、買った株は絶対に売れないし、売って得た資金は一切使えない)。結構きついですね。

 

また、GFVを犯した記録がある場合(違反後1年経過で記録は抹消されます)、信用口座の申込みは原則的に受理されないようになっているらしいです。

 

そして、度々の違反通告にもかかわらず1年間で5回GFV違反をすると、その証券会社では永久に取引制限が課せられるとのことです。もしかしたらその証券会社に限らず、全ての米国株取引が制限されるのかもしれません(口座開設には個人情報を提出するはずで、証券取引監視の親玉SEC (Securities and Exchange Commssion) に問い合わせることで、証券会社は違反情報を共有できるのではないかと思います。実際どうなのかは分かりませんが…)。

まぁ、さすがにそんなことする人はいないと思うので、この辺りはどうでもいい情報だとは思いますが。

 


以上は全て現物株を扱う場合 (cash account) であり、信用取引 (margin account) においては適用されないと思われます。自分は信用取引をやっていないので詳しくは分かりませんが。

 

また、言うまでもなく、以上の話は全て「未決済資金」で購入した株の売却についての話です。ある株を売って3営業日が経過する前においても、決済ずみの資金で買った株であれば、全く問題なく売ることができます。

 

さらにもう一つだけ付け加えると、T+3ルールは現物株取引についてのルールであり、他の証券取引においては別のルールが適用されているらしいので(例:米国債はT+1ルール)、株以外に手を出す方は決済に何日かかるかをあらかじめ調べておくとよいかもしれません。

 


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以下、取り消し線を加えた部分は、全てウソ情報でした。

この情報はある証券会社のページに載っていたものを引用したのですが、万が一今後その情報を目にして混乱される方がいるといけないので、「誤った情報である」ということを明示するために残しておきます。

なお、一般的にGFVといえば上記の違反を指すことが多いのですが、"Intraday GFV"として、日本のいわゆる「差金決済」にあたる(日本の株取引ルールに関しては全くモグリなので、間違った例えかもしれませんが)、「同一銘柄を同一日に未決済資金を用いて買う」ことも禁止されているようです。

例:現在XYZ1000株と余力資金100ドル(どちらも決済ずみ)を保有。
→XYZを5ドルで1000株売却。余力資金は5100ドルになる(決済ずみ100ドルと、未決済5000ドル)。
→同じ日に、XYZを、100ドルを超えて購入するとアウト(もちろん100ドル以下の購入であればOK)。

 

ただし、この違反が課されるのは、同一日に限るようです(翌日であれば、まだ未決済ではあるものの、違反にはならないようです。なぜかは不明ですが)。
しかし、実はこの違反について述べているサイトがわずか1つしか見当たらず、他の多くのサイトではこの事例について全く触れていません。本当にこれは禁止されているのか、追って調べてみて新しいことが分かったらまた情報更新しようと思います。

 

(調査後追記)自分の使っている証券会社に問い合わせてみた所、「そのような制限はありません。もしそう書かれた情報を目にしたのなら、そのウェブサイトは誤解を招く記述になっていますね」と確認が取れました。

実はこの情報を載せているのも普通に営業していると思われる証券会社なんですが、一応確認のため「誤りかと思うのですが…」と問い合わせフォームから尋ねてみたものの、1週間近く経過しても音沙汰がない状況です。この証券会社、大丈夫なんでしょうか…??

 


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「GFVが何なのかは分かった。でも、そもそも論として、何でそんなこと制限されなくちゃいけないのさ?買ったり売ったりした時点でもう所有権が自分に移ることは確定してるんだから別によくね?今日買ったハンバーガーを、すぐ食べてもいいけど、3日経つまで出してはいけません、(体内で)持っていて下さい、good faithの名にかけて… って、それ何かバカげてね?」

 

…と思うのはもっともで、実際自分自身そう思ったりもしたのですが、それに対する回答は、どうも最終的には「それが健全な市場を維持するためのルールなんだよ」という結論に帰着する感じになるようです。


日本の差金決済に関するYahoo知恵袋の回答なので、微妙に話は違うかもしれませんが、ベストアンサーに選ばれた回答者の方の説明にもそのような旨の記述があったので、参考までに引用させていただきます。

 

---Yahoo知恵袋より---
これを書いている私も何故、差金決済は禁止なのか良く分からない。
仕手筋が同一資金でキャッチボールの様に繰り返して株価操縦する
のを防ぐ意味合いだと読んだ事がありますが、その手口は複雑で
良く分かりませんでした。
とにかく、差金決済については深くつっこまれると法律で禁止されて
いるからと逃げるしかないのが実情です。本当に難しい。

----引用ここまで----

 

 

 

以上、米国株・現物株を扱っていて、常に余力一杯全力で購入・売却をする人は、未決済の資金に手をつけてしまいがちなので、短期間で取引を行う際はGFVに抵触しないよう十分ご注意下さい、という話でした。

 


【まとめのまとめ】
・株にも資金にも、「決済ずみ (settled)」 のものと「未決済 (unsettled)」 のものとがあることに注意。


・米国株取引において、決済には3営業日かかる。

(取引日をDay0として、Day3から決済ずみになる。つまり月曜に取引したものは、木曜から「決済ずみ」として完全に自由に扱えるようになる。)

 

・「未決済の資金」で買った株は、その資金が決済ずみになるまで売ってはいけない!売ってしまうと、それが今回のトピック、Good faith violationと呼ばれる違反になる。

 

・「未決済の株」を売った場合は、その株を購入した取引の決済が済むまで、売却で得た資金は使えるお金として自分の口座に振り込まれないので、その資金について心配する必要はない(そもそも手元に来ないんだから心配すらできない)。

 

ある銘柄を売って得た未決済の資金で、同じ日に、同じ銘柄を買い戻すことはできない(要調査)

(調査後追記)↑という、日本の差金決済に近い制限(そもそもここまでなら日本の差金決済にすら当たりませんが)は存在しないので、安心してよい。