経済現象については、様々な説明ができるため、説明の仕方によっては、それぞれ違った認識になってしまう場合があります(経済学の右回り左回り)。国債発行という一つの行動も、様々に説明できるがゆえに、肝心なことが分からなくなってしまうこともあります。今回再度国債発行の結果の意味を考え直してみます。
政府が国債を発行し、財政出動するプロセスを再掲します。何度も書いていますので、簡単にその流れを書くと、①銀行の日銀当座預金を政府預金へ振り替え、②政府は政府小切手で企業に支払いし、③企業は政府小切手を銀行に持ち込み、銀行預金に変え、④銀行は政府小切手を日銀に持ち込み日銀当座預金を回復する。と説明されています。しかし、この説明を何度聞いても、狐につままれたようで、いつの間にか銀行預金が増え、いつの間にか銀行の日銀当座預金が戻っているという、いつの間に感のみが印象に残って理解をむしろ妨げてしまうのではないでしょうか。とりあえず結果だけ考えてみましょう。
結果、日銀当座預金に動きはありません。銀行の資産に国債が出現し、負債に銀行預金が発生します。この結果だけみれば、我々民間の貸し出しと何ら変わらないことが分かります。我々は、銀行のローンを組む際など、借用証書と引き換えに、銀行預金の新規発行が行われます。銀行に政府の口座はないと思いますが、国債も同じで、政府の借用証書である国債を銀行に入れて、銀行預金を新規発行したのと全く変わりません。上記、国債発行財政出動のプロセスを説明する際、「政府は、銀行から日銀当座預金を借りる」という言葉が非常に気になっていましたが、何のことはありません、結果だけ見れば、政府は銀行から、銀行預金を借りているのです。日銀当座預金を借りるの「借りる」は、本当に借りていて、日銀当座預金が増えているわけではありませんが、結果からの銀行預金を借りるの「借りる」は、明らかに「信用創造」であり、銀行預金の新規発行を意味します。つまり、国債発行財政出動のプロセスを次のようにも説明できます。
政府は、国債を銀行に提出することで、銀行預金を新規発行してもらい、企業に支払いをする。・・・A
この説明だと、いつの間に感は無く、国債発行とは、銀行預金の新規発行であることが意識できます。
以前にも書いたのですが、別の説明の仕方もできます。スペンディングファースト的な説明です。と言いますか、これが現実の流れではないかと考えるのですが。簡単に再掲しますと、①政府短期証券の発行により、政府預金を新規発行し、②政府は政府小切手で企業に支払いし、③企業は政府小切手を銀行に持ち込み、銀行預金に変え、④銀行は政府小切手を日銀に持ち込み日銀当座預金が政府預金から振り替えられる。この時点で、銀行預金と、日銀当座預金の両方が創造され増えています。⑤この増えた日銀当座預金で、銀行は国債を購入し、政府は日銀当座預金を政府短期証券の償還に使って消してしまえば、結果は同じです。前回記事に書いたのですが、この流れで説明すると次のようになります。
政府は新規に銀行預金と日銀当座預金(MS,MB)を発行し、企業に支払いをする。銀行は増えたMBで国債を購入する(MBは政府短期証券の償還に使われ消える)。・・・B
Aの説明とBの説明と、結果は全く同じなのですが、全く違う印象を持ちます。Bから見えてきたことは、「国債とは増えたMBを減らす行為である」という事実です。と言いますか、AもBも同じですが、この国債を日銀が買い取ればMBが元に戻って増え(Aだと新規発行)、再度銀行が買い戻せばMBがまた減る・・・というわけで、「銀行所有の国債=日銀当座預金=MB」に他ならないという事実です。ということで、AとBを融合しますと、
国債発行とは、銀行預金の発行であり、かつ日銀当座預金の発行と同義である。
と言えそうです。ものすごく当たり前になりますが、政府がお札を刷って企業へ支払っているのとも同義となります。ここまで理解したうえで、「国債発行とは新規貨幣発行と同義」だと理解している人はいるのでしょうか。もしいるのであれば、はっきりと言いたいのですが、前回、前々回の私の記事にある疑義です。
日銀による国債買い取りは、おカネを増やしたと言えるのですか??
私はどう見ても、政府が支出をした時点、或いは国債を発行した時点ですでにおカネは発行され増えており、国債か、日銀当座預金かという形を変えただけとしか見えませんが。
ということで、おカネとは何かが見えてきたような気がします。