「でも、心配しないでね。大丈夫、何とかなるってもんよ……こう言う事はさ!」
ピースポーズをしながら愛花は私に明るい笑顔を見せる。
……心が張り裂けそうになる。
「だからさ、ライトも心配しなで!」
肩を軽くトントン叩かれる。
私は肩を叩く愛花の腕を優しく掴んだ。
それに驚いたのか、愛花の口から「え……」と言う言葉が溢れる。
こちらも我慢の限界だ。
私は愛花に顔を向ける。そして彼女の目をじっと見つめながら――。
「我慢するなよ、全部ぶちまけろ。お前の今思っている本当の気持ちを」
そう、彼女に呟いた。
すると、愛花は力が抜けたかのように顔をうつむかせた。
彼女の目から涙が静かに落ちていくのが分かる。
「……なん、で……どうして……」
自身の両肩を摩りながら愛花は震えた声で呟く。
「皆……分かってくれない。自分達が危なくなるからって……今まで一緒に暮らしてきたのに……なのに、どうしてッ!」
そう言いながら、彼女は泣き出した。
勿論、子供の様に大声を上げながらではないが。
「――人間なんて、そんなもんだ」
窓から外の風景を見つめながら呟く。
「誰もが同じなんだ。自分達が危なくなったら、他者を平気で切り捨てる。……この間の私みたいにさ」
「……でも、ライトは罪悪感を感じてたじゃないッ! それでも許せなかったってのがあの時の私の気持ちではあったけど……。でも、寮の皆は……罪悪感なんて一ミリを感じちゃいなかった……。どいつもコイツも、エレナに向かって『お前が居ると迷惑なんだ』とか……『お願いだから早く出てって』とか……今までの皆からは想像も出来ない言葉だった……。それで私は思ったの、あぁ……これが人間の醜さなんだって」
身勝手な人間、自己中な人間。
言ってしまえばこれが人間の本質とも言えるだろう。
でも、愛花達はそれに気づかないで今まで生きてきたのだ。
まぁ、大人になれば嫌でも直視しなければいけない事なんだけど。
だけどコイツらは……こんな早期に直視しなければいけなくなっていまった。
……けど。
「――お前らが見た物なんて、まだマシな方だよ」
「……マシ?」
「……人間はそれなんかよりもっと醜い生き物なんだから。まだ他者を切り捨てるなんて可愛い方だ」
ベッドから立ち上がり、コート掛けに掛けてあった赤コートを羽織る。
「……ライトは、もっといろんな物を見てきたのよね。……だから、なの?」
「何が」
そう聞き返しながら私は愛花に顔を向ける。
と、さっきまでうつむいていた彼女の顔がコチラに向けられていた。
「だからライトは……周りを拒絶するかのような態度をするの?」
「……かも、しれないな」
そう答えると愛花はまたうつむいてしまう。
スカートを力強く握っている彼女の手は微かに震えていた。
私は閉じられた窓を静かに開ける。
カーテンが外から入ってきた風によりゆらりと揺れた。
それと同時に街を行き交う人々の話し声なども聞こえてくる。
この街はとても美しいと思う。
だけど、それもしょせんは表向きだけなんだ。
この街を行き交う人々の中には、どれだけ酷く、挫折した者が居るのだろう。
相手を蹴落とし、陥れた奴はどれだけ居るのだろう。
裏切った奴、相手の人生を台無しにした奴はどれだけ居るのだろうか。
そんな事を、私は昔から考えていた。
「……どんな物を見てきたの?」
と、唐突に愛花がそんな事を聞いてくる。
私は愛花に向き直り彼女の目の前に移動する。
「――他人を嘲笑う人間、蔑む人間、罵る人間、陥れる人間……そして」
私は窓に再度顔を向けながら――。
「娘を殴りつける父親」
と、そう小さく呟いた。
/続く
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