在宅介護の現場で働いていた頃、

ご本人やご家族からよく聞いたのは

「介護は突然やってきた」という言葉でした。

確かに、ある日を境に生活が一変することは少なくありません。

しかし、関わりを重ねて見えてきたのは、

人生の終盤にあるのは、

むしろ日々の小さな積み重ねの先にある現実なのだということです。

 

幸せだと語る人もいれば、

後悔や恨みを繰り返し口にする人もいました。

未来の過ごし方は、日々の積み重ねで大きく変わるのです。

その現場での気づきをヒントに、

私たちが「未来を描くことの意味」を一緒に考えてみましょう。

 

「介護は突然やってくる」という言葉の裏側

在宅介護の現場で、

私は多くの「介護は突然やってきた」という声を聞きました。

確かに、病気で倒れた日、

警察より親を保護していると連絡があった日など、

ある日を境に生活が激変することは少なくありません。

 

しかし、そこには必ず、

その「突然」の日に至るまでの道のりがあります。

たとえば、少しずつ歩くのが億劫になったり、

食事の量が減ったりする「フレイル(虚弱)」の段階です。

この段階で気づき、対策をしていれば、

もっと緩やかに暮らしを整えられたかもしれない

——そう思う場面は決して少なくありませんでした。

人生の終盤は、突発的な出来事だけで決まるのではなく、

それまでの小さなサインを見過ごしてきた積み重ねでもあるのです。

 

介護の現場で見た“人生の集大成”

介護は、その人の人生の集大成を垣間見る時間でもあります。
私が出会った方々の中には、

「いろいろあったけど今が一番幸せだ」と

穏やかに話す人もいれば、

「あのとき別の選択をしていれば」と

後悔を口にする人もいました。

また、若い頃の思い出を繰り返し語り続ける人もいましたし、

配偶者への不満や恨みを途切れることなく話す人もいました。

反対に、「みんなに支えられてここまで生きてこられた」と

感謝を伝える人もいました。

心理学では、人は未来の後悔を避けるために

行動する傾向があることが知られています

後悔回避:Regret Aversion)。

けれど実際の介護の現場では、

未来を考えずに積み重ねてきた時間が、

むしろ大きな後悔につながっている姿も少なくありませんでした。

 

 

未来を考えることを避けてしまう私たち

私たちは将来のことを考えようとすると、

不安や恐怖に直面します。

だからこそ「今が大事だから」と目の前のことを優先し、

未来を考えるのを後回しにしてしまうのではないでしょうか。

 

これは心理学でいう現在バイアス(Present Bias)とも重なります。

人は「未来よりも今の快適さ」を優先してしまうため、

先の準備を後回しにしがちです。

けれど未来は、考えないからなくなるわけではありません。

考えるのを避けた結果、気づけば選択肢が減っていたり、

後悔が募ったりすることもあるのです。

介護の現場で出会った人々の姿は、

その事実を静かに教えてくれていました。

小さな積み重ねが未来をつくる

幸せに歳を重ねている人たちは、

特別なことをしてきたわけではありません。

日常の小さな習慣や感謝の言葉を大切に積み重ねてきた人たちでした。
反対に、後悔や恨みにとらわれ続ける人たちは、

過去の出来事を繰り返し語り、

気持ちを手放せずにいました。

つまり、未来は「突然」訪れるものではなく、

日々の積み重ねの延長線上にあるということです。

今の自分の在り方が、30年後、40年後の自分を形づくっています。

未来を描くことは不安ではなく安心になる

「未来を描く」というと、

漠然と不安を感じる人も多いかもしれません。

けれど介護の現場で見たのは、

未来を避けてきた人ほど後悔が残り、

未来を少しでも描いてきた人ほど安心して今を生きている、という姿でした。

研究でも、

未来を具体的にイメージする力(Episodic Future Thinking)を持つ人は、

行動の先延ばしが少なく、

より健全な選択をする傾向があるとされています。

つまり未来を描くことは、

後悔を減らし、

今の生活を豊かにする力でもあるのです。

 

「どんな老い方をしたいか」

「どんな人と過ごしていたいか」を考えてみることは、

難しいことではありません。

それは、未来に備えるための設計図であり、

今をより良く生きるための道しるべになります。

未来を描くことは、

不安を大きくするのではなく、

安心をつくる行為なのです。

 

まとめ|介護の現場から得た生き方のヒント

在宅介護の現場で見たのは、

「未来は突然ではなく、積み重ねの先にある」ということでした。
幸せを語る人も、後悔を繰り返す人も、

その姿は日々の小さな選択の延長線上にあります。

だからこそ今、私たちにできることは小さな一歩です。

今日の自分の選択を大切にすること。

そして、未来を不安として避けるのではなく、

安心のために描いてみること。

介護現場からの気づきが、

あなたの「これから」を考えるヒントになれば嬉しいです。

 

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